私の住む家は、一軒家ですが、築40~50年ほど経っている木造家なので、様々な虫が登場します。
蚊、ハエ、ゴキブリといった定番のものに限らず、蟻、蜘蛛、だんご虫、なめくじ、カナブンなど、ほぼ外と同じくらいに幅広い連中が現れます。
そんな中で、かなり目立っている存在が、「足の長い、素早く動く蜘蛛」でした。
こいつは、くすんだ薄茶色をしていて、マダラの模様もあります。
サイズは、7mmくらいの小さい奴から、最大で10cmほどの巨大な奴まで、幅広いです。
6月~10月くらいの暖かい時期に頻繁に登場し、7~8月の最盛期には毎日のように現れます。
見栄えが悪いし、大きい奴だと目立つし、ちょろちょろと速く動くので不気味だし、私は嫌ってきました。
普段は無視するのですが(無視していれば、すぐにどこかに消える)、風呂に入っている時に現れた時には、こっちが裸で無防備なのでびびってしまい、お湯で退治したりもしてきました。
そういう感じで「嫌悪感を持ちつつ、遠くから眺めている状態」で接してきました。
何を食べて生きているのかが判然とせず、私としては「小さな虫(小バエやだんご虫)でも食べているのだろう」と考えていました。
「ちっ、邪魔な存在だがしょうがないか」などと考えていたのです。
ところが、です。
ある日、何気なくネットサーフィンをしていたところ、『ゴキブリの天敵になっている蜘蛛』がいる事を知りました。
「へえー、そんな凄い奴がいるのか」と思って調べたところ、
何と! 我が家に生息する、あの蜘蛛だったのです!!
本当にびっくりしました。「マジか!!」と思いました。
この蜘蛛は、名前は『アシダカグモ』といいます。
福島以南に住んでおり、古い家ではかなりよく見かけられる存在のようです。
ゴキブリを主なエサにしており、要するに「いいモン(正義の味方)」です。
(あくまで人間の視点から見てであり、本質的にはいいモンも悪いモンもないのですが)
この蜘蛛は、足が長いため大きく見えますが、きゃしゃな身体つきでパワーが無さそうです。
私が退治した経験でも、危険を察知するとすぐに逃げるし、叩くとすぐに「キュウー」と丸まってKOされるしで、強い奴には見えません。
私は、「本当にゴキブリに勝てるのか? あのタフなゴキブリに。」と、強く疑問を持ちました。
そこで、さらに調査を進める事にしました。
幸いな事に、この蜘蛛がゴキブリを退治する映像を検索したところ、ユーチューブにアップされていました。
そこに行き映像を見たのですが、これが驚愕の映像なのです!
あの普段は弱そうな(人間の前では弱そうな)アシダカグモが、威厳を持ってゴキブリに対峙し、圧倒的な能力でゴキブリに完勝しているのでした。
「ゴキブリを倒すために生まれてきたのではないか」と思えるほどの、完璧なヒットマンぶりです。
私は、普段目にするゴキブリとアシダカグモの印象から、5分5分くらいの膠着した詰まらないバトルを予想していたのです。
だらだらと戦って判定にもつれ込むような展開や、ややゴキブリが優勢な展開すら予想していました。
なので、ワンパンチでゴキブリをKOする様な凄まじい試合展開に、完全に圧倒されました。
かつてプライドのリングで、ヒョードルが小川直也に1分弱で勝った試合くらいに、目にも止まらないほどの動きによる技巧的な完勝です。
私はこの映像を見て、「あの蜘蛛が、まさかこんな正体をしているとは…。人は(人ではなく蜘蛛ですが)見かけによらないな…」と、改めて世の中の広さ深さを痛感しました。
驚くのは、あの細長い足で、器用にゴキブリを抱え込んで捕まえる事です。
皆さんがご存知だと思いますが、ゴキブリの速さとターンの上手さは神レベルです。
そのゴキブリを、自分も同じくらいの大きさなのに楽々と捕まえるのですから、凄いの一言。
抱え込み方が、絶妙なのでしょう。
ゴキブリは動けないし、動いてもアシダカグモは体勢を崩しません。
押さえ込みの能力がはんぱじゃないです。
もし柔道家に転向したら、「寝技の神」と呼ばれるようになるでしょう。
食べ方も凄くて、あの固いゴキブリを、唾液で溶かして食べてしまうそうです。
あの固い羽(背中)を、人間が「バンッ」と力強く叩いても砕けないような羽を、溶かしますか、あんたは。
私は大変なショックを受けました。
この映像を目にして、アシダカグモに対する認識が、全く変わってしまったほどです。
「今まで舐めていて、すまん!」と思いましたねー。
この日以来、私はアシダカグモを嫌ったり怖がったりしなくなりました。
彼らが現れると、むしろ「おおっ、出たか。ゴキブリ退治を頼むぞ。」と心強く思ってしまうのです。
退治する時の雄姿(完璧な仕事ぶり)が目に焼き付いているので、尊敬の眼差しで見てしまうほどです。
「倒してやろう」なんて、これっぽっちも思わないですね。
面白いのは、あの映像を見て以来、ゴキブリに対しても優しい気持ちになれた事です。
私は子供の頃に、「ゴキブリは本当に生命力が強い。おそらく地球が壊滅的な状況になったら、生き残るのは人類ではなくゴキブリだろう。」と聞かされました。
その時からずっと、「くそっ、何て生意気な奴らなんだ。俺たちが滅んでもお前は生き残るか。悔しいー。」と思い、ゴキブリに嫉妬の交じった嫌悪感を持ってきたのです。
それが、ゴキブリが可哀相なくらいにあっさりとやられる姿(映像)を見て、『ゴキブリ最強説』の呪縛から逃れる事に成功しました。
ゴキブリにも天敵がいると知り、「お前も弱い存在なんだな、よしよし。じゃあ仲間だな。」といった心境になれたのです。
心に余裕が生まれたため、ゴキブリが現れても動揺しなくなり、「よしよし。アシダカグモにやられないように、達者に暮らせよ。」と温かい目で見送れるようになりました。
我が家には、夏場は、ゴキブリもアシダカグモも毎日のように登場します。
多い日など、1日のうちに2~3回も出てきます。
以前はこの2種類の虫に接点を感じなかったわけですが、こんなに沢山いるという事は、『我が家の中で頻繁に、ユーチューブ映像のような衝撃的なバトル(捕食)が行われている』のは明らかです。
まさか私の身近で、プライドやUFCのような凄惨な戦いが、日々くり広げられているとは…。
天井裏や物陰で(私には見えない所で)、しっちゅう両者は戦っているのでしょう。
知らなかった……。
考えてみると、自然界ではあのような事(生死を賭けたハンティング)は日常的に起きているんですよね。
人間で良かったよ、ホント。
もっとも、人間界にも自然界のような弱肉強食の世界(軍事戦争や企業戦争)に生きている人々がいますけどね。
自然界の弱肉強食には美意識や愛を感じるけど、人間界の弱肉強食は愛を感じないです。
弱肉強食を肯定している人間を観察すると、『現状で諦めている』か、『自分たちの既得利権を守るために、弱者が虐げられるのを肯定している』かの、どちらかです。
弱肉強食を肯定・推進する人って、自分が弱者になってやられる事については何としても阻止しようとするんですよね。
自分がやられても笑って許せるならば、それなりに説得力もあるのですけど。
自然界の場合、やられる側に、笑って許す余裕(ある種の達観)を感じます。
それだから、愛を感じるのでしょう。