小田原市立図書館のこと
(2019.10.29.)

私が住む町「小田原」にある、小田原市立図書館。

これがもうすぐ、老朽化を理由に壊され、駅前のビルに移るといいます。

現在の小田原市立図書館は、小田原城エリアの一画にあり、その歴史はかなり古いようで、トイレはボロボロだし、館内にエレベーターも無いです。

だが、そんな状態だから人があまり来ないので、逆に快適に過ごせます。

利用者が少なめなので、一時は新聞コーナーが路上生活者の溜まり場になっていました。

特に冬の時期だと寒いので、暖かい館内で読み物をしながら、いりびたっていました。
だぶん閉館になると路上の家に帰っていたのだと思います。

私としては、「何の問題もないし、むしろ寒くて困った人が逃げ込める場所があったほうがいい」と、好意的な目で見ていました。

しかし批判的な目で見ていた者もいたようで、追い出されてしまったらしく、最近は見かけません。
ちょっと寂しいです。
あの人達は無事に暮らせているのだろうか。

そんな小田原市立図書館ですが、美点も多いのです。

まず挙げられるのは、子供コーナーが別の階にある事ですね。

1階が子供本のコーナーと遊び場になっていて、2階は職員の作業場、3階が一般用の図書館になっています。

普通の図書館だと、同じ階に一般コーナー(大人用のコーナー)と子供コーナーがあるので、一方では黙々と机に向かって勉強している人達がおり、その近くには子供達が親から「大人しくしなさい」と注意されながら居るという形になってしまいます。

それで、やっぱり騒いでしまったり泣いてしまう子もいて、静かな館内にその声が響くという事になります。

これが小田原市立図書館にはありません。

だからもの凄く3階の一般コーナーが落ち着いています。
本の選択や読書に没頭できる環境になっています。

居心地が良いから、路上生活者の溜まり場にもなったのだと思います。

次の美質は、郷土資料が充実している事ですね。

基本的に図書館というのは、その地域の歴史や文化を学んだり発信したりする拠点でもあります。

小田原は歴史が古く、昔から都市として整備され機能してきました。北条五代が関東を制覇した事もあり、やはり歴史研究が盛んらしく、そっち方面の本が並んだ書棚がドーンと目立つ所にあります。

あとは絶版になった本が沢山ストックしてある、のも素晴らしいですね。

3階の書棚には並んでいないのですが、据え置いてあるコンピューターで検索すると、絶版になった本がかなりしまってあるんですよ。

で、読みたい本を受付に伝えると、書庫から持ってきてくれます。

普通の人からすると「へえー、そうなの?」くらいにしか感じないかもしれませんが、私みたいに歴史などを熱心に学んでいる者からすると、大変にありがたいサービスです。

「読みたいけど半世紀も前のもので簡単には入手できない。ネットで探せばあるけど値段が張る」といった場合に、その本を図書館で検索してヒットし、画面に「番号なになに、閉架」と表示され、書庫にあるのが分かった時は、嬉しさで一杯になります。

小田原市にはもう1つ、かもめ図書館という新しくて駐車場も広い、現代的な図書館があります。

そっちもよく利用しますが、絶版になった古い本は少ないんですよね。

たぶん小田原市立図書館は最も歴史が古く、そこに置いてきた本が、今では絶版になった本たちが、まだ残されているのでしょう。

この物を大事にする姿勢や、読みたい人が現われた時のために書庫に置き続ける姿勢を、私は非常に高く評価しています。

「お前は図書館の鑑だ」と、拍手したいくらいです。

小田原の町と共に生きてきた市立図書館。

数え切れないほどの人達が足を運び、学んできた、小田原の知性を育む偉大な拠点。

それが、閉じられてしまうというのです。

そうして、駅前のビルの中に移設され、民間委託されるという。

あまりにも異常な事なので、にわかに信じがたいのですが、その民間委託は2~3年で契約を替え、業者を替えていくというのです。

私からすると、地域の知的拠点を民間に委託させる事が、すでに暴挙なんですけどね。

2~3年で業者が替わっていくなんて、市立図書館はどうなってしまうのだろう。
そもそも、それは市立図書館と呼べるのだろうか。

数年前くらいに、どこかの公立図書館がツタヤに外部委託したという話を読んだ事があります。

利用者を増やすために、館内に喫茶店を併設したりし、お洒落な空間を目指すのだという。

それも1つの行き方なのでしょうが、そんな風に小田原市立図書館がなってしまったら、幻滅だなあ。

私に言わせると(図書館愛用者の多くもそうだと思うのですが)、図書館にはお洒落さも娯楽性も要らないんですよ。

「知を育むために、勉学したり創造したり哲学したりするための相棒(本)を借りるために」、図書館を利用してます。

コーヒー飲んだり雑談したりする人達が中心になり、そういう片手間でたむろする場所になったら、ド白けに白けてしまうなあ。

私からすると、静かに新聞を読み漁る路上生活者の人々ならいくら居てもいいです。
読書しに来てるのだからね。

だが、コーヒーを飲みに来て本は冷やかし程度に触る人々が来たら、「お前ら別の場所に行けよ、ここじゃなくてもコーヒー飲めるだろ」と腹が立つと思います。

それに民間委託をして「合理的な経営」になったら、ほとんど読む人は居ないが、学問するには大切な本を、置いておくという選択を出来るのでしょうか。

図書館というのは、時を越えて受け継がれる知の保管庫なのであって、娯楽施設ではありません。

それが分かってない人が、「図書館ってつまらないよな、ツタヤみたいになればいいじゃん」とか言い出し、それが採用されてるのではないか?

小田原市立図書館の建物が、老朽化して痛んでいるのは、利用者の誰もが知っています。

だから新しく造るというのは分かるのですが、その方法に納得がいきません。

それに、老朽化しているけど、直し直しで使い続ける道だってあるじゃないか。

あのボロい感じが最高なのに。
あれが侘び寂びなんですよ、和の心なんですよ。

あのボロいのが小田原城のすぐ近くにあるのが、味わいなんです。

かもめ図書館のほうは新しい建物で、広々して開放的なスタイルなのだから、大衆向けはあれで十分でしょう。

市立図書館は、硬派なスタイルでいい。

入口の所に分厚い辞書みたいな本を並べ立て、普通の人が怯えて入れないくらいに、硬派でもいいんじゃないか。

小さな子だと泣き出すくらいの感じでね。

まあこれは冗談ですど、とにかく図書館は地域の学問の中心地であってほしいです。

娯楽の中心になってはいけません。

民間委託というのは、どうも行政で流行っているらしいですが、全てを丸投げしつつ業者と癒着して利権を作るという、詐欺的な臭いがします。

民間委託するくらいなら、撤退・閉鎖したほうが、誠実だと思います。

下請け会社に全てを投げて、面倒なことは全部任せてしまい、利益の一部だけはしっかり頂く。
そういう手法の導入に見えて仕方ないです。

「小田原市立図書館」という、市の看板を背負った施設の1つが、民間委託して劣化したら、小田原の恥だと思います。

きちんと議論したほうがいい。
今からもう一度、計画を練り直したほうがいいと思います。

なによりも、市民に情報公開したほうがいいです。
たぶん知らない人もかなり居ると思うので。


日記 2019年10~12月 目次に戻る