(『週刊文春2023年10月19日号』から抜粋)
2023年9月29日に、宝塚歌劇団の宙組公演「パガド」が、宝塚大劇場で幕を開けた。
開幕に向けたパガドの稽古期間中、入団7年目の宙組生である有愛きい(ありあきい、25歳)は、宙組・組長である松風輝(まつかぜあきら)と、男役トップスターの芹香斗亜(せりかとあ)から怒鳴られる日々を送っていた。
有愛きいは、9月30日に、自宅マンションから飛び降り自殺した。
この自殺から1週間たった10月7日に、宝塚歌劇団の理事長である木場健之(こばけんし)は、記者会見した。
そして弁護士らの調査チームが、宙組の生徒60数名から聞き取り調査をすると述べた。
木場健之は、有愛の自殺の翌日に、宝塚舞踏会に来た観客たちに対して、「詳細は公表しない」と述べていた。
これが批判を浴びたので、木場は態度を変え、上述の記者会見となったのである。
有愛きいは、入団7年目のため、新人公演のリーダーを任されていた。
(※宝塚では、入団して1~7年目までの生徒(役者)は、新人公演に参加して腕をみがく仕組みになっている。)
7年目の人は最上級生となるので、公演のリーダーとなるのである。)
有愛は新人公演の稽古について、4人の上級生から「不手際はすべてお前のせいだ」と、集団リンチのように言われ続けていた。
4人の上級生とは、組長の松風輝、トップスターの芹香斗亜、花菱りず、優希しおん、だ。
劇団関係者の証言では、「優希しおんは、陰湿なイジメの常習者で、下級生たちが恐れている」という。
週刊文春は、2023年2月2日号で、宝塚歌劇団のイジメ疑惑を報じた。
有愛きいが、先輩の天彩峰里(あまいろみねり)から、高温のヘアアイロンを額に押し付けられ、火傷を負った、と報じた。
この報道に対し、劇団側は「全くの事実無根」と述べ、傷害の存在すら否定した。
ところが、有愛きいが自殺した後、10月7日に記者会見した木場・理事長は、この傷害があったことを認めた。
そして「教えている際に誤ってヘアアイロンが当たったと、両人から聞いている」と説明した。
だが有愛の知人は証言する。
「有愛が劇団にイジメを訴え出ても、劇団はイジメは無かったことにした。
むしろ有愛は総攻撃を受け、彼女は絶望してしまった。」
下級生の多くは、日常的にくり返される天彩のイジメを目撃していた。
週刊文春は2月2日号で、上述の宙組のイジメを報じたが、その翌日に有愛きいは、宙組組長の寿つかさ、副組長の松風輝、トップスターの真風涼帆、2番手男役の芹香斗亜の4人に呼び出された。
4人は有愛を罵り、「イジメじゃないよね。わざとじゃないよね」と、くり返し確認した。
事実をねじ曲げる(隠蔽する)ように、圧力をかけたのである。
その後、宙組のメンバーが集められ、真風ら上級生は「文春の記事の内容は事実無根」と主張し、全責任は有愛にあると結論した。
この話し合いでは、有愛には一切の発言は許されなかったと、下級生の1人は証言する。
上級生の多くは、有愛が週刊文春にヘアアイロン事件を漏らしたと決めつけた。
だが、それは事実ではない。
有愛をかばった2人の同期生は、芹香斗亜らから罵られたのに苦しみ、退団してしまった。
そのため有愛は孤立を深め、周囲に「宝塚を辞めたい」「死にたい」と口にするようになった。
有愛は9月29日、宙組公演「パガド」の初日を終えたあと、母親に「精神的に崩壊している」とメッセージを送っている。
そして翌日に命を絶った。
有愛の自殺が知らされた直後に、トップスターの芹香斗亜は、「それでも私は公演をやりたい」と発言した。
この公演が芹香のトップお披露目公演だったからだろう。
だが宙組生たちは、「自分の言葉が自殺の引き金になった可能性を自覚してないのか」と唖然とした。
有愛の自殺の2日後に、上級生たちは「早く公演を再開させたい」との意見で一致した。
宝塚歌劇団の関係者は言う。
「10年近く、この劇団は業績ばかりを追求し、生徒に(役者に)チケット販売を押し付けてきた。
親会社の阪急阪神東宝グループから天下りしてきた総務部長と制作部長は、『代役を立ててでも休演はするな』との考えだ。
そうしたプレッシャのため、芹香斗亜も精神が限界にきていた。」
宝塚歌劇団は、イジメやパワハラの報道がある度に、隠蔽をして、事実無根と言ってきた。
そして内情を漏らした者を探すことを、執拗に行ってきた。
こうした悪習の積み重ねが、有愛きいの死を招いてしまった。
宙組では今、数十人もの退団希望者が出ている。
下級生の1人は、「有愛さんは笑顔で周りを明るくし、優しく下級生の全員に気を配っていました。下級生の士気を上げ、引っ張ってくれました。」と語った。
(2024年1月25~26日に作成)