『日米合同委員会』という秘密組織については、私はしばらく前にTV番組で鳩山元首相が言及されているのを見て、初めて知りました。
その後、6月1~2日の日記で取り上げた翁長・沖縄知事のインタビューで、翁長さんも言及されていたため、「これは調べる必要がある」と思いました。
ネットで検索したところ、『日米合同委員会』を一般に知らしめた人物と思われる矢部宏治さんのお話がありました。
1つは鳩山さんとの対談です。
矢部さんの話は、とても面白い内容で、いま集団的自衛権の国会論争で出ている「砂川裁判」も取り上げています。
ノートに抜粋して取ったので、ここで紹介します。
以下を読めば、『安倍政権は、日本の自主独立を目指しているのではなく、真逆のことを(アメリカに従属し続けることを)目指している』と分かるでしょう。
○ 矢部宏治さんと鳩山友紀夫さんの対談 (週プレNEWSから抜粋)
鳩山
矢部さんの著書『日本はなぜ、基地と原発を止められないのか』を読んで、勇気を持って取材された事に敬服しました。
この本を読んで、「首相だった時に、もっと政治の裏側にある仕組みを理解していれば、結果が違っていたかも」と思いました。
首相まで務めたのに、この本に書かれている現実を知らなかったことを、恥じました。
矢部
鳩山さんは以前にインタビューで、「官僚たちは、総理である自分ではなく、『何か別のもの』に忠誠を誓っているように感じた」と言われました。
その正体が何であるかを、当時は分からなかった?
鳩山
思い通りに進まないのは、自分の力不足だと思ってました。
本来ならば協力してくれるはずの官僚たちは、私の提案(米軍基地の沖縄県外への移設)に対して「アメリカ軍との協議の結果、駄目です」と言い、全てをはね返してきた。
でも、「やっぱりアメリカはキツイんだなあ」くらいにしか考えてなかった。
深淵の部分まで考えが届いてなかった。
矢部さんのこの本には、アメリカ軍と官僚組織の繋がりや、司法やメディアまで繋がっている姿を、見事に解き明かしてくれました。
目からウロコが何枚落ちたか分かりません。
矢部
在日米軍と日本のエリート官僚で組織された『日米合同委員会』の存在は、当時は知らなかったのですか?
鳩山
お恥ずかしい話ですが、知りませんでした。
月に2度も、「アメリカ軍」と「外務省や法務省や財務省のトップクラスの官僚」が密な議論をしていたとは!
しかも、その内容は表に出ない。
私が総理の時、アメリカから「規制改革をやれ」と言われ、向こうからの要望書に従って郵政民営化などがドンドン押しつけられた。
あの時に、「この規制改革委員会はおかしいぞ」という所までは分かったのですが。
矢部
『日米合同委員会』は、在日米軍の特権、つまり「アメリカ軍が日本の国土を自由に使えるという権利」を行使するための協議機関です。
この組織が60年間も続いていくうちに、そこで決まった事に誰も口を出せなくなった。
一番の問題は、委員会のメンバーになっている法務官僚が、法務省のトップである事務次官に占める割合は過去17人中12人、そのうち9人が検事総長にまで上りつめている事です。
つまり、この委員会が検察権力を握っている事です。
在日米軍基地の違憲性をめぐって争われた1959年の『砂川裁判』では、駐日アメリカ大使のダグラス・マッカーサー2世は不当な形で介入をしました。
そして、「日米安保条約のような高度な政治性を持つ問題は、最高裁は憲法判断をしない」との判決をしてしまった。
ですから、日米合同委員会の合意事項が違憲であっても、日本国民にはそれを覆す法的手段がない。
鳩山
それはつまり、『日米合同委員会の決定事項は、憲法を含めた日本の法律よりも優先される』という事ですよね。
その事実を、総理大臣の私は知らなかったのに、検事総長らは知っていた。
(砂川判決の問題は、新たに裁判を起こして、新たな判決を出せば解決すると思う。アメリカの介入があった裁判をいつまでも判断基準にするなんて、どう見てもおかしい。)
矢部
鳩山さんの言う「官僚たちが忠誠を誓っていた何か別のもの」、つまり鳩山政権を潰したものは、日米合同委員会であり、そこで決められた安保法体系です。
鳩山
この真実は、メディアで報道されないし、委員会のメンバー以外には知らされてこなかった。
私がかつて自民党にいた時でも、当選1回や2回の議員は官邸内部の動きを知りようがありませんでした。
野党の場合、さらに情報量は少ない。
官僚たちは野党には冷たい対応をし、丁寧に説明しない。
国民は、その野党よりも情報が少ない。
矢部
在日米軍には、『横田空域』という1都8県にまたがる広大な空域があり、日本の飛行機はここを飛べない。
典型的な「アメリカ軍が自由に日本の国土を使える」事例です。
鳩山
地図を見ると、関東上空がこれほど広範囲にアメリカ軍に占領されている事実に仰天します。
沖縄だけではなく、日本全体が今でもアメリカに支配されている。
矢部
飛行ルートの阻害もありますが、それよりも問題なのは、『アメリカ軍やCIAのスパイが、この空域から自由に出入りできること』です。
こんな事は、普通の主権国家ではあり得ません。
この問題を国際社会にアピールしたら、みんなすごく驚くと思います。
結局のところ、日米安保条約とは、アメリカ軍が日本の基地を使う権利ではなく、日本全土を基地として使う権利を定めたものなのです。
これを「全土基地方式」というのですが、何としても変えていかないといけません。
鳩山
矢部さんの本では、アメリカ軍がそんな事をできるのは、国連憲章の「敵国条項」があるからだと書かれていましたが。
矢部
旧安保条約の第1条では、「在日米軍の特権は、日本側がそれを望み、アメリカ側がそれに応えた」と書かれていました。
そうする事で、日本の主権が侵害されても、国連は口を出せないロジックになっているんです。
ですから、日本にまともな政権が誕生して、国際社会の場で「全土基地方式はやめてくれ」と言ったら、「敵国条項があるから無理だ」とは絶対にならないと思います。
鳩山
アメリカの議会や国民は、日米合同委員会がどういう役割を果たしてきたか、委員会が今でも日本の主権を侵害していることを、知らないと思います。
この状況は、アメリカ国民から見ても「異常なこと」と映るはずです。
だから、アメリカの議会や国民に訴えることも重要です。
矢部
今、ドイツなどの多くの国が、「日本の原発事故による汚染」に怒っています。
あれだけ深刻な原発事故を起こしたのに、なぜ日本政府は原発推進の道を進もうとしているのか。
この背景には、『日米の原子力協定』という、自国のエネルギー政策ですらアメリカの同意なしには決められない、非常にいびつな構造がある。
それを国際社会でアピールしたら、この歪んだシステムに光が当たる可能性があります。
鳩山
そうですね。
基地問題だけではなく、原発も併せて海外に訴えるほうが意義があります。
ただし、結局はこの国の政治を変えない限り、流れは大きく変えられません。
○ 矢部宏治さんへのインタビュー(週プレNEWSから抜粋)
質問者 矢部さんが日本の戦後史を調査したきっかけは、何だったのですか?
矢部
民主党による政権交代とその崩壊ですね。
民意を得て誕生した鳩山政権があっという間に崩壊して、沖縄の基地問題も潰されて、菅政権になったら自民党と同じことをやっている。
これは一体どういう事なんだと、沖縄に取材に行ったのが始まりです。
「鳩山政権を潰したのは本当は誰だったのか」、その答えを知りたくなった。
カメラマンと2人で米軍基地の取材を続けていくうちに、色んな事が見えてきた。
最終的には、第2次世界大戦後の世界は、軍事力よりもむしろ条約や協定といった「法的な枠組み」によって支配されていると分かってきた。
具体的な例を挙げましょう。
アメリカ軍の飛行機は、日本の上空をどんな高さでも飛んでいい事になっています。
なので、沖縄では住宅地の上をブンブンと飛んでいる。
日本には『航空法』がありますが、日米地位協定に伴う『航空特例法』というものがあり、そこには「米軍機と国連軍機は、航空法第6章は適用しない」と明記されています。
これにより、「最低高度」「制限速度」「飛行禁止区域」などを定めた航空法第6章が、米軍機には適用されない。
『米軍機は、高度も安全も守らずに日本全国の空を飛んでいい』という驚愕の事実です。
ただし、米軍機は米軍住宅の上を低空で飛ぶことはありません。
なぜなら、「それは危険である」としてアメリカの法律で禁じられているからです。
実は、日本の地上も、潜在的には100%占領されています。
2004年に起きた『沖縄国際大学への米軍ヘリの墜落事件』では、米軍は一方的に事故現場(大学構内)を封鎖しました。
これは、「合法」なのです。
なぜなら、日米間では1953年に合意した、「日本の当局は、所在地のいかんを問わず、アメリカの財産について捜索・差し押さえ・検証は行えない」との取り決めがあるからです。
つまり現状では、『アメリカ政府の財産がある場所は、どこでも一瞬にして治外法権エリアになり得る』。
墜落したヘリの破片が「アメリカの財産」と見なされれば、日本の警察や消防は何もできない。
質問者 日本の憲法や法律の及ばない場所が、突如として現れる?
矢部
本来ならば、国民の人権が侵害されていいはずがない。
どんな条約も、憲法よりは弱い。
ところが1959年の『砂川裁判』で、最高裁は「日米安保条約のような高度な政治問題は、最高裁は憲法判断をしない」という、とんでもない判決を出してしまった。
しかもこの裁判は、『全プロセスが、アメリカ政府の指示と誘導に基づいて進められたこと』が、アメリカの公文書で明らかになってます。
この砂川判決で、「日米間の取り決めは憲法にすら優先する」という構図が法的に確定してしまった。
日本の法体系は、いまだにアメリカ軍の支配下にあると言っても過言ではありません。
日米安保条約の下には、日米地位協定がある。
さらに、この協定に基づいて、日本の官僚と米軍が会議する『日米合同委員会』があります。
これが「日本の闇の心臓部」で、米軍の特殊権益について取り決めを結んできた。
日米合同委員会のメンバーを経験した法務官僚の多くが、その後に検事総長になります。
そして検事総長は、アメリカ軍の意向に反する人間を攻撃して潰していく。
質問者 小沢一郎さんが検察のターゲットになったり、鳩山友紀夫さんの政治資金問題が浮上したのは、民主党政権がアメリカ軍にとって都合の悪い存在だったからかもしれませんね…。
矢部
ただし、この仕組みは「アメリカ軍と日本の官僚組織のコラボ」で生まれたものです。
実は、アメリカは決して一枚岩ではなく、国務省の良識派はずっと反対してるんです。
まともなアメリカ外交官なら、みんな思ってますよ。
「日本人はなぜ、これほど一方的な従属関係を受け入れているのだろう?」と。
考えてみて下さい。
世界でも有数の美しさと言われる辺野古の海岸に、自分たちの税金で外国軍の基地を造ろうとしている。
本当にメチャクチャな話ですよ。
でも、利権を持つ軍部から「イイんだよ、あいつらがそれでイイって言ってるんだから。」と言われたら、国務省の良識派も黙るしかない。
質問者 原発の問題も、同じ構図ですか?
矢部
原発も、基本的には軍事的なものです。
日米間には、『日米の原子力協定』があって、原子力政策については「アメリカの了承がないとやめられない」ようになっているんです。
しかも、この協定の第16条3項には、「この協定が停止、終了した後も、(ほとんどの条文は)引き続き効力を有する」と書いてある。
最悪なのは、東日本大震災から1年3ヵ月後に改定された原子力基本法では、「原子力利用の安全の確保については、安全保障に資することを目的として」と、するりと「安全保障」をすべり込ませてきた事です。
砂川裁判のように、安全保障が入れば最高裁では憲法判断ができなくなる(憲法判断を自粛してしまう)。
質問者
しかも、安全保障に関わるとして、原発情報を特定秘密保護法の対象にもできる。
日本が本当の意味で独立できる道はないのでしょうか?
矢部
第2次世界大戦の敗戦国である日本とドイツは、国連憲章の「敵国条項」で、最下層の地位となりました。
しかしドイツは、周辺諸国との融和をはかり信頼を得て、敵国的な地位から脱しました。
ドイツは1990年に、第2次大戦の戦勝4ヵ国(英米仏ロ)と講和条約を結び、東西ドイツの統一を実現しました。
そしてその条約に基づいて、94年までに駐留していた英米仏ロの軍隊を撤退させた。
現在ドイツにいるアメリカ軍は、NATO軍として駐留しており、行動には全面的にドイツの国内法が適用されています。
僕は、ドイツが真の意味で独立したのは、1994年だと思ってます。
長い間アメリカ軍の占領下にあったフィリピンも、上院で憲法改正を議論して、1991年に米軍基地の完全撤退を実現しています。
日本は、ドイツと同じ事をやればいい。
「憲法改正による外国軍撤退」というカードを持ちながら、「周辺諸国との和解をした上での、新条約締結による外国軍撤退」というドイツモデルを目指せばいい。
ところが、安倍政権は周辺諸国との緊張感をいたずらに高め、書店には「嫌韓・嫌中の本」が並んでいる。
まるで真逆の方向です。
「その方向は、日本の主権回復を阻む最悪の道だ」と言いたくて、『日本はなぜ、基地と原発を止められないのか』を書きました。