マンガの『美味しんぼ』が、放射能被曝の実態について取り上げ、それが話題になっています。
そこまではいいのですが、なにやら批判・非難をしている人々がいるようなのです。
私はこの件については、『批判している人々には全く正当性がない』と感じています。
それについて書きます。
私は美味しんぼの掲載自体を見たわけではないのですが、報道によると「放射線の高い地域(福島県)で鼻血が出る、体調が悪化する」という状況が描かれており、それが「科学的な事実ではない」とか「風評被害を煽っている」と批判されています。
まず言いたいのは、『作者はきちんと取材をしたと言っている。であるならば、その取材の成果を尊重する必要があるのではないか』という事です。
批判をしている方々に、きちんと現地で取材をした事のある人がどれだけいるのでしょうか。
現場で時間をかけて調べた事について、頭ごなしに否定するのは、そもそもおかしいと思います。
放射線の専門家が、「低い放射線では、鼻血が出ることはあり得ない。非科学的だ。」と言っているそうですが、私には説得力のあるものだと思えません。
というのも、今回の原発事故は人類史でも稀有なものであり、過去に類例のないものだからです。
要するに、『今までの研究を参考にする事は難しい』のが前提だと思うのです。
科学というものは、目の前にある事象を調べて、そこから一定の法則や理論を導き出して、それを活用していくものです。
福島県などの被曝地では、原発事故の直後から「鼻血が出る」とか「身体がだるい」とかの症状が訴えられています。
科学者ならば、その目の前にある事象に、まず目を向ける必要があるのではないでしょうか。
目の前に現れている出来事について、「それは科学的ではない」という姿勢は、本質的にあり得ない事なのです。
そういう態度の方が、『非科学的』なのです。
科学的な態度をとるならば、被曝地の住民のところに行き、かれらの健康状態を長期にわたって調査をして、その後に結論を下さないといけません。
「風評被害を煽っている」という批判が出てますが、「放射能は危険ではありません。何の問題もありません。」とだけ報じていけば、国民の利益に適うのでしょうか。
仮に安全性がないのに安全だと言うのならば、それだって被害を招く事になります。
きちんとした取材を通して得た情報ならば、それがどんなものであれ尊重する必要があります。
耳に痛い情報を、「風評被害を煽る」と言って遠ざけるのは、誠実な態度ではないですよ。
『美味しんぼ』は、すでに高評価を確立しているマンガであり、たくさんの読者を確保しています。
そのままで地位は安泰なのに、わざわざ波風を立てるような情報を書く姿勢は、称賛されるものであり、決して非難されるものではありません。
美味しんぼが行った情報発信は、もし活字のメディアだったらここまで話題に(問題に)ならなかったと思います。
冷静に見ると、今回の論争の根底には「マンガのくせに、真実に迫ろうなんて生意気だ」との観念があるのではないかと思います。
考えてみると、被曝者の現状については、多くの国民が深い関心を抱いているのに、ジャーナリズムが全然取り上げていません。
福島県では甲状腺がんを発病する子供が急増しているのに、メディアはその事を取材していないし、まるで避けているかのようです。
本来ならば、被曝者の健康状況については、ジャーナリズムがもっと取材しないといけないのです。
それを怠っているから、美味しんぼが取り上げる事につながり、美味しんぼだけが叩かれてしまうのです。
この問題の根底には、『ジャーナリズムの怠慢』がありますよ。