タイトル水滸伝⑤
武松など

(以下は『新・水滸伝』吉川英治著からの抜粋
2026年3月21~24日に作成)

🔵武松は故郷に帰る途中、虎を殴り殺す

人を殺して逃げた宋江が、柴進の屋敷に匿われてから数日後。

宋江は、柴進の食客になっている男に絡まれた。

この男は武松といい、故郷の清河県で暴れてこの屋敷に逃げ込み、1年ほど暮らしていた。
おこりの持病持ちである。

柴進が駆け付けて仲裁したので武松は大人しくなり、相手が有名な及時雨・宋江だと知ると武松は恐縮して詫びた。

それからしばらくして、武松は「もうほとぼりも冷めた頃ですし、故郷にいる兄がどう暮らしているか気がかりなので、一度見てきます」と言って、柴進の所を去った。

武松が陽穀県まで来ると、景陽岡という峠に近頃は人食い虎が出ているという。

危ないと止められた武松だが、酒に酔った勢いで夜にその峠をこそうとし、頂上に着くと休憩して寝入ってしまった。

大虎が現れて目を覚ました彼は、格闘の末に虎を殴り殺した。

夜明けに彼が峠を降りて、住民に虎を殴り殺したと話すと、大騒ぎになった。

虎の死体が回収され、県の役所からも役人が大勢来て、武松は駕籠に乗せられると役所へ運ばれた。

県知事から感謝状が渡され、一千貫の賞金も与えると言われた。

「そいつはありがたいこってすが、虎一匹を殺したのはたまたまです。
賞金は退治に骨折ってきた猟師さんや、虎に食われた遺族で分けて下さいや。」

武松のさっぱりした態度に県知事はいたく感心し、就職をもちかけた。
「むむ!見上げたものだ。武松とやら、お前を県の都頭(歩兵長)に取り立てたいが、どうじゃ?」

「じつは清河県に住む兄に会いたくて戻ってきた途中でして」

「清河県なら隣県ではないか。
では書記よ、今日から武松を都頭に任じる。さっそく手続きしなさい。」

🔵武松は兄夫婦と暮らすことに

就職の決まった武松が、宿所も用意してもらい、数日後に近くの公園で散歩していると…。

そこで饅頭を売る男が、「あっ、武松じゃないか」と寄ってきて抱きついた。

武松は相手を見ると笑顔になり、「兄さんじゃないか。どうしたんです、こんな所で。」と驚きつつ尋ねた。

「女房をもらって引っ越したんだよ。こういうわけだ」と、兄は説明し始めた。

武松の兄・武大は、身体がとても小さく奇形で、醜男でもあった。

そのため子供の時分から近所の子供たちに虐められたが、いつも武松が怒って相手をこらしめていた。

この関係は大人になってからも変わらず、武松がいつも守ってきた。

ところが去年、武松がいない間に、武大は思いがけなく女房をもらった。それも大変な美人である。

この女は潘金蓮といい、清河県の大金持ちの家に買われた奴隷だった。

家の主人が潘金蓮に言い寄るので、金蓮がその家の妻に告げたところ、主人は妻にこっぴどく怒られて家人たちからも笑われた。

これを恨んだ主人は、金蓮を町で一番の醜男で皆からバカにされている武大の女房に押し付けたのである。

ところが武大はお人好しなので、金蓮が嫁に来たのを喜び、飯の支度から買い物まで自分がして面倒を見た。

これが町中の話題となり、「あの小男が、あのちんちくりんが」 と騒がれバカにされたので、武大はついに生まれ故郷を逃げ出し、隣県に来たのだった。

「兄さん、そいつはご苦労だったね。
だがそんな別嬪を女房に持ったなら一生の得だよ。」

「そうだよ武松、私もそう思っている。
金蓮はまだ若く、お前の妹みたいな年齢だよ。」

再会した兄弟は、連れ立って武大の家に向かった。

歩いていると、すれ違う人が武松を見ては、「あれが虎退治の豪傑だよ」と囁き合う。

それを見た武大が言った。
「虎退治したのが、お前とはなあ。俺も鼻が高いで。」


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