CDの盤質を改良したハイ・クオリティCDが、ここ7~8年ほどで一気に出てきました。
SHM-CDが最初に登場したのですが、私は一聴して「これは可能性がある」と感じました。
そして日記で取り上げて、『CD業界は、デジタル技術の方面に(ハードのほうに)エネルギーを注ぐのではなく、盤質の改良に(ソフトの改良に)力を注いでほしい。その方が、音質は良くなるはずだ。』と主張してきました。
幸いな事に、CDメーカーは私の求める方向で開発を進めてくれています。
プラチナSHMというCD規格を逸脱するソフトまで誕生し、それは日記で取り上げました。
SHM-CDは、その技術が一般公開されたため(これは素晴らしい英断だったと思います)、それを元にして『Blu-spec CD』も生まれました。
『Blu-spec CD』はソニーが開発したものですが、1年半ほど前に改良版の『Blu-spec CD2』というものが登場しています。
技術を解説してあるウェブサイトを見たところ、盤質とカッティング方法が大幅に改良されているようで、なかなか期待できます。
気になったので、『Blu-spec CD2』でマイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」を買ってみました。
で、CDプレイヤーにセットし、ヘッドフォンを装着して、プレイ・ボタンを押したのですが、びっくりする位に音が良いです!
私は驚きつつ、「私の主張した事は、間違っていなかった…」と心底から感じたのでした。
ここからは、具体的にどう音が良いのかを書きましょう。
すぐに気付いたのは、『ウッド・ベースの音の良さ』です。
今までのCDだと、ベースの音がぼけていて、音程が悪いし、音色も美しくなかった。
それが、音程がかなりはっきり出ているし、音色も落ち着きのあるものになっています。
(まだ美しい音色とまではいえないのが残念)
オーディオの世界では、「ベースの音がどう出るかが、一番重要だ」と言われます。
これは、「ベースをかっこ良く安定した美しい音で再生するのは、難しい」という事です。
CDはずっと、ベースの音がちゃちいサウンドで、金属的な響きがするためにウッドベースの音色の美しさは全く表現されていませんでした。
レコード盤と比べると悲しくなるほどでした。
それがようやく、まともな音になってきましたねー。
次に思ったのは、『音全体のバランスの良さ』です。
各楽器のバランスが良くて、安心して音楽に入り込めます。
バランス良く聴こえるのは、音楽情報が正確に刻まれ、きちんと読み取られているからでしょう。
空間がすっきりしていて、各楽器がきちんと分離しているし、1つ1つの音ににじみがないので嫌な響きがしません。
こういうバランスの良い自然な響きの音は、CDの場合、15年くらい前だと100万円くらいかけたオーディオ装置じゃないと出なかったです。
(私は2000年頃にオーディオに激しくはまり、いくつものお店で様々な装置を聴きました。その時に、この値段だとこれ位の音だと、だいたい把握したのです。)
私の使っているCDプレイヤー「DCD-755RE」とヘッドフォン「ATH-A900」で、ここまでのサウンドが聴けるとは…。
素晴らしい事です!
(ちなみに、ヘッドフォンは改造してあり、オリジナルだとここまで良い音はしません)
演奏のニュアンスが、レコード盤で聴くのに近いんですよねー。
今までだと「レコードではこう出ているのに、CDではなぜ出ないんだ」というフラストレーションがあったのですが、それをほぼ感じません。
レコード盤と比べながら音作りをしたのか、CDを改善していくと自然にレコード盤に近づくのか知りませんが、嬉しい進化です。
あと感じたのは、『音に格調高さがある』という事です。
プラチナSHMもなかなかの格調高さを持っていましたが、それと同等のレベルにあります。
プラチナSHMは高額なので(一般のCDのほぼ倍の値段です)、Blu-spec CD2は通常の値段なのに同等のクオリティなのは頑張ったと思いますよ。
今回聴いたカインド・オブ・ブルーなどは典型的なのですが、名盤と云われるアルバムは単に音楽が素晴らしいだけではなく、作品全体(音全体)が香り高いんですよ。
芸術的な響きや佇まいがあります。
この芸術の香りは、レコード盤では感じられるのですが、CDは表現できていませんでした。
『Blu-spec CD2』は、プラチナSHMと共に、初めて芸術的な響きを出せています。
まだレコードには及びませんが、大きな前進を果たしていると思います。
私は『Blu-spec CD』も持っているのですが、それに比べて『Blu-spec CD2』は1.5倍くらいに音が良いです。
改良を超えるレベルであり、別物といっていいです。
凄いよソニー。やれば出来るじゃないか。
プラチナSHMと比べても、全体のバランスの良さでは優っています。
プラチナSHMは音のなめらかさや繊細さが素晴らしいのですが、ドラムなどの強いアタック音が苦手で、トータル・バランスに欠けています。
それに対して、『Blu-spec CD2』はとてもバランスが良いですね。
プラチナSHMには、少し霞がかったようなくもりがあって、そこが難点なのです。
対して『Blu-spec CD2』は、クリアーで見通しがいいです。
現状では、『Blu-spec CD2』が『プラチナSHM』よりも完成度の点でやや上回っており、『SHM-CD』は周回遅れという感じです。
最近の高品質CDが登場するまでは、CDは「音楽作品」は提供できても、「芸術作品」は提供できませんでした。
芸術を(深い人間味を)表現するだけの力が無かったのです。
『Blu-spec CD2』と『プラチナSHM』は、とりあえず「芸術作品」の佇まいがありますよ。
努力を続けていけば、そのうちレコードに比肩する音まで持っていけるでしょう。
まだまだ伸びしろがあるのを感じます。
率直に言って、これだけ音質が改善されて2000円以下なのだから、『Blu-spec CD2』は買いですよ。
私は、SHMやプラチナSHMも褒めましたが、「これは買いである」とは言いませんでした。
ついに、手放しで薦められるCD(価格と音質が適正であるCD)が登場しました。
ソニーや他社は、『Blu-spec CD2』で名盤の復刻シリーズを出すべきだと思います。
というか、従来の平凡なCDは音が悪すぎるので、お店から早く撤去できるように、次々と高音質CDのシリーズを投入してほしい。
人気の薄いアルバムだと、復刻されないので、20年くらい前のCDが店頭にあったりします。
音が悪すぎて買えないのですが、ああいうのを音が良いCDに替えてほしい。
メーカーは「売れる見込みが…」と言いたいのでしょうが、「芸術に採算を求めるな!」と私は思います。
今回買った「カインド・オブ・ブルー」は、私は1990年ごろに出たCDも持っていたのですが、 あまりに音が悪いので捨てて、レコードで聴いてきた経緯があります。
本物の音楽の素晴らしさを堪能するには、最低でも『Blu-spec CD2』のレベルが必要です。
レコード時代からそうなのですが、音楽産業は少し音質改良をすると「今度は凄いぞ」と宣伝して、新たな復刻シリーズを投入してきました。
ほとんどは、新規にラインナップを立ち上げるほどの音質向上は無かったです。
でも、『Blu-spec CD2』はそれをする価値がある。
かつてのレコード盤では、盤の素材であるビニールの改良や、カッティング・マシンの改良が何度も行われました。
CDになってからは、「CDはデジタルで補正技術もあるのだから、デジタル処理で音を良くすればいい」との考えから、ハードのスペックが重視されて、ソフトのクオリティは無視されがちでした。
しかし、実のところ、音質改善にはレコード盤と同じ手法が有効なのではないか。
私は『Blu-spec CD2』を聴いて、その思いをさらに強くしています。
最後に、『Blu-spec CD2』で物足りなかった点(改善したほうがいい点、レコードと比べると劣っている点)について書きます。
物足りないのは、『音の濃さ(人間性の表現)』です。
どの楽器も、CDではかつてないほどにかっこ良い響きで再生されていますが、マイルスやコルトレーンらの音はもっと芸術の響きがしますよ。
まだ、表現の深さが甘い。
レコードだと、それぞれのミュージシャンの個性がもっと際立っており、ソロが別の人に替わると景色が変わり、「おおっ!」と思います。
それに、マイルスが「ピュワー」と高い音で叫ぶときには、もっともっと妖しく切ない表情が出ます。
ミュージシャンの人間性を、聴き手がビシビシ感じられるようにしてほしいです。
聴き終えた時に、「参りました」と頭を垂れるほどの圧倒的な内容と響きが、マイルスなど巨匠の名盤にはあります。
彼らの音を再現しようとするなら、感動のあまり手を合わせて拝みたくなるレベルの音を目指すべきです。