水滸伝⑨(以下は『新・水滸伝』吉川英治著からの抜粋
2026年5月4日に作成)
🔵ここまでのあらすじ
山東にある梁山泊、そこは統領の晁蓋をはじめ多くの人物が集まる山塞で、山賊・水賊の拠点である。
梁山泊の面々は、逮捕され死刑を宣告された宋江と戴宗を救出し、戴宗の部下の李逵らと共に仲間に加えた。
梁山泊に宋江らが加わり、いよいよ梁山泊は一大勢力となりつつあった。
🔵黄門山の四頭も梁山泊に加わる
宋江らが梁山泊に加わった頃に、「黄門山の四頭」と呼ばれる山賊たちも梁山泊へ合流した。
この4人を紹介しよう。
まず欧鵬は、あだ名は摩雲金翅(まうんきんし)で、元は軍人の士官くずれ。
次は蔣敬で、文官試験の落第者だが、書算に長じているところから神算子のあだ名をもつ。
3番目は馬麟で、南京建康のあだ名をもつ。鉄笛の名手である。
4番目は陶宗旺で、あだ名は九尾亀。水呑み百姓のせがれで馬鹿力があり、刀槍の上手である。
宋江や黄門山の四頭が加わったあと、梁山泊の軍師・呉用が提案した。
「ここには様々な人物が集まったが、宋江どのこそ我らの統領にふさわしいお人ではないか。」
皆は賛同したが、宋江は「とんでもない」と固く辞退した。
「私は諸兄に一命を助けられ、徒食しているに過ぎぬ者。
どうか統領には晁蓋どのを据えて下さい。」
「それでは」と晁蓋が今まで通りに統領の座につき、宋江は2番目の席に決まった。
すでに梁山泊は、頭目の数が40人にまで増えている。
🔵宋江の帰郷
宋江が梁山泊に加わってからしばらくしたある日、彼は一同にこう申し出た。
「ここへ来て早々にわがままを申すようですが、私は実家に残している老父が気がかりなのです。故郷へ戻って父と話し、ここへ迎え入れたく思います。」
晁蓋や呉用は「あなたは国家反逆罪で指名手配中なのだから、用心棒を10人ほどお連れになったほうがいい」とひどく心配したが、
宋江は「1人のほうが目立たないし、老父も気楽ですから」と固辞した。
宋江という人は、何事につけ人手をわずらわさない、少人数の行動が好きらしい。
梁山泊の面々は仕方なく、「どうぞ、お気をつけなすって」と、彼の一人旅を見送った。
日を経て。
宋江は故郷の鄆城県・宋家村へたどり着いた。
実家の裏門をコツコツ叩くと、弟の宋清が出てきた。
宋清は驚いた。「兄さん、どうしてこんな危ない中へ帰って来たんですか」
「じつはな宋清。私はついに梁山泊の他に身を置く所もなくなった。
それでお前と父を山塞へ迎え取ろうと思って来たのだよ。」
「とんでもない!」と宋清は手を振って、今の状況を話した。
「兄さんを捕まえるため、県は網の目を張っています。
捕手の頭である趙能と趙得は、絶えず部下にこの家を見張らせてます。
私たちは囮です。親思いの宋江だからここへ来ると見て、わざと元のままに置いているのですから。
私と父を救い出したいなら、梁山泊のお力をかりて下さい。そうでなければとても村を出られませぬ。」
聞いて顔色を変えた宋江は、老父の顔すら見ずに、宋清に後日を約すると、すぐに元の道へと戻り走って逃げ出した。
だが探知されたようで、そのうちに大勢が追ってきた。
逃げる彼は、迷い込んだ樹林に古廟を見つけた。
そこに転がりこむと、放置され落ち葉だらけの社殿がある。
宋江は社殿に入ると、夢中で最も奥の御厨子の内へ隠れた。
すぐに趙能と趙得が手下を率いて踏み込んできた。
その時、ものすごい山風が吹いて建物をゆすった。
とたんに天井から塵と埃のかたまりが落ちてきて、捕手たちは眼をおさえながら「なんだこの大風は!?ひょっとして?」と脅えた。
神威をけがしたお怒りかと、逃げ腰のところへ、今度は稲妻が走った。
これで捕手たちは肝を冷やして外へ逃げ失せてしまった。
🔵宋江の神秘体験
隠れている宋江も、山風と稲妻に驚いてうつ伏せたが、
気が付くと「星主さま、星主さま」と2人の青衣の童子が左右から自分を呼んでいる。
「おっ? どなたでしょうか、お2人は?」
「私たちは女神さまの使わし女(め)です。星主さまをお迎えにあがりました。」
「星主?私はそんな者ではありません。」
「いいえ、お越し下されば分かります。」
童子に付いていくと、天上の仙人の館かと思うような神気のある建物に案内された。
綺麗な声の女神が待っていて、こう告げた。
「お久しぶりですね。天書の三巻をお贈りしたいのです。
星主どの、どうぞ天に代わって天書の道を人の世に行って下さいませ。
国家の毒と世の邪を除き、義・情(なさけ)・信・誠を濁り(にごり)世にも失わないで下さい。
天上の玉帝さまは、あなたの未熟さを磨かんとしてあなたを下界へお流しになりましたが、そのうち再び天府へとお呼び戻しになりましょう。
三巻の天書を友として研究して下さい。
同学のお相手は呉用どのだけとして、他の者には見せてはなりません。」
宋江が「はっ」とひれ伏すと、女神の「いずれまたお会いしましょう」との言葉を最後に彼は眼を覚ました。
「夢だったのか」と思ったが、三巻の天書が膝に乗っている。
彼は厨子を出て扉の外に立ってみた。
その時、廟の額に鮮やかな文字で「玄女之廟」とあるのをはっきり見た。
「九天玄女」と口のうちで唱えながら眼を天にやると、時刻ははや真夜中らしい。
🔵助けにくる梁山泊の一隊
宋江が廟を去っていくらもしないうちに、梁山泊の男どもが現れた。
ほっとした宋江が「どうしたわけで、ここへ?」と尋ねると、晁蓋も呉用も心配して、一隊を鄆城県へ送り込んだのだと言う。
すでに李逵が趙能と趙得の2人を叩き斬り、宋清と老父も助け出して梁山泊へ送ったとのこと。
宋江は深く感謝し、嬉し涙にくれた。
梁山泊に来た宋清、あだ名は鉄扇子が、山塞の一員となったのは言うまでもない。
🔵帰郷する公孫勝
宋江とその家族を梁山泊に迎え入れて大宴会となった日、公孫勝が「お願いがあります」と、一同に突如として願い出た。
「実は私にも故郷に置き放してある老母がいます。
それに加えて道教の師匠にも便りすら欠いております。
私も一度、故郷を訪ね