東京オリンピックの招致活動における不正・買収

(以下は『サンデー毎日2019年2月3日号』から抜粋)

2016年5月に、フランスの検察は東京五輪の招致を巡り、汚職や資金洗浄で捜査を行っていると明らかにした。

その後は続報がなかったが、2019年1月12日にフランスのル・モンド紙がこう報じた。

「2020年東京五輪の招致委員会が2013年に、シンガポールのコンサルタント会社であるブラックタイティングス社に支払った2.3億円。
その一部が賄賂ではないかと見たフランス司法当局は、正式に捜査を開始した。

招致委員会の理事で、いまもJOC(日本オリンピック委員会)会長である、竹田恒和が、2018年12月10日にパリで事情聴取をうけた。」

この捜査を担当しているリュインベック判事は、シラク元大統領や、サルコジ元大統領の汚職事件を担当した人物である。

ちなみに東京五輪招致委員会は、東京都知事(石原慎太郎、猪瀬直樹)が会長を務め、副会長は元首相の森喜朗や、竹田恒和らである。

最高顧問は、当初は野田佳彦・首相だったが、政権交代で安倍晋三に代わった。

2019年1月15日に、竹田恒和は釈明の記者会見を開いたが、「私は意思決定プロセスに関与していない」と主張した。

ブラックタイティングス社との契約について、「組織としての判断が先にあり、自分は理事長として押印したにすぎない」との立場を強調した。

竹田はメッセージを読み上げると、質疑に応じず退席してしまった。

五輪の汚職では、2017年10月に、ブラジル・オリンピック委員会のカルロス・ヌズマン会長が逮捕されている。

2016年開催のリオ五輪の招致において、国際陸上競技連盟のラミン・ディアク会長の息子であるパパマッサタ・ディアクに、ブラジル企業が200万ドルを渡し、裏金と見なされたからだ。

今回の東京五輪招致の疑惑は、リオ五輪の時と、あまりに共通項が多い。

支払った相手も金額も同じだからだ。

2019年1月17日にはシンガポール裁判所が、ブラックタイティングス社のタン・トンハン元代表を汚職で有罪判決した。

トンハンは、パパマッサタ・ディアクの友人だが、同社には業務実態がなかったことも確認された。

東京五輪招致委員会が、ブラックタイティングス社にカネを振り込んだのは、2013年の7月と10月である。

これは、開催地を決めるIOC総会の2ヵ月前と翌月にあたる。

だから、票を買う契約金と、招致の成功報酬だと見られている。

元JOC参事の春日良一は言う。

「ソウル五輪以降、普通の外交では招致できないと分かっていますから、どこかでライバルに差をつける必要があります。」

1980年のモスクワ五輪の時、日本政府の圧力で、出場をボイコットさせられた日本スポーツ界は、強い決意で9年後にJOC独立を成就させた。

しかし当時のリーダー達は居なくなり、「今では主導権が政治家や代理店に奪われている」と春日良一は悔しがる。

「五輪の商業化に舵を切る分岐点となった」と言われる1984年ロサンゼルス五輪の時、ピーター・ユベロス組織委員長の懐刀として活躍したのが、電通である。

それ以来、電通はスポーツ・ビジネスに深く関わり、東京五輪の招致でも代理店を担った。

2016年五輪の開催地に東京が立候補した時は、石原都知事らが中心だったが惨敗した。

その後に招致活動のリーダーとなったのが、元首相の森喜朗だ。

そして日本政府と電通が、招致活動を主導する構造に移った。

以上の流れを考えれば、ブラックタイティングス社へカネを払うことを決めたのは、日本政府(自公政権)か電通ではないのか。

2年半前の報道によると、ブラックタイティングス社を推薦したのは元電通専務で、彼は招致委員会の理事だった。

奇しくも記者会見で、竹田恒和は言っている。

「招致委員会の事務局は、オールジャパン体制で業務を行っておりました。」

再び春日氏の話である。

「ブラックタイティングス社から、売り込みのレターが届いた。

代理店(電通)が精査したところ、アフリカ票を取るという課題に合っていた。

それで契約したと聞いています。」

行うべきことは、オリンピックにおける「マネー・ファースト」を除去することであり、スポーツが政界や財界から自立する事だ。

(以下は『東洋経済ONLINE 2016年5月18日の安積明子の記事』から抜粋)

英国のガーディアン紙が2016年5月11日に報じた、東京オリンピックの裏金疑惑。

日本の銀行から130万ユーロ(約1億6000万円)が、シンガポールにあるBlack Tidings(ブラック・タイディングス)社の「秘密口座」に振り込まれていた。

秘密口座の所有者は、「イアン・タン・トン・ハン」である。

この口座を経由して、1999年から2015年まで国際陸上競技連盟会長を務めたラミーヌ・ディアック氏へとカネが渡っていた。

もっと詳しく言うと、国際陸連のコンサルタントを務めるパパ・マッサタ・ディアック氏(ラミーヌ・ディアックの息子)を経由して、ラミーヌ・ディアックへカネが渡った。

ラミーヌ・ディアックはIOCのメンバーで、オリンピックの開催地を決定する投票権を持つ人だった。

上記の裏取引を発見したのは、フランスの国家財政金融検察局だ。

同局は、ロシア選手のドーピング事件をきっかけに、国際陸連の汚職や資金洗浄を捜査していた。

その結果、2013年の7月と10月に、「東京2020オリンピックの誘致」という名目で、日本の銀行にある口座から、シンガポール所在のブラック・タイディングス社に280万シンガポール・ドルが振り込まれたのを確認した。

同局は、ブラック・タイディングス社がパリで大規模な購買活動を行っていたことも把握し、オリンピック招致に絡んだ金銭要求の情報もキャッチした。

ブラック・タイディングス社とは、何者なのだろうか。

2016年1月14日に、世界反ドーピング機関(WADA)が発表した第2回調査報告書には、こう書かれている。

「ヒンディー語でブラック・タイディングスとは、『闇マーケティング』や『黒いカネの洗浄』という意味がある」

同社の口座は、ロシア選手のドーピングの隠ぺいに絡む金銭のやりとりに使用されていた。

2016年5月16日の衆院予算委員会で、民進党の玉木雄一郎・議員の質問に対し、馳浩・文部科学相は次のように答弁した。

「オリンピック招致は、2013年8月が山場だった。

日本は、(福島原発の)汚染水問題で厳しい状況にあった。

日本の招致委員会は、最終的にコンサル会社に頼らざるを得ないと判断し、電通に確認した。

電通から、『ブラック・タイディングス社が実績がある』と勧められ、招致委員会が契約した。

ブラック・タイディングス社から請求された金額を、一度に全額払うことはできず、2度に分けたと聞いている。」

2020年五輪の開催地が東京と決まったのは、2013年9月7日だ。

ブラック・タイディングス社へ支払いを行ったのは、2013年の7月と10月。

開催地の決定をまたいでおり、2度に分ける理由は「手付金と成果報酬」にも見える。

次に述べるが、招致予算は豊富であり、「一度に全額払うことができず、2度に分けた」という弁明は苦しい。

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の予算は、実に豊富だった。

2012年度には、2億2770万円の補助金等が入っており、寄付金は23億6653万円にも上る。

2013年度には、補助金等収入は6億8226万円で、寄付金は25億2445万円。

2年の合計で、58億円以上の補助金や寄付金があった。

前述した世界反ドーピング機関の調査報告書は、こうも記している。

「トルコ(イスタンブール)は、ダイヤモンドリーグや国際陸連に400万ドルから500万ドルを支払わなかったため、ラミーヌ・ディアック氏の支持を得られずに落選した。

日本(東京)は支払ったので、オリンピック開催を獲得した。」

この報告書は、ブラック・タイディングス社のイアン・タン・トン・ハン氏にも触れている。

「電通の関連会社である電通スポーツが、スイスのルセーヌにアスレチック・マネジメント・アンド・サービス(以下AMS)というサービス会社を設立している。

同社は、国際陸連による商業権利の売買や移管を目的としている。

AMSは、イアン・タン・トン・ハン氏を2015年の北京大会を含む国際陸連の世界選手権や、その他の世界陸上でのコンサルタントとして雇っていた。」

民進党は、「オリンピック・パラリンピック招致裏金調査チーム」を立ち上げ、疑惑を追及している。

同調査チームに提出された資料には、ブラック・タイディングス社の主たる業績として、次の事が記されている。

「2015年世界陸上北京大会の招致コンサルタント、マーケティング」
「2008年北京オリンピックのホスピタリティサポート」
「ボアオ・アジア・フォーラム」
「2012年イスタンブール世界室内陸上競技大会」

だがブラック・タイディングス社は、本当にこれだけの実績があるのだろうか。

シンガポールにある同社の所在地は、簡素なアパートで、看板もない。

欧米のメディアは、同社を「ペーパーカンパニー」と報じている。

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の竹田恒和・元理事長と、樋口修資・元事務局長は、2016年5月13日に声明を出して、こう述べた。

「ブラック・タイディングス社への支払いは、受けたサービスに対するコンサルタント料で、新日本有限責任監査法人等により正式に監査を受けた。

彼らは、アジア中東の情報分析のエキスパートであり、その分野におけるサービスを受け取っている。

なんら疑惑をもたれる支払いではない。」

裏金ではないという証明責任は、招致委員会を引き継いだJOCにある。

だが、民進党の「調査チーム」に出席したJOCの関係者は、質問に対して「守秘義務があり、弁護士から言うなと言われている」と説明を拒否した。

肝心のイアン・タン・トン・ハン氏に対する調査も、JOCは「我々が接触すれば、隠ぺい工作をしていると批判される」と何もしていない。

(以下は『週刊文春2023年12月28日号』から抜粋)

東京オリンピックの汚職で罪に問われている1人が、大会組織委員会の元理事、 高橋治之(たかはしはるゆき、79歳)である。

高橋治之は、元は電通の専務だった人である。

検察は、高橋がスポンサー企業の選定や、公式商品のライセンス契約で、便宜を図り、見返りにカネを受け取ったと指摘している。

すでにカネを渡した企業側は、11人の有罪が確定している。

検察は、『高橋は代表をつとめる会社「コモンズ」などを受け皿にして、総額2億円の賄賂を受け取っていた』、と述べている。

東京オリンピックの大会組織委員会は、スポンサー企業との契約は、会長の森喜朗に事実上は一任されていた。

そして森喜朗がスポンサー集めを任せたのが、高橋治之だった。

東京オリンピックのマーケティング専任代理店に指名されたのは電通で、電通はADKや大広(だいこう)の協力を得つつ、スポンサー契約に動いた。

その際、高橋の提案で、「1業種に1社」の原則は撤盛した。

その結果、スポンサーとなった68社から、3761億円を集めた。

コロナウイルスの流行でオリンピック開催が1年延期になった際、各スポンサー企業に1億円の追加金を求めたことも、法廷で明かされた。

なお高橋は、2023年4月にコモンズの代表を妻に譲っている。

東京オリンピックの招致活動では、2023年11月17日に石川県知事の馳浩(はせひろし)が新たな証言をした。

彼は、安倍政権の時に、自民党の「五輪招致推進本部」の本部長だった人だ。

馳浩は、『投票権を持つIOC委員たちに、内閣官房報償費(機密費)を使って贈り物をした』と述べた。

当時の安倍晋三・首相から、「必ず招致を勝ち取れ。カネはいくらでも出す。官房機密費もあるから」と言われた馳浩は、百人をこえるIOC委員の全員に、1冊20万円のアルバムを贈ったのである。

高橋治之は、複数の関係者に、こう話している。

「私は安倍首相に、『過去に五輪招致に関わった人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくない。』と言った。

すると安倍さんは、『絶対に捕まらないようにするから、五輪招致をやってほしい』と言ったんだ。

だから招致に関わった。」

高橋治之は、アフリカの票を握るIOC委員のラミン・ディアクと、その息子を買収しようとした。

招致委員会の口座記録では、高橋のコモンズに対し、2013年2月25日から開催地決定後の14年5月28日までに、8.9億円が支出されている。

このカネが買収に使われたのだ。

2016年5月にガーディアン紙は、東京オリンピックの招致における買収疑惑を報じた。

フランスの司法がラミン親子を捜査して、『日本の招致委員会が、ラミンの息子の関係する口座に2.2億円を振り込んだこと』を突き止めた。

フランス司法から要請されて、日本の特捜部は2017年に、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和・会長を尋問した。

2018年12月には、フランス当局が竹田恒和を尋問した。

東京オリンピックのスポンサーになった1社の接待リストを、特捜部は入手している。

そのリストを見ると、2015年3月から16年3月までに255件、合計890万円を交際費として、大会組織委員会の幹部や、電通の役員を高級店で接待している。

(以上は2024年5月20&27日に作成)

(以下は『週刊文春2024年6月20日号』から抜粋)

2005年7月17日に高橋治則(※高橋治之の弟)は、くも膜下出血で倒れ、翌日に死亡した。

通夜には田中角栄の金庫番だった、「越山会の女王」と呼ばれた佐藤昭子も訪れた。佐藤は「治則に10億円以上も貸している」と話した。

治則は生前、「元金は返したが、高い金利を払わされている」と周囲に説明していた。

高橋治則の告別式には、安倍晋三も来た。

安倍は、翌年に行われた治則の長女の結婚式にも出席した。
この結婚式では、安倍は亡き治則との交友を語った。

高橋家と安倍家は深い関係があった。

治則が亡くなると、兄・治之の許を健康器具を売る会社を経営する女性が訪れた。
彼女は治則の愛人で、「私の面倒を見てほしい」と言ったが、治之は断った。

この女性は、治則の勧めで7500万円のローンで家を買っていた。
支払いを治則にしてもらう約束だったが、治則の死でローンを払えなくなった。

同じく治則の愛人の北山裕子(仮名)も、治則の勧めで6500万円のローンでマンションを買った。
しかし治則の死で払えなくなった。

裕子がマライア・キャリーの東京ドーム公演のチケットをねだった時、治則は兄・治之に頼んで、電通のコネでチケットを入手した。

裕子が「ポルシェが欲しい」とねだると、治則は中古のポルシェをプレゼントした。

治則の死後、裕子は治則と関係の深い70代の会社経営者に連絡をとった。
この男は墓石や不動産を売り、安倍家とも近しい人だが、治則に10億円以上貸していたと話した。

高橋治則の遺族や、兄・治之は、治則の財産の相続を放棄した。
治則はカネに困るたびに、高金利の金融業者から借りていた。もし相続すると、借金が次々と顕在化する恐れがあった。

治則が経営していた「草月グループ」は、不動産などを軒並み競売でとられて崩壊した。

その後、草月グループのユニオン・ホールディングスは、横濱豊行・社長が2009年11月に相場操縦の疑いで逮捕された。

その前月には、治則の金庫番をしていた三浦が、首吊り自殺した。
翌日に相場操縦で検察から参考人聴取の予定だったという。

(以下は『週刊文春2024年7月18日号』から抜粋)

新型コロナの世界流行を受けて、2020年3月3日のIOC理事会では、東京五輪の中止を発表することを検討した。
次は2024年のパリ五輪にする方向で調整した。

これを知った高橋治之(当時は東京五輪組織委員会の理事)は、3月10日付のウォール・ストリート・ジャーナル電子版にインタビュー記事をのせた。

そのインタビューで、「東京五輪の1年か2年の延期」を提案し、「もし中止すればアメリカのNBCがIOCに支払っている放映権料だけでも大損になる」と指摘した。

IOCにとって、米国での放映権料は主要な財源である。

森喜朗はこのインタビューについて、「とんでもないことだ。高橋さんに軽率な発言は憧んでほしいと申し上げた」と語り、火消しに躍起だった。

高橋治之は当時を振り返り、こう言う。

「IOCが東京五輪の中止を決定したら、もうひっくり返せない。
阻止するには米国政府に延期を認めさせることだった。

ウォール・ストリート・ジャーナルを選んだのは、トランプ大統領の愛読紙だったからだ。

記事を読んだトランプは1年延期を提案し、慌てて安倍首相がトランプと電話会談した。USOC(米国オリンピック委員会)も1年延期に追随した。」

そして3月24日に安倍晋三とIOC会長のトーマス・バッハの電話会談があって、東京五輪の1年延期が決定した。

面子をつぶされたバッハの怒りは収まらなかった。
バッハは森を通じて、高橋治之を東京五輪組織委員会の理事から外すよう求めた。

2020年5月の末頃、森喜朗や高橋治之は会合した。

この席で森は、IOC会長のトーマス・バッハの意向として、治之に東京五輪組織委員会・理事を辞任するよう求めた。

治之は机を叩いて怒った。

その場にいた電通の中村潔も、同じく高橋治之に辞任を迫った。

中村は、治之の元部下で、森とIOCのパイプ役になっていた。

ちなみに中村の兄は、DAZNの日本法人の社長である。

辞任要求に対し高橋治之は、「絶対に辞めない」とまくし立てた。

困惑した森は、「私にも立場がある。辞任しないなら、代わりにバッハに詫び状を書いてほしい」と求めた。

治之は後日、バッハに謝罪のメールを送った。

その一方で森は、バッハにこう釘をさしたという。

「高橋治之は、IOCの会長選挙であなたがラミンの支援を受けたことを知っている。
彼を辞めさせると、面倒なことになるかもしれない。」

東京五輪の1年延期が決定した直後の2020年3月31日に、ロイター通信は高橋治之が東京五輪招致の際、招致委員会から820万ドルのカネをもらい、IOC委員に働きかけたことを報じた。

招致委員会の口座記録によると、高橋治之が代表をする「コモンズ社」の口座に初めてカネを振り込んだのは2013年2月15日で、金額は4725万円だ。

そこから招致が決まった後の2014年5月28日まで、コモンズ社への支払は計17回に及んだ。

招致委員会は、電通の協力を得つつ、1社につき2.1億円で招致スポンサーを募っている。

高橋治之の仲介でスポンサー契約した場合は、治之に3割が手数料として支払われたという。

電通の元雑誌局長・深見和政は、2012年に「コモンズ2」社を設立し、治之のパートナーとなった。

(2024年11月26日に作成)


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