3月の下旬に、フィギュア・スケートの世界選手権が、日本で行われました。
私はソチ五輪でフィギュア・スケートに興味を持つようになったので、ぜんぜん世界選手権をチェックした事は無かったのですが、初めてTV観戦をしました。
今まで知らなかったのですが、世界選手権は毎年行われているのですね。
「とりあえず、初日の男子ショート・プログラムもチェックしよう」と、軽い気持ちで初日から観ました(私の本命は女子だった)。
そしたら町田選手の大熱演に圧倒され、「男子も面白そうだ」と思い、結局は連日の放送をすべて観ました。
がっつりと観た中で感じたことを、書いていきます。
まず驚いたのは、『日本の観客たちの、温かい応援と熱狂ぶり』です。
会場を埋め尽くす観客と、演者への熱い拍手、演技後に投げ込まれる花の嵐。
観ていて、「日本ではフィギュア・スケートって、こんなに人気があるの?」と、不思議な心境になりました。
ソチ五輪で日本人選手が活躍したからでしょうか、観客の情熱がすさまじいです。
まず間違いなく、ソチ五輪よりも盛り上がっていましたね。
会場が熱気に包まれていたからだと思いますが、演者たちの出来もすばらしくて、とてもクオリティの高い大会となりました。
女子でソチ五輪の金メダリストを獲ったソトニコワさんらが出場しないので、「盛り上がらない」と予想する人もいたようですが、結果的には大盛況となりましたねー。
まず会場の熱気に驚いた私ですが、その次に驚いたのは『日本人選手たちの出来の良さ』です。
皆がすばらしい出来なので、驚きを通り越して「夢でも見ているのではないか」と思った位です。
特に町田樹さんの演技がすばらしく、ソチ五輪とのあまりの違いに、同一人物なのか疑問を持つほどでした。
ソチ五輪からわずか1ヵ月ですから、技術がそれほど向上するはずはありません。
彼の場合、精神面での大幅な成長があったのでしょう。
自信と確信を持っているのが伝わってきたし、それが演技を力強いものにしていました。
町田さんについては、ソチの時は「どの技術も、もうひとつだな」と感じたのですが、今回の演技をみて『スケーティングの滑らかさ』と『ジャンプ回転の安定感』が傑出している事に気づきました。
彼は身体が小さいのですが、そのぶん小回りが利くようで、俊敏性があります。
結果的には2位に終わりましたが、「これから伸びてくるのではないか」と感じさせる会心の出来でしたね。
男子で1位になったのは、ソチでも金メダルをとった羽生結弦さんです。
今回は町田さんが絶好調だったので、優勝は難しいと思われましたが、逆転で優勝を果たしました。
羽生さんについては、ソチ五輪までは名前すら知らず、彼の良さをソチの時には理解しきれなかったです。
その後に、録画しておいた演技を何回も見て、徐々に理解し始めました。
彼の凄い所は、『女子並みの身体の柔軟性』『柔軟性を活かした大胆な表現力』『滑らかなスケーティング』『本番に力を発揮できるメンタルの強さ』『ナイーブさを醸す、女性的な華やかさ』です。
こうした個性を理解するようになり、「なるほど、五輪で金メダルをとったのも納得できるなあ」と思うようになりました。
今回の世界選手権でも、これらの特徴をみせて優勝をしました。
羽生さんらの演技については、以前に「オカマのような動きで、不自然に思える」と感想を述べたのですが、どうも慣れてきたようで、今回は違和感を感じなかったです。
宝塚歌劇団を初めて見た時も、「オカマみたいで、気持ち悪いなあ」と思ったのですが、見ているうちに慣れて行きました。
人間には、慣れていく性質がありますね。
(そういえば、宝塚は100周年ですね。おめでとうございます。)
戦争などの惨い状況にも、人間は慣れてしまいます。
「接していると慣れていく」という人間の性質を理解した上で、接していくものについて慎重に選択していく必要がありますよね。
私の好みとしては、町田さんのような無骨な(男性的な)スタイルの方が、見ていて気持ちがいいです。
でも、色々なスタイルがあった方が面白いので、羽生さんのような女性的なスタイルも追求していってほしいです。
それにしても羽生さんは、持っている雰囲気はナヨナヨした感じですが、精神的な芯の強さが凄いですよ。
フリー・プログラムでは、ジャンプ回転でコケそうになりましたが、根性でしのいでいました。
あれは、並みの選手ならコケていると思います。
羽生さんについては、「かなり疲労が溜まっている」という印象を受けました。
怪我が多いスポーツだし、シーズンが終了になるので、しばらく休養をした方がいいと感じました。
次に、女子について感想を述べます。
まずは、浅田真央さんでしょう。
圧倒的な大差で優勝を果たし、今までのスケート人生でも最良の演技だったのではないでしょうか。
彼女について感じたのは、『雑念を持たずに挑んでいる』という事です。
完全に演技に入り込んでおり、それが勝因だったと思います。
フリー・プログラムでは、やや身体が固くなっており、スタートしてすぐに「壁に靴をぶつける」というミスをしました。
(たしか減点対象だったと思います。でも審査員が気付かなかったのか、減点はされませんでしたね。)
このミスがあっても、彼女は全く動揺せずに、きちんとトリプル・アクセルを決めました。
その後に、1回だけジャンプ回転をミスしましたが、それ以後も集中力を失いませんでした。
私は、ソチ五輪まではフィギュア・スケートをほとんど知らず、「浅田は、ソチの優勝候補だ」と巷で言われていても、「ふーん、そうなの」としか思っていませんでした。
今大会の浅田さんの演技を見て、「なるほど。実力を発揮しきれば、ここまで出来る人なのね。優勝候補に推されたのも納得です。」と思いました。
浅田さんは今、「現役を続けるか、引退するか」について悩んでおり、「ハーフ&ハーフ」とピザの注文みたいなコメントをしています。
この件について、私なりのアドヴァイスをしたいと思います。
彼女が現役を続けるか迷うのは、「現役続行を決めると、4年後のオリンピックを期待される」というのがあると思います。
彼女は、「身体の衰えは感じていない」「スケートはやっぱり好き」と発言しており、それらが迷いの理由ではないです。
彼女には、「現役続行を宣言すると、4年後までスケートを続けるのが当たり前とされてしまい、メダルも今度は獲ってくれるだろうと世間から思われてしまう」、という考えがあると思うのです。
実際に報道陣は、「次のオリンピックを考えていますか?」と、現役続行と次のオリンピックを完全にリンクさせた質問をしています。
これは、本人の立場になって考えてみると、もの凄いプレッシャーです。
私が彼女の立場だったら、「4年後の事まで分かるわけがないでしょう。あなたは、自分の4年後が分かるんですか?」と問い返してしまうでしょう。
4年後のオリンピックに照準を合わせると、4年間ずっと制約を受けるし、オリンピックで上手くいかないと「4年間の努力は何だったのだろう」と虚しくなります。
昔はどのスポーツもアマチュアで、オリンピックに照準を合わせるのが不自然ではありませんでした。
でも、今はプロ化が進み、様々な大会があります。
それなのに多くの人は、オリンピックに過度の期待や比重を置き続けています。
浅田さんは、「とりあえず1年間とか2年間の現役続行をする」と決めれば、楽な気持ちでフィギュア・スケートを続けられるのではないでしょうか。
オリンピックが終わったばかりなのに、すぐに4年後のオリンピックに意識を持っていくのは、無理があります。
「いや~、メダルが獲れなくてくやしいです。4年後にまた出場します。アイル・ビー・バック!」などと、オリンピックで競技を終えた直後に言う人がいたら、相当な変人ですよ。
そもそも、4年後に代表に選出されるかどうかすら、相当に不確定です。
オリンピックを視野に入れず、「フィギュア・スケートに情熱を感じる間は続ける」と決断すれば、迷いなく現役続行を選択できると思います。
現役を続ける前提で話すと、彼女の課題は『大技の間のスケーティングと、ステップ・シークエンス』だと思います。
浅田さんは、ジャンプ回転ではすでに世界の頂点にいるので、それ以外に改善点があると思います。
で、私が思うに、それは細かいステップワークにあります。
私は色々な選手の滑りを見ている中で、キム・ヨナさんやコストナーさんの「滑りのスムーズさ」「ステップ・シークエンスの華麗さ」に気づきました。
これを吸収すれば、浅田さんはさらに充実した演技を披露できるでしょう。
次に、鈴木明子さんについてです。
彼女はこの大会で引退したのですが、最後の大会にふさわしい見事な出来だったと思います。
攻めの姿勢があったのが、良かったです。
彼女は、ファンからは「スケーティングが美しい」との評価を得ていますが、ソチの時にはそれが発揮できていなかったと思います。
今回は、その良さを見せていたし、彼女の持っている温かい人柄が表現されていました。
長い現役生活、お疲れ様でした。
次に、村上佳菜子さんです。
彼女も、今回は出来がすばらしかったです。
伸び伸び演じていたのは、本当に見ていて気持ち良かったですよ。
でも、得点はいまいちでした。
自分としては会心の出来なのに、得点が伸びないのでショックを受けている姿が印象的でした。
彼女の落ち込む姿がすごーく気になったので、たぶん本人も気付いていると思うのですが、私が感じた修正点を挙げます。
村上さんは、浅田さんや鈴木さんにはない「力強さ」が個性だと思うのですが、力強さを出せる反面「滑りが荒い」です。
フィギュア・スケートを見ている中で気付きましたが、この種目は『どんな時でも滑らかさや優雅さを失ってはいけない』スポーツです。
力強さを表現する時でも、少しでも荒いスケーティングになると点数が下がるようなのです。
村上さんは、もっと滑らかなスケーティングに修正する必要があります。
あとは、ジャンプ回転ですね。
彼女は、回転する時に「身体がナナメになる癖」があります。
氷面に対して身体が垂直(90度)にならず、75度くらいになっています。
これを解説の方は、「軸がぶれている」と表現していました。
ナナメになっているので、回転が安定しない(回転不足にもなる)し、コケてしまう事にも繋がります。
荒いスケーティングと回転ジャンプを修正すれば、得点が10点ほどそれぞれのプログラムでアップして、3位くらいに入れると思います。
最後に、ロシアのリプニツカヤさんです。
彼女は、強気な性格もあり15歳にして「女帝」と呼ばれ始めていますが、身体全体の動きが実に綺麗ですね。
ロシアでは10代の良い選手がたくさん登場していますが、「魅せる」という部分では彼女がナンバーワンです。
彼女の演技は、時間を忘れさせるマジックがあります。
このまま成長していけば、歴史に残る選手となるでしょう。
彼女は、15歳なのに態度がでかいので、きつい性格に受け取られている感じもしますが、演技後の笑顔を見ると「実は、すごく純粋で良い性格なのではないか」と思います。
私は、「シャイだが、良い奴」という自分と同じ臭いを、彼女に感じます。