なでしこジャパンのW杯2戦目、その感想
これから進むべき方向性を考える
(2015.6.13~14.)

なでしこジャパンは、W杯のグループリーグ第2戦目となる『対カメルーン』を13日に行いました。

2対1での勝利となり、2連勝で勝ち点を6として、決勝トーナメント進出を決めました。

私は初戦と第2戦を観て、色々な事が頭に浮かんでいます。

それを書き、これからなでしこジャパンが進むべき方向性を、提示してみようと思います。

(※この記事はかなりの長文になるし、戦術についての細かい話になります。サッカーを愛する者でないと、きついかもしれません。)

私が2試合を観て一番思ったのは、『なでしこが試合の主導権をずっと握り続けるのは、不可能だ。パス・サッカーをするのは正しいが、苦しい時間帯には引いて、カウンター・サッカーに切り替える事も必要だ』です。

カメルーン戦では、日本が先に2点を取り、追い込まれたカメルーンは攻撃的に前に出て来ました。

その時に日本は、「パスを回して相手をいなし、隙を見て攻撃をする」という王者の戦術を行ったのですが、上手くパスを回せずにピンチを招いていました。

それで、最終的には引いて守るしかない展開になりました。
初戦の対スイスでも、後半は押し込まれる展開が続きました。

これを見て、「残念ながら、今の日本には精度の高いパスを回し続ける技術と連係がない。試合をコントロールし続ける事は難しい。苦しい時間帯には、守備ブロックを作って引いて守るのも仕方ない。」と痛感しました。

私は4月7日の日記にて、「川村・澤・阪口・宮間の4大ゲームメイカーを上手く使って、魅惑的なパス・サッカーをしよう」と提案しました。

これが、2試合を見てみて、実現が相当に難しいものだと気付きました。

私の提案は、理想としては美しいが、少なくとも今回のW杯期間中には達成できないと思います。

素直に誤りを認めます。すみませんでした。

私にとって大きな誤算だったのは、『日本の選手達が、後半になるとバテる』ことです。

前回のW杯では、日本はスタミナに優れていて、相手がバテる時間帯になっても運動量が落ちず、そこがアドバンテージになっていました。

日本は試合終了まで運動量があまり落ちず、いつも相手チームよりも動きがある状態でした。

その後の日本代表でも、その特徴は維持されていたと思います。

ところが今大会では、人工芝が敷かれているからなのか、後半20分くらいになると日本はバテてきて、むしろ相手の方が活き活きと動いています。

かなり衝撃的な状態です。

私が「魅惑的なパス・サッカーをしよう」と提案したのは、日本の豊富なスタミナを考慮した上で、「パスを回して相手を疲れさせていこう。そして、相手が疲れてきたり集中力が落ちてきた時に、動きの落ちない日本は積極的に動いて、 パスをどんどん繋いで崩し、得点しよう」という狙いがありました。

でも、開幕2試合を見た限りでは、この戦術が機能しそうにない。

日本の解説者の方々は、「パス・サッカーで勝とう、それが日本のスタイルだ」とおっしゃってます。

宮間キャプテンも、コメントを聞くとパス・サッカーで相手の守備を崩して勝つのを目指しているようです。

でも、「結構きびしいぞ。パスを繋げない状態も想定して準備しないと、やばい。」と、私は思うようになりました。

私が「川村・澤・阪口・宮間の4大ゲームメイカーを上手く使って、魅惑的なパス・サッカーをしよう」と提案した時、イメージとしては宮間さんは左サイドMF、澤さんと阪口さんはボランチ、川村さんはCBに配置してました。

で、「宮間でゲームを作れればそれでいいし、そこがマークされれば澤と阪口が作る。そこもマークされて自由が無ければ、最後方の川村がゲームを組み立てる」というのを考えていました。

3段構えの布陣にして、確実に誰かがゲームを組み立てられる(コントロールできる)のを目指したのです。
こうすれば、ボール・ポゼッション率も高められるだろうと考えました。

実際に、W杯が始まってみると、前線と中盤ではマークがきつくて、CBの岩清水さんがロングパスを出す場面がかなりあります。

私はこの状態を想定した上で、「川村さんは視野が広いしロングパスの精度が高いから、CBにいる彼女はほとんどフリーになれるし、彼女がゲームを組み立てるのが有効じゃないか」と考えたわけです。

でも、川村さんはボランチで使われ始めて、守備力が高い彼女をCBの前に置くのは1つの有効なやり方だと思うし、厳しい時間帯には彼女の守備力が活きてくると思う。

あと、W杯前の親善試合も加えての感想ですが、宮間と阪口の連係は完璧に近いが、川村+澤とか川村+阪口とか澤+阪口の連係がまだあまり良くないです。

だから、4人で緻密なパス交換をしたり、三角形の位置関係でパスの出し所を増やしたり、といった連係は難しい。

私としては、スペイン男子代表のような王者らしい完成度の高いパス・サッカーをしてほしかったけど、少なくとも今は厳しい。

『W杯で日本が優勝する』という目標を第一に考えると、闘い方をもっと工夫する必要があると思い至りました。

じゃあどうするかを、ここから書きます。

まず守備なのですが、『苦しい時間帯にはディフェンス・ラインを下げて、がっちり守備ブロックを固める』のも必要だと思います。

気をつけたいのは、6月12日の日記にも書いたのですが、ディフェンスラインを下げた結果、「相手のMFやSBをドフリーにして、そこから精度の高いボールをペナルティエリア内に入れられてしまう事」です。

日本は身体が小さいので、精度の高いボールを入れられてしまうと、相手のFWに競り負けてしまいます。

ペナ内での競り負け=失点なので、これは何としても避けたい。

避けるには、前線の選手が頑張ってボールホルダーにプレッシャーをかける事です。

私の見る限りでは、ある程度の寄せをすれば、どの選手もパスの精度がかなり落ちます。

現状だと女子には、『厳しい寄せを受けている中でも、ペナ内のFWにピンポイントで合わせるスーパー・パスを出せる人は、まだ居ない』です。

ディマリアやメッシやハメス・ロドリゲスみたいな、がっちりマークされていてもペナ内のFWにぴったり合うボールを出せる選手は、女子にはまだ居ない。

だから、ある程度の寄せをボールホルダーにしていれば、センタリングを上げられても何とかなると思う。

なでしこの守備を見ていると、こぼれ球の対応は上手いので、一発で決められなければ皆でカバーしてペナ外にはじき出せると思います。

なでしこは、たまにペナ外からのロングシュートで失点する事があります。
それも警戒しなければならないのですが、ボールホルダーにきちんと寄せていればそれも防げる。

カウンターを食らって失点するパターンも多いのですが、あれはボランチが常に1人残っていてカバーしたり、サイドバックが上がりすぎないように気をつければ大丈夫だと思う。

相手がカウンターを狙っている状況の場合(日本がリードしている場合や、相手がスピードのあるFWを起用している場合)、ボランチとサイドバックは、相方が(サイドバックだと逆サイドが)前線に上がった時は、もう1人は必ず残った方がいいと思う。

それが確実なやり方だと思います。

カメルーン戦を見て、「こんなにカウンターを食らっていたら、ドイツとかが相手だと確実に失点するな」と思いました。

これだけ読むとかなり守備的になる感じですが、日本の時間帯ならば、普通にリスクを取って攻めてもいいです。

体力が落ちてきた時や、集中力が落ちてきた時に、引いて守備ブロックを作ればいいです。

3人ある交代枠は、人工芝で疲労が大きいのならば、2人くらいは「疲労の濃い人を交代させる」かたちでもいいのではないか。

カメルーン戦では、近賀さんの所からやられて失点してしまいましたが、彼女は後半の途中からかなり疲れていましたよ。

守備に関しては、6月12日の日記にも書いたのですが、『複数の人数でボールを奪いに行く時は、きっちりボールを取る』のも重要です。

数人でボールホルダーを囲んでおいて、そこからパスを出されてしまうと、本当に危険です。

パスを出されてしまうとモロに失点に繋がる時があるので、ゴールから遠い位置の場合は、「奪いきれない」と思ったらファウルするのも手です。

さてと。ここからは攻撃面を書きます。

私がなでしこの開幕2試合を見て、一番不満を感じた攻撃面は、何だと思いますか?

答えは、『前線にいる大儀見さんと菅澤さんが、ぜんぜんボールをキープできていないこと』です。

彼女たちからは、「私が得点を決めたい」と強く思っているのが伝わってきます。

それ自体は別にいいのですが、気持ちが空回りして、攻撃の組み立てに参加する意識(パス回しに参加する意識)が疎かになってます。

大儀見さんと菅澤さんがもっとポストプレイを出来ていたら、日本の攻撃は全く別物になっていたと思います。

とにかく身体を張ってボールをキープし、味方に良い形で繋げてほしい。

宮間さんや澤さんらは、良い状態で前を向いてボールをもらえれば、必ず素晴らしいパスを出しますよ。

ここではっきりさせたいのですが、なでしこジャパンは『皆が攻撃に関わって、色んな人が得点をするチーム』です。

本質的に、センターフォワードが毎試合ごとに得点をする、みたいなチームじゃないです。

だから、FWが得点してなくても、攻撃が機能して誰かが得点できれば問題ないです。

親善試合とかアジア杯ならば、FWの人は得点するのを最優先して、代表定着を狙うのも理解できる。

でも、W杯ってそういうもんじゃない。

全員が献身的なプレイをして、1つずつ勝ちあがっていく、そういう大会だと思う。

私は、大儀見さんは大会中に1点も取らなくても、味方に良い形でボールを渡したり、良い動き出しで相手DFを引きつけて仲間をフリーにしたりすれば、合格だと思います。

せっかく海外でプレーしてきたのだから、もっともっと身体を張ってDFと闘ってほしいです。

6月12日の日記で指摘した、スイス戦では物足りなかったサイドMFの縦への突破は、佐々木監督も気にしていたようで、その改善を指示しましたね。

そうして、カメルーン戦ではだいぶ改善されました。

たぶんサッカーファンの多くが今思っているでしょうけど、川澄さんは、もっとスペースへの走り込みとかドリブル突破をした方がいいです。

今までやっていたのに、なんでW杯の大舞台でやらないの?
鬼のように走りまくる姿こそ、川澄さんの真骨頂じゃないですか。

左サイドは、宇津木さんがサイドバックでその前に鮫島さんがいる時、凄く機能していると思いました。
この配置は、有効だと思う。

宇津木さんは、ボランチよりも左サイドバックのほうが遥かに良いと感じてます。

私が提案した「上尾野辺さんをMFで使うこと」は、カメルーン戦の最後で実現しましたね。

「おおっ!」と思いましたが、出場時間が短かったので、どこまで有効かは分かりませんでした。

でも、彼女は頭の良いプレイヤーだと、見る度に思いますねー。
ポジショニングにセンスの良さを感じます。

繰り返しになりますが、FWが前線でボールをキープしてしっかりと味方に繋げれば、ぜんぜん違う攻撃になると思います。

宮間さんは、前線から落とされたボールをもらった時に、一番輝く人ですよ。

攻撃センスがあるとされている永里さんは、代表でのプレイを見る限りだと、ポジショニングがおかしいんですよね。

攻撃の時も守備の時も、1人だけ試合の外に居るみたいに浮いているんです。
ポジショニングを改善すれば、テクニックはあるので活躍できると思う。


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