(以下は『フットボリスタ 2010年12月15日号』から抜粋)
W杯について、2018年はロシア、2022年はカタールで開催される事が決まった。
カタールは、大会の行われる6~7月は最高気温が45℃に達する。冷房つきのスタジアムが必須となる。
この決定で、FIFAは「自分たちがロビー活動で動かされる存在であること」を自ら認めてしまった。
(『ZONE 2016年5月号、6月号』から抜粋)
2016年2月26日に行われたFIFA(国際サッカー連盟)の会長選挙で、ジャンニ・インファンティーノが当選した。
彼は45歳で、UEFA(欧州サッカー連盟)の事務局長からの転身となる。
彼は、汚職まみれのFIFAの信頼を回復できるのだろうか。
広瀬一郎
「一連のFIFAの汚職は、一言でいうと『FIFAのカネを理事と関係者が着服した』にまとめられる。
今回の汚職は、FIFAのあぶく銭が原因だ。
ことの発端は、1996年に行われた、2002年と2006年のW杯(ワールドカップ)のテレビ放送権を入札制度にした事だった。
それまでのW杯は、放送権料はBBCやNHKから成る「国際公営放送連合(ITC)」が仕切り、料金が低く抑えられていた。
FIFAは、多くの人がW杯を公共放送を通じて無料で見られるように、配慮していた。
そのため1998年W杯の放送権料は、総額で200億円だった。
ところが1995年ごろに、UEFAは「ビジョン1&2」という公開質問状を、FIFAに提出した。
その内容は、「マーケティング改革」だった。
チャンピオンズ・リーグを創設して大儲けしたUEFAは、「FIFAはW杯できちんと儲けていない」と指摘した。
これを受けて行われたのが、『W杯のテレビ放送権の入札制度』だった。
要するに、「高く売れるのに、なぜそうしない?」というUEFAの指摘に、FIFAは応えた。
その結果、2002年と06年のW杯は、放送権料が平均で1150億円にもなった。
何の努力もせずに、大金が転がり込んできたのだから、正にあぶく銭である。
こうして大金がFIFAに滞留し始めた。
FIFAは1995年に、スイスで公益法人の登録をした。
これは94年W杯(アメリカ大会)の後、アメリカの国税庁から事業税を請求されたのが理由だった。
FIFAは税金対策として、慌てて公益法人の登録をしたのである。
FIFAは公共性を追求する組織(公益法人)になったにも関わらず、その翌年に入札制度を導入して、放送権料を荒稼ぎする選択をした。
だからジャンニ・インファンティーノ新会長が、FIFA改革としてすべきなのは、公益法人として組織の透明化と情報開示をすることだ。
その次にすべきは、あぶく銭の解消だ。」
だがFIFAの拝金主義は変わってないようである。
ジャンニ・インファンティーノ新会長は就任してすぐの理事会で、「スポンサーの最高ランクであるFIFAパートナーとして、中国の万達集団と契約した」と発言した。
その一方で、ゼップ・ブラッター前会長の2015年の報酬が、363万4857スイスフラン(4億1800万円ほど)だったと公開し、初めてFIFA上層部の報酬を公開した。
FIFAは、一連の汚職で起訴された元幹部らに、合計で数千万ドルの損害賠償を求める文書を、アメリカ検察当局に提出した。
起訴された者には、元副会長のジャック・ワーナーや、現副会長のジェフリー・ウェブも含まれている。
インファンティーノ会長は、「被告たちはFIFAに深刻な損害をもたらした。FIFAのカネが豪邸やプールの購入・建設に使われた」と述べた。
広瀬一郎
「ジャック・ワーナー元副会長たちは悪いが、FIFAの組織に手をつけるよりも大事なことがある。
なぜなら、彼らFIFAの理事たちを選ぶのは、FIFAではなく、各大陸のサッカー連盟だからだ。
改革をするには、各大陸のサッカー連盟の理事選挙にメスを入れないと意味がない。
重要なのは、FIFAが公益性を回復することだ。
ジョアン・アベランジェがFIFA会長をしていた1974~98年の時代は、FIFA主催の大会を増やすことが公約だった。
それまでW杯とワールドユースしかなかったFIFA主催の大会は、ジュニアユース、女子W杯、インドア(フットサル)と拡大し、競技人口が増えていった。
現在では、FIFA加盟国は209となり、全世界へのサッカー普及という戦略はほぼ達成された。
FIFAは新しい戦略を打ち出す必要があるが、『平和』が優先順位の上位に来ないといけない。
というのも、2015年11月のパリ同時多発テロでは、フランス対ドイツの試合が標的になった。
これは衝撃的なことで、これまでは民族や宗教を超えて支持されてきたサッカーが、(サッカー界がカネの亡者たちに占拠された結果)そうではなくなった。
FIFAはサッカーの公共性を回復するために、貧しい者がスタジアムで観戦できない状況(観戦料金の高騰)を改善したり、収益の3%を難民キャンプに寄付するといった戦略を取ったほうがいい。」
2016年2月26日のFIFA臨時総会は、インファンティーノが会長に選ばれた事が話題となったが、『FIFA改革案』も同時に可決された。
もともとFIFAは、2006年頃から汚職や不正が次々と発覚したため、倫理委員会を設置していた。
だがガルシア・リポートで指摘されたように、倫理委員会は機能していなかった。
(※ガルシア・リポートは、2018年と22年のW杯の開催地の選出をめぐる不正疑惑について、FIFA調査部門の責任者だったマイケル・ガルシアが提出した報告書である。
この報告書をFIFAは公開したが、ガルシアは「発表されたものは不完全で、事実と異なっている」と告発した。
だがガルシアの告発は却下され、彼は辞任となった。)
FIFA臨時総会で可決された『改革案』では、実行委員会は「FIFA議会」に改称され、FIFAの基本方針を決定する。
一方、事務局長は業務執行に専念する。
さらに最高コンプライアンス責任者という役職を新設し、法令順守の監督をする。
FIFA会長と実行委員(FIFA議会の議員)は、任期を最高で3期12年に制限することにした。
(※これまでは任期に制限がなかった)
他にも、ガバナンス委員会の新設や、役員報酬の開示も決めた。
女性の参加を増やすため、FIFA議員には1名は女性を指名する義務が、各大陸サッカー連盟に課せられた。
今までは、選手や弱小国の意見は無視されていたが、これらの声も拾うために、FIFA議員の増員(25から37に)と、常設委員会の削減(29から9に)も決まった。
なお、FIFA議員の増員で意思決定が遅れないように、FIFA会長と各大陸サッカー連盟の会長から成る「議会局」を設置し、迅速な意思決定を図るとしている。
(※FIFA議会を無効化するための策略だろうか?)
以上の改革は、2016年4月末に施行されることになっている。
〇村本尚立のコメント
私はすでに、FIFAなどの組織や、サッカー界全体に、何も期待しなくなっています。
上に書かれたFIFAの改革も、真の改革にはならず、見かけ上のごまかしで終わると思ってます。
カネの事しか考えてないのが伝わってくるので、信じられないんですよね。
もう何年も、Jリーグや海外のサッカー・リーグ、男子の日本代表戦について、テレビ観戦していません。
なでしこジャパンを観るくらいです。
本日(2022年11月20日)から、2022年W杯(カタール大会)が始まりますが、日本戦を含めて観戦する気持ちはありません。
サッカー界に対して、あまりにカネばかりを追うので、心が冷めてしまいました。
今回のW杯予選では、放映権が高騰した影響で、日本代表のアジア最終予選のアウェー試合が、地上波で放送されませんでした。
(※観たい人は有料放送で見るしかなくなった)
昔から考えたら、信じられない事です。
私はもう、地上波で放送されても男子代表戦を観ないし、どうでもいいちゃあいいのですが、これで国民に盛り上がれと言っても無理でしょう。
今回のカタール大会は、開催時期が11月~12月に変更されましたが、それだって産油国で金持ちのカタールで開催することを優先したためです。
カネのためなら何でもするのが、今のFIFAやUEFAや日本サッカー協会です。
私がサッカー観戦に情熱を持つのは、おそらく今世ではもう無いでしょう。
(2022年11月20日に作成)