ここに書くのは、『黒豹ダブルダウン7』という小説のあとがきの抜粋である。
このあとがきは、著者が本の内容と全く関係なしに、世論調査について書いたもので、とても面白かったので紹介する。
ちなみにこの本は、あとがき以外は私には面白くなかった。
(以下は『黒豹ダブルダウン7』門田泰明著からの抜粋)
🔵門田泰明氏の1991年8月の文章
在日外国人の古い友人であるM君から手紙が届き、封を切ると1991年3月24日付の毎日新聞と産経新聞の切り抜きが同封されていた。
どちらも総理府が実施した『外国人労働者の問題に関する世論調査」に基づく記事だった。
2紙の切り抜きの内容を要約すると、「外国人の単純労働者の受け入れは、日本国民の7割以上が容認している」だ。
M君はこれに対し、「7割が容認なんて信じられない。この世調査なるものを調べてくれないか」と依頼していた。
私は東京、産経、毎日、日経、読売、朝日の6紙をとっている。
改めて3月24日付の6紙に目を通すと、6紙全てがこれを扱っており、全紙が世論調査を分析した上で「7割が容認」、もしくは「7割以上が容認」と見出しを付けていた。
あまりにも「右へ倣え」の見出しを見て、ハテ?と疑いを感じた。
それに私は取材で全国各地に行き、いろんな階層の人と接するのだが、外国人労働者について国民の7割が容認という雰囲気ではなく、むしろ厳しい拒絶感がある。
私は内閣官房広報室からこの世論調査を取り寄せて、自分なりに分析してみた。
そして愕然とした。
まず調査対象者は5千人と、この種の社会問題を調査するには極めて小規模である。
しかも有効回収数は3681人しかない。
世論調査の内容に入るが、『外国人の不法就労への賛否』では「良くない」が32.1%、「良くないがやむを得ない」が55%である。
つまり良くないと思っている人が87.1%に達している。
『不法就労者への対応』は、「強制送還」が33.6%、「暴力団関係や売春など悪質な場合だけ重点的に取り締まる」が40.6%で、74.2%の人は厳しい対応を求めている。
『単純労働者の入国の賛否』は、「単純労働者の就職は認めない」が14.1%、「一定条件や制限をつけて就職を認める」が56.5%である。
「条件を付けず日本人と同じように就職を認める」は14.9%にすぎない。
この結果を、大手6紙は右へ倣えで、「日本国民の7割が外国人の単純労働者を容認」との見出しで報じたのだ。
「一定条件や制限をつけて就職を認める」と答えた56.5%の内訳を見ると、
「期間に制限をつけて、それ以上の滞在は認めない」が48.2%、「国や地方自治体など責任ある機関のみが雇えるようにする」が23.4%で、真実は、国民は厳しい制限を求めている。
他の質問を見ると、『開発途上国の労働者の受け入れは日本の責務である』は、
「そうは思わない」が41%、「一概に言えない」が19.2%、「そう思う」は26.5%だ。
この項目は、なぜか6紙とも触れていない。
『途上国の経済状態は、経済協力などで改善していくべきだ』は、
「そう思う」が52.9%、「そうは思わない」は18.4%だ。
この項目も6紙は触れていない。
『単純労働者の受け入れは日本社会を活性化する』は、
「そうは思わない」が42%、「一概に言えない」が19.3%、「そう思う」は23.5%だ。
この項目も6紙は触れていない。
『単純労働者の受け入れは、教育や社会保障など大きな費用がかかる恐れがある』は、
「そう思う」が56.8%、「そうは思わない」が19.5%だ。
この項目は、日経だけが触れていた。
以上から分かるのは、知らせたい項目と知らせない項目を大手新聞は選び分けていること。しかも6紙が足並みを揃えている。
これでは、いかなる世論調査の報道も信用できない。
もし私がこの世論調査を分析して新聞記事を書くなら、
「外国人労働者へ依然として厳しい目、6割以上が否定的」との見出しにする。
M君の懸念通り、6紙の見出しはフェアではなかった。
1年を通じて1つの新聞を購読するのは、この激動の時代には、もう古いのではないか。
1年を4ヵ月単位に区切って、3つの新聞を交替で読むのをお勧めしたい。
今回のような世論調査の記事を読むと、1つの新聞に固執する時代は終わったと痛感する。
ところで、ある週刊誌の調査によれば、朝日新聞は「わが子を入社させたくない会社」の第6位にランクされたそうだ。
だが私は、朝日だけ槍玉にあげられることに抵抗を感じている。
偏向報道は他紙にも少なくない。
朝日が6位なら、4位や3位にランクされてもおかしくない他紙が充分に存在すると、強調しておきたい。
前述のM君は外国人で重労働に耐えている人だが、マスコミが「3K」(※きつい、汚い、危険の頭文字からとった語で、そういう仕事を指す単語)という流行語をつくった時、その無神経さに「3Kとは何ごとか!」と烈火の如く怒っていた。
苛酷な労働や差別に耐えている人たちの苦痛を、結局のところほとんどの日本人は理解していない。
3Kという言葉を聞かされる側に立って理解する姿勢があれば、このような無神経な差別用語など生まれなかっただろう。
劣悪な職場を改善していく気があるなら、もっと他に適切な言葉があるはずだ。
一方で、外国人の不法滞在者(オーバーステイ)の問題に、私は当初から厳しい目を向けてきた。
日本の法をないがしろにする風潮が、彼らの間でしだいに固まりつつあるかに見える。
それは彼らの責任ではなく、 彼らに毅然たる態度をとらずに同情や理解をチラつかせた、知識人やマスコミに責任の多くがある。
善良な日本人たちは、外国人の不法滞在者に厳しい目を向けることが差別になると誤解しているのか、多くを語りたがらない。
だが合法的にまじめに働く外国人のためにも、不法滞在者に厳しい態度をとるべきだ。
訪れた国の法や文化を尊重するのは、当然のマナーであり、融和や理解や交流はそこから生まれてくる。
これは日本人が外国を訪ねた場合も同じだ。
1991年は大きな事件が次々に生じている。
筑波大の助教授が殺害されて、イランの暗殺組織が犯行声明を出した。
ペルーではテロリストによって日系人の殺害や拉致が続発した。
そしてソ連ではクーデターが起き、失敗に終わったが混乱は続いている。