水滸伝⑮(以下は『新・水滸伝』吉川英治著からの抜粋
2026年9月16~22日に作成)
🔵目次
🔵前回のあらすじ
殺人をしてしまった母思いの雷横は、親友の朱同の手引きで逃亡し、梁山泊に逃げ込んで一味に加わった。
殺人犯を逃がした朱同は刑に服したが、牢長に人柄を見込まれ、牢長の幼子の傅役を任された。
服役中の朱同を梁山泊の雷横・呉用・李逵が助けにきたところ、李逵が牢長の幼子を溺れさせ、迷信を信じて見殺しにしてしまった。
これに激怒した朱同は李逵を殺そうとしたが、柴進や呉用が仲裁し、李逵はしばらく柴進の所で謹慎することと決まった。
柴進は名門の家に生まれ、大金持ちで広大な邸宅に住んでいるが、有徳の人で名声を得ている。
彼の交際は広く、梁山泊の者たちとも交わりがある。
柴進はその邸宅に多くの食客を抱えており、李逵はその一員になってしばし暮らし始めた。
🔵柴進は重要事で高唐州へ行く。李逵がお供する
李逵が柴進の邸宅のごやっかいとなり、それから40~50日が過ぎたある日のこと。
柴進の所へ一通の書が届いた。
読んでいる柴進の手が震えているのを見て、居候の李逵が声をかけた。
「何か、えらいこっても持ち上がったんですかい?」
「むむ、お前に話しても仕方がないことなのだ。これは私自身が高唐州まで出向くしかあるまい。」
李逵はそれを聞くや、身を乗り出して叫んだ。
「ありがてえ、お供ができる!
ねえ柴大人、旅立ちならばあっしも身支度にかかります。ご出発はいつで?」
「誰が連れて行くと言った。物見遊山とはわけが違うわ。」
「でも、あっしがここへ預けられてもう50日。一歩だって門の外を踏んでねえ。ぜひ連れて行っておくんなさい。」
「ちっ、人の心配も知りおらんで」と柴進は舌打ちした。
だが李逵もお供が許され、柴進の家来10人と共に高唐州へと旅に出た。
半月余りで高唐州に着くと、すぐに柴進は名族の親戚・柴皇城の住む大邸宅へ向かった。
「間に合わなかったか。叔父さんは世を去ったか。」
喪で閉じられた門を見るや、柴進は涙を流した。
🔵柴進の叔父の死。柴進は李逵をかばって逮捕される
柴進が線香を上げ、叔父(柴皇城)の亡くなった詳しい事情を聞くと、ただ事ではなかった。
近頃この地方に、軍司令官として高廉が赴任してきた。
高廉は、宋の朝廷で総理大臣をつとめる高俅の従兄弟で、権勢をふるっている。
高廉の妻の弟の殷直閣という青二才が、大勢の取り巻きと共に、この地でのさばり歩き始めた。
ある日、殷直閣が柴皇城の邸宅を訪れて、「庭を見せてくれ」と言った。
そして「すばらしい庭園だ。さっそく義兄におすすめしよう」と言って帰った。
ほどなく「10日以内に立ち退け」と殷直閣が言ってきた。
柴皇城が断ると、現れた殷直閣は柴皇城を足蹴にし、取り巻きと一緒にさんざん暴行して立ち去った。
これが柴皇城の死因だった。
一部始終を聞いた柴進は、「私の家に伝来する文書は、柴家が古い名家であることを証明しています。それを宋の皇帝に示せば、殷直閣の暴政もおさまるでしょう」と遺族に話した。
すると脇で聞いていた李逵がヘラヘラと笑い出して言った。
「そんなの無駄に決まってらあ。訴えの筋が通るようなお上なら、各地で謀反なんて起きてねえよ。」
柴進が叱った。「これ、李逵。駄弁を弄すな。下がっておれ。」
柴進たちが到着したちょうどこの日、柴皇城の家に30人余りのならず者を連れて殷直閣がやって来た。
「柴皇城の病死と葬儀だというから、やむなく今日まで待ったやったが、葬儀は終わったそうだな。さっそく明日ここを明け渡せよ。よろしいな。」
柴進が玄関に出て、「威をかさに着て非道を押すならば、こちらにも考えがある」と啖呵を切った。
「あはははは」と馬上の殷直閣は大笑いし、「こいつも死んだ皇城と同じ事を言いよる。それっ、こいつらを追っ払ってしまえ!」
あらかじめ計画していたことなのだろう、直閣の手下たちはわっと土足のまま邸内へなだれ込んだ。
ここで李逵が愛用の二丁斧を振りかざすや、次々と手下を斬っていき、直閣も斬り殺してしまった。
残った手下たちが逃げ去るのを、柴進は茫然の態で見送るしかなかった。
「李逵!とんでもない事をしてくれたな!ああ、とり返しはつかん。」
「いけませんでしたか」
「知れたこと。いかなる訳でも人を殺してはいかん。
だがもう遅い。きさまはすぐに梁山泊へ落ちて行け。」
「逃げる気なんざありませんよ」
「いいからここに居るな。あとは私が引き受ける。
きさまがお縄になったら、梁山泊の者たちにも禍いが及ぶ。
この柴進なら、出る所へ出ても申し開きができる。
早く路銀を持って行け。」
柴進はふところから金を取り出して渡し、李逵を逃がした。
柴進は捕手に身をまかせ、裁きの場へ進んで立った。
しかし奉行の高廉は、殺された直閣の姉の夫である。
しかも高廉は公平な人物ではなく、奸人であった。
🔵柴進を救出するため梁山泊軍が出動する
梁山泊へ帰った李逵が柴家のことを話すと、晁蓋以下の頭領たちは「あきれた奴だ。お前はまた事件を起こしたか!」と大目玉である。
柴進大人の後難が案じられると、皆が眉をくもらせた。
心配する晁蓋たちは、速足の戴宗を様子を見に高唐州へと派遣した。
半月ほどで戻ってきて戴宗が言った。
「柴進どのは獄中にあり、柴家の邸宅と名園はそっくり没収され、高廉の別荘になっています。
高廉の妻も悪い女で、柴進どのを拷問しており、このままだと直閣殺しの犯人として死刑になる見通しです。」
「梁山泊にとって柴進様は大恩人だ。放ってはおけない。
まして事の起こりはウチの李逵から出たこと。」
この意見で一致し、軍師の呉用の作戦の下に救出のため軍をくり出すことに決まった。
7千人という梁山泊の兵員の大半を動員することになったが、これは高廉がその地の軍司令官で、名省から選抜された「飛天神兵」という精鋭部隊も抱えているからだ。
🔵梁山泊軍は高廉の妖術に苦戦する
高廉は、梁山泊軍が柴進を救出するためこっちに向かっていると聞くと、
「なに、梁山泊の野ねずみの巣はいつか踏みつぶそうと思っていたが、彼らから出て来たとは誂え向きだ。すぐに城外へ出て布陣するぞ。」と大号令を発した。
梁山泊軍と高廉軍の戦いは、まず飛天神兵の一員の于直と林冲の一騎討ちで始まった。
10合と戦わぬうちに于直は討たれて馬から落ちた。
続いて飛天神兵の中から温文宝が喚いて出たが、これも秦明と戦って斬られた。
高廉は自軍の不利を見ると、剣を抜き放ち、剣の刀背(みね)を眉間に立てて呪文を唱え始めた。
花栄は「あっ、奴は妖術を使うのか?」と驚き、思わず弓を引きしぼり、矢を高廉の真額めがけて射た。
しかし黒い気が高廉を包んで矢は当たらず、突然に大地は鳴り、強い風と共に小石ほどの雹が降って来た。
梁山泊軍が動揺して逃げる中を、飛天神兵たちが槍を振るって駆け回り、またたくうちに梁山泊軍は千人の兵を失ってしまった。
残兵6千を自陣にまとめた後、総大将の宋江は軍師の呉用に尋ねた。
「あれは何だったのでしょう?あの天気の異変は。」
「高廉は妖術を使う者なのでしょう。よほど道教の方術を修得しているに相違ない。」
その夜、宋江は例の天女から授かった「天書三巻」を読み直し、破邪の法や破術の法を学んだ。
彼は自信を持って翌日に出陣したが、その日も次の日も梁山泊軍はさんざんに負けた。
高廉の術は千変万化で、宋江では太刀打ちできなかった。
こうして戦うこと10日で、梁山泊軍の兵数は3千まで減ってしまった。
🔵公孫勝を探しに戴宗と李逵が向かう
宋江と呉用は相談し、道術を使える公孫勝を探して出して高廉に当たらせるしかないと結論した。
そして帰郷したまま行方知れずの公孫勝を、速足の戴宗に探させることにした。
戴宗は、公孫勝の故郷である薊州へと直ちに向かった。
これに随行したのが李逵である。
李逵は「ことの起こりは自分が殷直閣を殺したことにある」と言って、神妙な態度で哀願したので、同行を許された。
(※補足すると戴宗と李逵は、かつては上司と部下の間柄で親しい仲である。)
「だが李逵、断わっておくぞ」
「へい、何をで」
「私の神行法は道中では精進潔斎だ。守らねば神力が破れてしまう。」
「酒を呑まず肉を食わずで居りゃあいいんでしょ?」
かくて2人は空を飛び、薊州の上空から公孫勝を探した。
「戴宗さん、今日でもう7日も探してやすが、飛んでいるのは田舎ばかり。
人里へも出てみなくちゃあ。」
「だが公孫勝は田舎にいる母恋しさに郷里へ帰った者だ。
それに彼のような修道者は市井にいるはずはない。」
「ですか薊州の田舎は山ばかり。山のひだにいる人間をつかまえるなんて、縫い目の虱を探すより大変ですぜ。人を探すには人中を歩かなくちゃあ。」
「きさま、そろそろ美味い物を食いたくなったのだろう?」
「この7日は干し団子しか食ってません。昨日から目が回りそうなんで。」
「よし、ひとつ人混みを探してみよう。」
翌日からは薊州城内を探し歩いたが、手掛かりすらなかった。
公孫勝を探し始めて11日目。城外の飯屋で昼めしを食べていたところ、一人の老人と知り合った。
老人は羅真人という道術の達人の信者と言う。
戴宗が尋ねた。
「もしや、公孫勝という人をご存知では?」
「ああ、母親と一緒に住んでいる公孫一清さんなら、わしの家の近所じゃよ。」
「えっ、ご近所なので」
さっそく老人に公孫勝の家の場所を聞き、2人はその二仙山と呼ばれる奥地へと向かった。
🔵公孫勝との再会、師匠の羅真人
2人は公孫勝の家に着くと、李逵を外へ置いて戴宗1人で「ごめん下さい」と家の門を叩いた。
老母が出てきたが、息子は旅に出て留守だと言う。
するといつの間にか戴宗のすぐ後ろへ来ていた李逵が、腰の二丁斧を引き抜いて両手に持ち、「嘘をつけ!この山猫め!居留守を使うなら中をあらためてやる」と家に踊り込んだ。
それをさえぎる老母の悲鳴と、李逵を叱る戴宗の声がひびくと、彼方の薬園から白衣の男が「なんですっ?おっ母さん。何があったんですか」と馳けつけてきた。
男は2人を見るや、「おっ、戴宗と李逵ではないか」と驚いた。
「やあ、いなすったね、公孫勝!」
「ひどいじゃないか、母を二丁斧で脅すなんて」
「あやまるよ、こうでもしなければお前さんが出て来ないと見たからだよ」
「おっ母さんご心配はいりません。決して悪い人達ではない。」
家にあげられた2人は、戴宗が事情を語り、助力してほしいと頼んだ。
公孫勝はしばらく悩んでいたが、
「旧友たちの危急はよく分かりました。梁山泊の諸兄にお世話になったことは忘れておりませぬ。
しかし母は一人っ子の私が頼りですし、師匠の羅真人さまも手前を手放しませんので。」
「ごもっともですが、梁山泊の浮沈がかかっています。
なんとか母御にご得心はいただけませんか。」
「母は許してくれても、師匠がどうも」
「羅真人さまへは、われら3名が膝をそろえてお願いしてみようじゃありませんか」
すぐに羅真人の屋敷に向かったが、遠くはなかった。
3人が訪れると、すでにこの日の客を羅真人は予知していたらしく、弟子の童子が「今朝おっしゃっていたお人が見えました」と告げた。
3人は身を清めてから羅真人の居室に入った。
公孫勝が「お師匠さま、これは私の旧き友で」と説明しかけると、羅真人はするどい目を向けて言った。
「一清、分かっておる。
お前はやっと世間からのがれ、母と共にここで人生の長養長寿を学んでおる者だぞ。」
「はっ」
「惑ってはならん」
戴宗が進み出て言った。
「老師、悪奉行の高廉の妖法で梁山泊軍は、かつての公孫勝の仲間は、死地に立っておりまする。」
「悪と悪の争い、業と業の入り乱れである。
さようなことはこの山の知ったことではありません。教え子を血の巷(ちまた)へやることはできぬ。」
取りつく術もなく、3人は出ていくよう命じられた。
🔵李逵は羅真人の命を狙う、公孫勝は下山を許される
羅真人の屋敷から帰る途中、悪口を叩いてやまなかったのは李逵である。
「ふざけやがって!義も情も知ったことじゃねえと吐(ぬ)かしやがる。
あいつは獣の化け物だ。化けの皮をひんむいてやる。」
「李逵、いいかげんにしろ。公孫勝どのが顔をしかめているじゃないか。」
「いや、李逵の悪口はいま知ったことじゃない。気になどかけるものか。はははは。」
しかし公孫勝の顔色は冴えず、口数も少なかった。
その夜、公孫勝の家に戴宗と李逵は泊まった。
思うところのあった李逵は、深夜に寝室から這い出し、二丁斧を手に羅真人の屋敷へ馳けた。
侵入した李逵が羅真人の居室をのぞくと、深夜なのに端座して1人でお経を唱えている。
李逵は躍り込むと、「けだものめ、化けの皮をはぎさらせ!」と言って斧で脳天から真っ二つに割ってしまった。
「おや、仙人の血は白いのかな?まるで水だ。ろくな物を食わず女も抱かないせいだろう。」
物音を聞いて青衣の童子が現われ、李逵の前に立ちはだかった。
「待て!お師匠さまを殺してどこへ行く」
またもや斧が一閃し、童子の首がコロコロと転がった。
不思議なことに転がった首がこっちを見てニコッと笑ったように見えた。
李逵は気味悪がり、屋敷を飛び出して一目散で公孫勝の家に駆け戻った。
李逵は夜具にもぐり込むと、なに食わぬ顔で朝を迎えた。
その日は朝から昼まで、戴宗は公孫勝に切願し熱弁で説き続けた。
それが李逵にはくすぐったかった。
昼食をすますと公孫勝は、「ではもう一度、お師匠へお願いしてみましょう」と言い、3人は再び羅真人の屋敷へ向かった。
李逵は内心で、「行って見れば分かるだろう。分かった上は公孫勝も嫌とは言えめえ」と密かに舌を出していた。
李逵が心底からギョッとしたのは、殺したはずの童子と羅真人が元気な姿で迎えたことだ。
全身を震わせておびえる李逵を、羅真人は子供を見るような目で見ていた。
羅真人が言った。
「一清の願いは叶えてつかわそう。一清の母はわしが見ておく。さっそく下山するがよい。」
「えっ、お許し下さるのですか。」
「だがな一清、汝の法術は高廉と同程度にすぎん。
わしが五雷天罡(ごらいてんこう)の秘法をさずけるから、それで宋江を助けてやれ。
民衆を力づけ世の道を正せ。」
「はっ、必ずお教えを忘れません」
「くれぐれも人欲に迷うなよ。道をあやまるなよ。」
次の日、公孫勝と戴宗は高唐州の戦場へと出立した。
李逵がいないのを戴宗は不審がったが、公孫勝が笑って説明した。
「ご心配には及びません。羅真人さまに可愛がられて当分は止め置かれるのでしょう。修行を積ませる思し召しから。
李逵が嫌と言ったって師匠の術にかかっては動けません。
今ごろは観念して食堂の粥でも食べているでしょう。」
🔵高廉を討ち取る、湯隆が仲間になる
公孫勝が参戦すると、がらりと模様が変わった。
高廉の妖術は全く効かなくなり、ついに城内に退いて門を閉じて守る他なくなった。
梁山泊軍が城壁下まで攻め寄せると、猛将の薛元輝(せつげんき)が門を開いて出撃したが、討ちとられた。
このままではまずいと、高廉は隣りの東昌州と寇州へ援軍を求めた。
「援軍が着きました」と報告があり、高廉が望楼に上がって見ると、梁山泊軍が算をみだして逃げまどっている。
その中を3~4千の州軍が割ってきて、城壁の下まで来た。
高廉は「門を開けろ、開けろ」と下知した。
ところが援軍と見せて城になだれ込んだのは、梁山泊の兵たちであった。
高廉が援軍を求めたと知り、偽装して騙したのである。
城中において公孫勝が高廉と道術で戦い、高廉を討ち取った。
城に突入した兵の中には李逵もいた。
李逵は羅真人の所から帰ってきたばかりで、熱いお灸をすえられたと、はにかみながら述べた。
李逵は帰ってくる途中で、顔にも体中にもあばたのある銭豹子・湯隆という鍛冶屋と知り合い、連れて来た。
湯隆は、父は延安府の軍塞長官だったが、自分は博打と女に溺れ、武岡鎮の町はずれで鍛冶屋をしていた。
湯隆は宋江と呉用のめがねにかない、梁山泊軍に加わった。
🔵柴進の救出
宋江は逃げ散る州兵は追わせず、柴進を捜すよう厳命した。
だが城内の牢などをくまなく捜査したが見当たらない。
捜索3日目に、柴進の親族が林の中の監房に押し込められているのが発見された。
番人が残っていて、その中の1人の藺仁(りんじん)という老吏がこう話した。
「7日前、牢から引きずり出したと見える1人の囚人が、林の奥の空井戸へ放り込まれました。その井戸は8~9丈もの深さです。」
宋江が言った。「柴進どのだな。もはやお命はないか。食べ物もないだろうし。」
「いえ、実は私は罪滅ぼしの気持ちから、何かの食い余りがあるたびに紙にくるんで空井戸に投げ入れてましたので」
この時、後ろから躍り出して言った者がある。
「あっしを空井戸の底へやっておくんなせえ」
「や、李逵か」
「底へ行って見届けるのが一番早ええじゃありませんか」
李逵は手下の兵に大きな竹籠と麻縄を持ってこさせると、竹籠に入って地底へと降りていった。
空井戸の底は案外広く、水たまりもある。
そこらを手探りすると人間に触れた。声をかけても返事はないが、かすかに呻いた。
李逵は合図して地上に引き上げてもらうと、「柴大人は生きてるぞ!」と報告した。
宋江以下はどよめき、「李逵、もう1度降りて、柴進どののお体だけを竹籠に入れろ。きさまは後から上がってこい。」
「ようがすとも。造作はねえ。」
李逵は言われた通りにし、柴進は地底から引き上げられた。
医師が診たところ、致命的な深傷(ふかで)はなく、息もある。
一同は医師が柴進の口中へ薬を飲ませるのを固唾を呑む思いで見守り、時がたつのも忘れていた。
まだ井戸の底に李逵が残っているのを思い出した宋江が、「李逵が喚いているに違いない。早く上げてやれ」と言ったので、一同は「そうだった」と笑いどよめいた。
李逵は地上に立つなり、かんかんになって怒った。
一時間余りも井戸の底から上へ怒鳴り続けていたらしく、泣きベソの焦燥が声の嗄れにも分かり、可笑(おか)しかった。
「やいっ、何がおかしいんだ。俺を忘れるなんてひでえや。宋先生も呉用軍師もここにいながら。」
「わははは、いや勘弁しろ、勘弁しろ」
この後、彼らは城内の倉庫から分捕った物を車馬に乗せた。
この中には高廉に没収されていた柴家の財宝も含まれていた。
そして窮民に物を施した上で、梁山泊へと引き上げた。
柴進も同行し、梁山泊の一同に請われるままに見晴らしの良い所へ建てられた邸宅に暮らすことになった。