ベンゲルとその右腕ボロの固い絆
2人は八百長と闘った

(『ZONE 2014年4月号』から抜粋)

アーセン・ベンゲルは、名門アーセナルの栄光のために情熱を注いできた。

彼の活躍には、ボロ・プリモラツの陰ながらの貢献が見逃せない。

ボロ・プリモラツは、トップチームのコーチをしている、ボスニア生まれの指導者である。

名古屋グランパス時代から、ベンゲルの右腕を担ってきた。

ベンゲルの代わりに選手とコミュニケーションを重ねて、不満やトラブルの芽を摘むのが、ボロの重要な仕事である。

ベンゲルは、「私の練習だけをやっていれば上達する」と言い、若手以外には居残り練習を許さない。

そんな厳粛な指揮官とは180度異なる気さくな態度を、ボロはする。

そしてチームの雰囲気を明るくするのだ。

ボロには、対戦相手のスカウティングという大事な役割がある。

対戦相手の戦術や選手の特徴を、徹底的に研究する。

アーセナルのGKコーチをしていたボブ・ウィルソンは、こう証言する。

「ボロは、フットボール界の生き字引だ。どの選手のことを聞いても、身長から利き足まで知っているのだから。」

ベンゲルとボロは、欧州を揺るがした巨悪と闘った過去がある。

1993年に、フランス1部リーグのヴァランシエンスの監督だったボロは、DFのジャケス・グラスマンから「オリンピック・マルセイユから八百長を持ちかけられている」と相談された。

ボロは、告発するようにアドバイスした。

八百長を主導していたのは、ベルナール・タピだった。

タピは、欧州王者だったマルセイユの会長で、都市担当大臣を務める政治家だった。

タピに反旗をひるがえした結果、ボロへの嫌がらせは想像を絶するものとなった。

ボロは、「フランス・スポーツ界の裏切り者」という誹りを受けた。

ASモナコの監督をしていたベンゲルは、ボロの行動を公にサポートしたため、同じ非難を受けた。

ベンゲルは当時を振り返って、こう言う。

「規則を無視する人間と闘っていたから、我々は非常に難しい時期を過ごした。

八百長や不正を受け入れてはいけない。
それは、スポーツにとっての死を意味する。

ボクシング界の現状を見れば、それは明らかだろう。」

捜査の末、ベルナール・タピは懲役2年となり、マルセイユは2部降格となった。

この事件を通して、ベンゲルとボロは固い絆で結ばれたのである。

(2014年9月12日に作成)


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