兵庫県の告発文書と斎藤知事

(以下は『週刊文春 2024年9月5日号』から抜粋)

2024年3月12日に、兵庫県職員のX氏が作成した文書が、県関係者や県警、報道機関などに送付された。

この文書は、「斎藤知事のパワハラ」、「2021年の知事選における違法行為」 、「2023年の阪神・オリックス優勝パレード開催費の不正」など、7つの疑惑を告発していた。

上の告発に対し県庁は、作成者がX氏だと調べ上げて、X氏の公用PCを押収した。

その後、このPC内にあった私的文章が、県庁内外で出回った。
X氏は「死をもって抗議する」とのメッセージを遺して、自死した。

兵庫県ではさらに、X氏の告発文書にあった優勝パレードの担当課長が、2024年4月20日に自死している。
しかもこの死は県が公表しなかった。

2人の職員の自殺が報道されると、斎藤知事の側近の片山副知事、総務部長、理事が離任した。

一方、兵庫県議会は真相解明のため、百条委員会を設置した。

なお斎藤知事は、2024年8月7日の会見で、自らの指示で副知事らに告発文書の調査をさせたと認めている。

斎藤知事は、3月20日に告発文書を見て、翌21日に片山副知事らに調査を命じた。

百条委員会における県職員の証言で、3月22日に人事課長が、デジタル改革課にX氏ら数人の電子メール1年分のデータを提出させたと分かった。

事実、3月25日の片山氏のX氏への尋問では、片山氏は「1年間の記録を全部チェックさせ、色んな名前が出てきた」と語り、「○○か?」「◎◎か?」と尋ねて、X氏の協力者を割り出そうとしている。

片山副知事は、3月25日にX氏の公用PCを押収したが、その時にX氏を尋問している。

この時にX氏は情報源を守るため、誰から聞いたかを明かさなかった。

斎藤知事はこれを利用し、「告発内容は噂話にすぎず、真実相当性はない」と主張している。

県職員の証言で、調査された職員はX氏だけでなく、Y氏、Z氏を入れた3人だと明らかになった。
そして、3月25日の午前10時半に同時に3人を強制調査するため、手順の指示書が作られていた事も明らかになった。

なおY氏は、告発文書の存在すら知らなかったが、尋問され、LINEの履歴まで調べられた。

Y氏が3月25日に強制調査されている時、片山氏の取り調べから解放されたX氏からY氏に電話があった。
これを見た県幹部のY氏調査員は、「スピーカーで話せ」と命じて、Y氏に質問を指示してスパイ行為をさせた。

斎藤知事は、告発文書の件で2024年5月7日にX氏を懲戒処分にした。

斎藤氏は懲戒処分について、弁護士に相談したと言うが、その弁護士とは藤原正廣氏である。

藤原氏は、県信用保証協会の顧問弁護士だが、同協会はX氏の告発文書で疑惑を指摘されており、利害関係者なので中立性が怪しい。

兵庫県が藤原氏にこの件を相談した時の文書を見ると、県は「誹謗中傷を含む文書」として相談している。
「公益通報」ではなく、「誹謗中傷」として相談している。

ちなみに相談料として、藤原氏には52.8万円が支払われた。

公益通報制度に詳しい中野真・弁護士は、次のように話す。

「公益通報者を特定しようとすることは、公益通報者保護法に違反している可能性がある。

また、通報された側の斎藤知事がこの件を調査したことは、不適切である。」

(以下は『週刊文春 2024年10月10日号』から抜粋)

兵庫県の斎藤元彦・知事は、2024年9月19日に県議会で不信任決議をうけた。

斎藤氏は9月26日に失職し、出直し知事選に出馬すると表明した。

斎藤知事の最後の登庁日、見送りの職員の姿はほとんどなかった。

県OBは言う。

「斎藤氏は、県OBが天下りした外郭団体を使って、自らのパーティ券を売っていた。

それなのに彼は、『私は天下りを廃止した』と胸をはっている。

片山・副知事も、OBたちに天下り人事をちらつかせて、言うことを聞かせていた。

斎藤氏は前回の知事選では、ポスター貼りや選挙カーの手配などを、すべて自民党と維新の会に頼っていた。」

県議会の関係者はこう話す。

「自民党は、今回の知事選では、裏金問題で党員資格が停止中の西村康稔が暗躍しているらしい。

元経産省の官僚で、パソナの元顧問でもある中村稔(62歳)を候補者として送り込んできたので、県議たちは困惑している。」

ある県議が言う。

「自民党の古参県議は、表立っては斎藤氏を支援できないので、あえて県連を分裂させて票を割ろうとしている。

票が割れると、熱狂的なファンがいる斎藤氏に漁夫の利が生じる。

本来ならば自民党と維新の会は、前回の知事選で斎藤氏を推薦した責任をとり、今回は自主投票にするのがスジなのだが…。」

(以下は『週刊文春 2024年11月28日号』から抜粋)

「#さいとうさん生まれてくれてありがとう」、こんな言葉がSNSでトレンドワードになったのは2024年11月15日だ。斎藤元彦氏の誕生日だった。

斎藤が兵庫県知事選挙で勝利した原動力は、「SNS部隊」だった。

ネット空間に集まった斎藤支持者たちは、LINEのオープンチャットを使って情報拡散の指令を出し、バズリを発生させた。

オープンチャットの記録を見ると、SNS部隊の人数は400人ほどで、情報や動画を共有し、それぞれのアカウントで発信していた。

対立候補の稲村和美のネガティブ・キャンペーンを促す提案も、チャットでは出ていた。

SNSでの熱狂は、2024年7月に行われた東京都知事選における石丸伸二・候補とも重なる。

石丸支持者と斎藤支持者のアカウントが重複しているとの分析もある。

石丸の選挙参謀である藤川晋之助は、こう話す。

「石丸の支援部隊が、国民民主党の玉木雄一郎を支援する玉木部隊になり、さらに斎藤部隊になった。

ウチの関係者の部隊は、30人ぐらいが斎藤支援に参加した。」

もう1つ、斎藤元彦が勝つ原動力になったのが、N党の立花孝志・党首である。

兵庫県政担当の記者が解説する。

「立花氏は、当選を目指さずに、斎藤氏の支援として知事選に出馬した。

立花氏は、『X氏(告発者)は個人情報が公表されるのを恥じて自死した』などと、根拠不明の説を発信した。」

対立候補だった稲村和美は、選挙戦をこう振り返る。

「私は反日極左とネットで言われ、既得権の象徴のように言われた。」

東大大学院の鳥海不二夫・教授は、こう分析する。

「斎藤支持のSNS投稿が一気に増えたのは10月27日頃で、立花氏がYouTubeで斎藤支持での出馬会見をアップした時期です。」

兵庫県議は言う。

「知事選の投開票日の翌日に、百条委員会のメンバーである竹内英明・県議が議員辞職しました。

SNSで誹謗中傷され、家族も本人も精神的に参ってしまったのです。

百条委員会の奥谷委員長は、会見を開き、『選挙期間中に立花氏が私の自宅前に来て行った演説で脅迫された」と述べました。

立花氏から『引きこもってないで出てこいよ』、『これ以上脅して奥谷が自死しても困るので、これくらいにしておく』と言われたと、訴えました。」

兵庫県庁のアンケートによると、約4割の職員が斎藤知事のパワハラを見聞している。

県職員の1人は言う。

「県庁内は沈鬱な状況で、やる気がなくなった、辞めたい、といった声が出ています。」

県の元幹部が解説する。

「県の職員が最も不満なのは、パワハラではなく、斎藤知事の能力不足です。

歴代の知事たちは、職員の相談や報告を紙で提出させて、返事をするなどしていた。

しかし斎藤氏はその慣例をやめて、夕方に定時で帰ってしまう。」

斎藤には4人の側近がいた。

片山副知事、総務部長、産業労働部長、若者・Z世代応援等調整担当理事の4人で、かつて斎藤が総務官僚で宮城県に出向していた頃に親しくなったとされる。

彼らは「牛タン倶楽部」と通称されている。

だが「牛タン倶楽部」は、片山は辞職し、総務部長と理事も任を離れた。

唯一残っている産業労働部長に取材すると、こう話した。

「支えたと言われてるが、むしろ逆です。
高い要求をこなすのに必死でした。私は知事と牛タンを食べたことはないです。」

前出の県政担当記者は言う。

「維新の増山誠・県議は、斎藤氏と近く、投開票日の前日に斎藤氏に対して、知事不信任案の提出時に賛成票を投じたことを謝罪しました。

ただし再選した斎藤氏に媚びを売る県議は、10人に満たない。

86人いる県議の9割は反斎藤のままです。」

県議会では引き続き、阪神・オリックス優勝パレードにおける斎藤知事の疑惑などの質疑が行われる予定だ。

(2025年2月9~10日に作成
3月2日に加筆)


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