浅田真央さんの演技が素晴らしい
彼女を褒めちぎる
(2015.12.9.)

フィギュア・スケート界を代表するスターの浅田真央。

彼女は一時は引退していたが、しばらく前に復帰しました。

浅田さんは素晴らしい選手だし、人間としても面白い奴なので、私は復帰するのを期待していました。

で、10月初めに復帰したのでさっそく演技を見たところ、以前よりも優雅だし、ステップワークが美しいので、すっかり参りました。

今日は、彼女を取り上げようと思います。

実は、この記事を書く理由の1つには、彼女を元気づけようと思う気持ちもあります。

彼女は復帰直後は調子が良かったが、最近は調子を落としているらしく、表情が冴えない。

彼女は嘘のつけない良い人なので、何でも顔に出る。
私はそこが大好きなのですが、今は不安を抱えている状態です。

明後日から、浅田さんらが参加するグランプリ・ファイナルが始まるが、「どんな演技になるのだろうか。全く読めない。こけまくる可能性もあるぞ。」と感じています。

もう1つ、記事を書く理由があります。

私は11月21日の日記でバレーボールを取り上げたのですが、そこで浅田真央の名を唐突に出し、「負けず嫌いの代表、怒らせたら怖い人の代表」としました。

嘘を書いたわけではないです。

本当にそう感じているから書いたのですが、「彼女が見たら傷つくかもしれない」と、ほんの少しだけですが反省しました。

以上の理由から、今日は浅田さんを褒めちぎろうと思います。

ついつい筆が滑って、浅田さんが眉をグイッと吊り上げる事を書いてしまうかもしれない。

だが、彼女は本当に良い人なので、たぶん許してくれると思う。

羽生さんの演技にも感動しているので、彼についても書こうと思います。

私が浅田さんの記事を書こうと思った最初は、復帰戦を見た時でした。

はっきりと憶えていないのだが、グランプリ・シリーズの大会ではなかったと思う。

彼女が1年ぶりに復帰するというので、テレビ局はえらい力の入れようだった。
過去の映像をたくさん流し、浅田伝説を語ろうと必死だった。

「気持ちは分かるけど、そこまで煽るか。彼女の出来が悪かったら、どうなってしまうのだろう。」と思いましたよ。

幸いな事に、彼女の出来は素晴らしかった。

正直な話、今まで私が見た中では、一番美しかった。

私はだいぶ前にフィギュアスケートを日記で取り上げた際、「浅田さんは、ジャンプはもう最高レベルだから、今度はそれ以外の部分を向上させてほしい」と書いた。

これが、完全に実現していた。

ステップワークや、1つ1つのしぐさが、以前と比べものにならない位に洗練されていた。

忌憚なくずばり言うが、私はジャンプを重視していません。

4回転ジャンプを見ても、ほとんどワクワクしないし、「へー、速いね」としか思わない。

フィギュアスケートをTV観戦する中で、ジャンプの踏み切り方で技名が違い、点数も違うことを知りました。

だが、「どんな踏み切り方でも、感動に大差ないな」と思うのは変わらないです。

もし7回転する選手が現れたら、「史上最高の選手」と評されるだろうが、私は「速すぎてぜんぜん見えん。アホか。」と思い評価しないでしょう。

ぶっちゃけた話、現状の4回転ですら速すぎると思う。
目を皿のようにしないと回転数を数えられない(確認できない)し、スロー再生で見ると選手たちはもの凄い形相をしているので引いてしまう。

芸術の観点からすると、4回転は過剰で、観賞するのに最適ではないと考えています。

私の場合、2回転してくれれば十分です。(1回転だとさすがに寂しい)

私の大好物は、美しく軽快で独創的なステップと、滑らかで速い回転技(ジャンプしなくて、1ヵ所に留まってクルクルするやつ)です。

もし私がルールを決められるなら、ジャンプする数は、ショートは1回、フリーは2回に制限するでしょう。

バッタじゃないんだから、あまり頻繁に跳ばれても困る。

それに、ジャンプに失敗する人が多いから、見ていてハラハラしてしまい、心臓にも悪い。

付け加えるなら、イナバウアーが大好きなので、「ショートでもフリーでも1回はイナバウアーを入れること」も、ルールに入れますね。

こんな私なので、浅田さんの復帰戦では、ジャンプの種類でもチャレンジしたらしいがそこには全く目がいかず、ステップばかりを見ていました。

滑らかで、上品で、愛らしく、セクシーな演技は、それまでの彼女には無かったもの。

引退前の滑りは、ジャンプがとにかく重視されていて、『ジャンプとジャンプの間』は(その時間の方がはるかに長いのに)どこかおざなりでした。

次のジャンプまでの休憩時間といったら大げさですが、見応えがなかった。

ここが、大きく変わった。

演技の最初から最後まで途切れる事なく見せ場があり、ずっとクオリティが一貫しているので、芸術性が格段に上がりました。

私は、「浅田真央は、アスリートからアーティストに進化した」と思いましたよ。

その後、彼女はグランプリ・シリーズ(中国大会)に出て、優勝しました。

この時は、ジャンプは不安定だったが、ステップは素晴らしい出来で芸術的な輝きを放った。

復帰後の彼女で感心したのは、「上品な色気」が増した事です。

芸術には、「上品な色気」がとても大切なのです。(下品なのはダメ、上品なのが肝)

年齢を重ねたからなのか、以前よりも大人のムードがあり、身体のラインも成熟した完成度があります。

バレエを習った成果が出たのか、動作に優雅さが溢れている。

ロシアの選手はみな優雅さを持っているが、それとは違うタイプの和の雰囲気のもの。
彼女にしか出せない世界で、その完成度は高く、ただただ褒めるしかない。

そんなアーティスト浅田真央ですが、その次のグランプリ戦(NHK杯)ではジャンプ・ミスを連発した。

演技を終えた直後のインタビューは、ソチ五輪の時を思い出させる沈痛なものとなりました。

質問に答える彼女は、顔はどす黒く変色し、目はよどみ、嫌な汗が顔一面から噴き出していた。

「どうした真央!」的な空気が辺りを支配していましたが、私はいたって平気で、「そんな日もあるさ、みんな深刻に捉えすぎだよ」と爽やかな気持ちで見ていました。

彼女は調子の波が激しい。
グワン、グワンと上下にうねる波をしています。

それを理解したので、驚きはなかったです。

私はジャンプを重視しておらず、すなわち点数(順位)も重視していません。

この日もステップワークはそれなりの出来だったし、まあまあ楽しめました。

だから、メディアが順位や得点に目がいって騒ぐ中で、クールさを保てました。

浅田さんが演技中に見せた『3回転ジャンプが1回転になる』というミスも、平常心で見守れた。

以前だったら確実にずっこけてしまい、「おいっ!」とツッコミを入れたこうしたジャンプに対しても、「なるほど、そう来たか」としか思わなかった。

私は、アーティスト浅田の演技にすっかり魅了されて骨が抜かれたのか、彼女の演技に対する耐久度が、えらく上がってしまいました。

驚くことに、『3回転ジャンプが1回転になる』のを、『観客の意表をつく小粋な演出』と解釈できる所まで、進化してしまいました。

彼女がスルッと力の抜けたジャンプをし、回転不足で着地すると、「おっ、そう来たか。その演出も良いねえ。今度はどうなるのかな?」と、楽しい気持ちになる。

次の展開が読めなくなって、ワクワク・ハラハラし、演出家・浅田の次の1手(次のジャンプ)が待ち遠しくなる。

刑事が主役のTVドラマで、刑事の男がプライベートで恋人と過ごしていて、2人は見つめ合い気持ちが盛り上がってきて熱いキスを交わそうとする。

その時、ポケットにある携帯電話が「プルルー」と鳴り出す。

電話に出たら、上司が「事件だ、すぐに来い!」と大声で叫び、盛り上がっていた雰囲気が一気にしぼむ。

たまにあるでしょ、こういう演出(脚本)。

行くぞー!と盛り上げておいて、スッとかわす。

浅田真央のやる『3回転ジャンプが1回転になるという、驚きの演技構成』は、この高等な演出なのです。

アーティスト浅田は、観客を飽きさせない。

時にこの様な意外性のある、ユーモアのある演出を、ジャンプ回転の不足という技を使って、見せてくれるのです。

今シーズンのフリー・プログラムでは、彼女は「蝶々夫人」を演じています。

少し哀愁をおびた雰囲気で、緻密に繊細に上品に、色気をたたえながら演じていく姿は、偉大なアーティストそのもの。

可憐で美しい。

この演技でいちばん好きな場面の1つが、最後の決めのポーズです。

滑りを終え、膝を氷上につき、上を向きつつ両腕を広げ、胸を反らして鳳凰みたいなポーズをする。

そこまでの滑りはずっと優しい世界を作っているが、最後だけ力強い。
仮面ライダーの「変身!」のポーズみたいに、気迫の満ちるポーズとなっている。

この時の浅田さんは、目はカッ!と見開かれ、額には青筋が浮き、それまでの演技から顔全体が汗でこってりとしている。

女性としては見せたくない姿だと思うのだが、TVカメラは容赦なく大アップにしてしまう。

大アップで必死な顔の彼女を見た時、「浅田さんって、本当に面白い人だなあ」と嬉しくなりました。

私は、真剣で嘘をつかず、人の目を気にせずにとにかく頑張っちゃう人が、大好きなのです。

浅田さんは、いつでも氷上では大真面目で、そこが素晴らしい。

演技の直前に、超真面目な顔つきをしながら、何度も腕を振ってリラックスさせようとしたり、動きのおさらいをするのも、一生懸命さが伝わってきて大好きです。

演技直後のインタビューで、演技への満足度(不満度)がモロに顔に出るのも、嘘のつけない性格が見えて好感が持てる。

出来の悪い演技となり、落ち込みまくった時の彼女も、慣れてくるとそれはそれで味があると思えてきた。

おそらく日本人のほとんどが、浅田さんが次のオリンピックで金メダルを取るのを期待していると思う。

私は、華麗で優美なステップを見せてくれれば、それ以上は求めません。

金メダルにはジャンプが重要になるが、そこに興味はない。
2回転で十分だし、3回転が1回転になるのも小粋な演出として受け入れる。

おそらく羽生さんは、次のオリンピックでも金メダルを取るでしょう。

それで十分だ。

アーティスト兼演出家の浅田真央は、ただ自分の演技を思うまますればいい。
私はそう思う。

浅田さんは、10年くらい日本のフィギュアスケート界を引っ張ってきた。

その結果、グランプリ・ファイナルに日本人がわんさか出るまでに成長した。

日本フィギュアスケート界のドンである浅田は、重いものを羽生さんに渡していいと思う。

アーティスト浅田よ、重鎮の呪縛から自由になりなさい。

眉をしかめて演じる姿も美しいが、重圧から解放されて、柔らかい顔で伸び伸びと演じる姿が見たいです。

さて。ここからは、羽生さんについて話します。

彼は一時は調子を落としていたが、復調し、先日のNHK杯では300点を大きく超える史上最高点をたたき出した。

伝説を生み出したその歴史的な演技を、私もTVで観た。

多くの人はジャンプの凄さを指摘するが、私は「ステップ(足さばき)が上手くなった。演技に力強さが出た。滑りの緻密さがアップした。」と感じました。

彼は以前から滑りがなめらかだったが、足の運びにさらに無駄がなくなった。

コーチからステップを鍛えるように指導されたとの事だが、見事に演技に活きていますね。

そして、以前は筋力に弱点があったのだが、身体が太くなり克服されつつある。

フィギュアスケートは、筋肉で固めすぎると重くて動けなくなるので、どの位まで身体を太くするかが難しい。

羽生さんは、今とても良いバランスの状態だと思う。

筋力がアップしたので、演技のスケールが大きくなりました。

彼についても、私は賞賛の言葉しかない。

羽生さんは、雰囲気も変わりましたね。

性格が丸くなり、ファンとの関係も力の抜けた自然なものになった。

以前の羽生さんは、ファンに振り回されていたのか、自分のカリスマ性に溺れていたのか、息苦しい雰囲気があった。

彼の姿を見ていて、「この人、尾崎豊と似ているなあ」と何度も思わされた。

彼とファンとの異常な熱気のある交流を見ていると、「羽生さんは、熱狂的な信者と共に、どこか別の世界に旅立ってしまうのではないか」とすら思えた。

現世に降臨した救世主・羽生結弦。それを崇め奉る信者達。

その「羽生教」の集会・儀式の場(羽生さんの出る大会)を、私たち一般人が冷めた目で見る、こんな状態になりかねなかった。

私は心から喜んでいるのですが、羽生さんは「人間宣言」をしたようです。

一部の人の救世主ではなく、人間として生きていくことを選択した。
そして、優しい笑顔をするようになった。

彼が人間に回帰したので、ファンも冷静さを保っている。

だから、私は安心して観戦することができます。本当に嬉しい。

彼は、もう2度と崇められる存在になる事を選択しないでしょう。

そう確信させるだけの、吹っ切れたものを感じます。

だからこそ、おそらく次のオリンピックでも金メダルを取る。

次は、浅田さんが吹っ切れてほしいなあ。

彼女はいつも、肩に力が入っている。
おそらく肩凝りで悩んでいるはず。あんなに力んでいたら、バキバキになると思う。

リラックスしたら、もっと素晴らしい演技が必ずできる。

あの人は真面目で不器用だから、ファンやメディアが煽ると(期待を寄せると)乗せられてしまう。力んでしまう。

私のように、ジャンプ・ミスを「演出」として楽しむくらいが、ちょうど良いです。


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