衆議院選挙は終わりましたが、『安倍政権を見極める』シリーズは継続していこうと思います。
このシリーズは、「日記」と「日本の問題の勉強・政治」のページにアップしています。
内容は、どちらも同じです。
今回は11回目で、雇用の規制緩和についてです。
(サンデー毎日2014年6月1日号から抜粋)
安倍晋三・首相の側近は言う。
「安倍首相は、自分の生命線がアベノミクスの成否だと分かっている。
だから、今度の成長戦略には相当に力が入っている。」
新たな成長戦略で焦点となりそうなのが、4月末に産業競争力会議(議長・安倍首相)が提言した「残業代をゼロにする」というものだ。
これは、『時間ではなく、成果によって評価される、新たな労働制度』を目指すものである。
この「残業代ゼロ」の政策は、第1次・安倍政権の時に国会提出を断念した「ホワイトカラー・エグゼンプション法案」と同じ考え方である。
これを導入した場合、成果を出すまで長時間労働を強要される恐れがある。
労働組合は、「サービス残業の合法化であり、過労死につながる」と反発している。
日本弁護士連合会も、「労働時間の規制があるのは、労働者の健康を守るためです。この観点が抜け落ちている。」と云う。
第1次・安倍政権の時に「ホワイトカラー・エグゼンプション法案」が潰れた理由を、当時の閣僚の1人はこう振り返る。
「あの時は、民主党の勢いが出てきた頃でした。
だから、『サラリーマンを敵に回す法案を提出したら、選挙に悪影響が出る』と、幹事長らが止めたのです。」
つまり、まともな議論の末ではなく、永田町の事情で頓挫したわけだ。
今回、なぜ安倍首相は再び「残業代ゼロ」に執着するのか。
しかも今回の案は、年収1000万円以上だけではなく、「それ以下でも、労働組合などと合意すれば実施できる」としている。
極端に言えば、「あなたも明日から残業代ゼロ」の可能性がある。
今度もまた、ウラ事情があるようだ。
1つ目は「株価対策」、2つ目は「安倍首相の視線が大企業にしか向いていないこと」である。
株価対策については、厚労省OBはこう解説する。
「安倍首相の指示を聞いていると、株価ばかりを意識している。
内閣支持率を支えているのは株価だ、という考えなのでしょう。
雇用の規制緩和は、日本の株式市場を支えている外国人投資家にウケがいい。
『成果主義』は、言葉の響きは良いですが、成果を誰がどうやって判断するのか。
一般的なオフィスワークや、集団で行う作業、サービス業などは、成果の基準作りからして難しい。
そうした議論は競争力会議からは全く見えず、経営者主導で進んでいます。
柔軟な働き方や、自由度の高い働き方は、現行の労働法でも禁止していません。
労使間で話し合えば、色々とやれるのです。
労働者と話し合う努力をやっていない企業が多いのに、残業代ゼロを打ち出すのは、明らかに別の意図があります。」
自民党の議員でさえ、こう批判する。
「労働の規制緩和は、大企業のためのもので、狙いは残業代を払わないこと。
つまり、『人件費の抑制』です。
真面目に働く人々には、たまったものではない。」
経済アナリストのコメント
「経団連や安倍首相は、労働規制の緩和を要望しているが、経営陣を縛るコーポレート・ガバナンスには全く触れていません。
ここに、彼らの本音が見えます。」
今回の成長戦略が企業サイドに偏っている事を裏付けるのが、産業競争力会議(議長・安倍首相)のメンバーである。
同会議の雇用・人材の分科会は、竹中平蔵(パソナ会長)や榊原定征(東レ会長)らがメンバーで、労働者側からはいっさい意見を聞いていない。
なお竹中平蔵は、人材派遣会社のパソナに2007年に迎え入れられた。
自民党の派閥領袖は言う。
「私の知っているマスコミ関係者が、竹中さんに連絡を取ろうとパソナに電話したら、こう言われたそうです。
『産業競争力会議に関しては、こちらではちょっと。肩書きは弊社の会長ですが、その会議には大学教授の立場で参加しています。』
人材派遣会社の会長が、雇用改革に関与するのは、明らかにマッチポンプです。
利益誘導の疑いが生じるから、2つの肩書きを使い分けているのだろう。
竹中さんは、メンバーから外すべきだ。
かつての小泉政権での規制改革会議では、まとめ役にオリックスの宮内会長が就き、『自らのビジネスに利用している』と批判されました。
今度の竹中さんも、同じです。」
付け加えるなら、政治家の身を切る努力は消えうせ、東日本大震災から続けてきた議員歳費の2割カットは、4月に終了して満額復活している。
議員の定数削減も、全く進んでいない。
(※以下は、2015年1月5日に追記)
(週刊朝日2014年6月6日号から抜粋)
なつめ一郎(日本労働弁護団)
「現行の法体系では、『残業は原則として禁止。どうしても残業させるなら労使で協定を結び、その上で割増賃金を支払うこと』になっています。
(安倍首相チームの打ち出した残業代カットの制度は)、こうした法体系を根本から覆すものです。」
某有名企業の人事担当
「会社から残業代ゼロを求められれば、従業員は断れないでしょう。
そもそも経営者は、労働時間を気にする人は昇進させないですから。」
安倍政権が『残業代ゼロ』を検討するのは、今回が初めてではない。
第一次政権の時にも、アメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」にならって導入しようとした。
WEは、『ホワイトカラーのうち特定の業務に限って、一定以上の年収者について労働時間の規制を外すもの』である。
時間規制が無くなるため、時間外手当の概念も無くなる。
経団連はこの時、「年収400万円以上を対象にしよう」と提案した。
だが批判が高まり、2007年1月に法案は消滅した。
なつめ一郎
「今回の規制緩和は、業務に関係なく年収だけで対象者を決めようとしており、WEよりもたちが悪いです。」
そもそも、日本では残業が増えてきている。
20年前と比べると、2割も増えている。
企業の規模が大きくなるほど残業が長くなるのも、特徴である。
それなのに残業代ゼロになったら、どうなってしまうのか。
明治学院大学の笹島芳雄教授は、こう試算する。
「年収1千万円以上が対象になった場合、対象者は年に133万円の減収になる。」
安倍政権の成長戦略の柱の1つである「国家戦略特区」には、企業が解雇をしやすくする「クビ切り特区」の構想もあった。
激しい批判を浴びて、昨年10月に見送りとなっている。
安倍政権は、『労働者派遣法の改正案』(実際には改悪案)を国会に提出し、法人税の引き下げにも意欲を見せている。