(『フットボール批評 2015年6月号』から抜粋)
日本代表監督を解任されたアギーレさんへのインタビューが、なかなか面白かったです。
解任の愚痴をこぼしているのかと思ったら、それが全く無いです。
私は、彼を見直しましたよ。
興味深いことをアギーレが言っているので、紹介します。
質問
あなたは2015年2月に、日本代表監督の契約を解消されました。
JFA(日本サッカー協会)のオファーを受け入れたことを、後悔していますか?
アギーレ
絶対にノーだ。
アジアの異なるフットボールに触れられたし、日本の良質な組織づくりとポテンシャルを感じられた。
とても快適だったし、満ち足りた日々を送らせてもらった。
質問
「2010年にも日本代表監督になれる可能性があった」と聞きました。
事実ですか?
アギーレ
本当だ。
南アフリカW杯では、私が率いたメキシコ代表はベスト16で敗れた。
その後に、JFAからコンタクトがあった。
2~3回の話し合いをしたが、当時は妻のシルビアが日本に移住するのに反対したんだ。
ブラジルW杯の後に再び打診されたが、私とシルビアはイエスと答えた。
家庭を束ねるのは、いつだって女性だ。
「JFAとの契約解消は、日本との永遠の別れにはならない」と信じている。
いつの日か、仕事のために日本に戻りたい。
質問
JFAで、あなたを代表監督に推したのは、誰なのですか?
アギーレ
2010年と14年に話し合った人物は、原博実と霜田正浩だ。
彼らは、「2010年W杯のメキシコ代表に魅かれた」と言っていた。
彼らは、「メキシコ人と日本人は似ている。身長は低いが、スピードや粘り強さがあり、フィジカル的に類似している」と言った。
さらに、私が指揮していた(スペイン・リーグの)サラゴサやエスパニョールのサッカーを見て、指導ぶりを好ましく感じていたらしい。
質問
日本代表を率いるにあたって、JFAからは何を求められましたか?
アギーレ
最初に、「日本人は執着的なほど規律を重んじる。監督の指示を、疑いを持たずに実行する。」と説明された。
その上で、「我々は、選手が自発的に決断を下せるようになる事を望んでいます。自分達で何かを決められるようになる事を。」と求められた。
私は頼まれた事を実行したが、上手くいっていたと思う。
両ウイングは、何かを言わなくてもポジションチェンジを繰り返した。
ハーフタイムには、選手から戦術の変更を提案されることもあった。
私は、怒りを覚えるどころか、誇りすら感じていたよ。
質問
しかし、アジアカップでは、ベスト8で敗退しました。
チームを構築する時間が足りなかったのでしょうか?
アギーレ
大会の前には、フレンドリー・マッチが6試合あった。
我々は、そのアジアカップで王者になるオーストラリアとも、フレンドリー・マッチをした。
その時は、彼らを相手に勝利しているのだからね。(準備不足ではないということ)
質問
では、本番で何が起こったのでしょうか?
アギーレ
私が知りたいくらいだよ。
グループリーグは無失点で3戦全勝したが、準々決勝ではひどい内容となってしまった。
準々決勝のUAE戦では、我々は35本のシュートを放ち、UAEは2~3本だった。
それでもスコアは1対1で、PK戦にもつれ込んだ。
そしてPK戦で、本田と香川という最もテクニックのある選手がシュートを外してしまった。
我々は、相手よりも確実に勝っていたよ。
反省するとすれば、数人の選手が疲労していたことだろう。
岡崎と長友は疲れきっていたし、交代させたほうが賢明だった。
試合直後に、JFAの会長からは揺るがぬ信頼を伝えられたし、メディアに対しても「アギーレが去ることはない」と断言していた。
多くの選手達が「手応えを感じた」と話していたし、本田は「前回よりもチームの完成度は高かった」と言ってくれた。
仕事を難しくしたのは、言語だった。
私は話をする時に相手の顔をじっと見つめる人間だが、日本では通訳を介して話すことになった。
選手との意思疎通が、大きな課題となっていた。
質問
日本のサッカーを見て、どう感じましたか?
アギーレ
戦術面は、何の問題もない。
日本の監督は洗練されているし、国外で見聞を広げているからね。
嬉しい驚きだったのは、選手の素晴らしいテクニックだ。
数人の選手は、海外のビッグクラブでも通用する。
その一方で、激しい競争に挑む姿勢がなかった。
球際での争いに負けてはならない事を、JFAにも指摘した。
相手選手を押したり掴んだりするのは、絶対に必要であり、だからこそ審判はプレーを止める権利を有するんだ。
スペインやブラジルでは、17歳の選手でさえ人生をかけて試合をしている。
日本では、審判に話しかけるのは主将だけだった。
スペインリーグの選手ならば、ファウルの際に全員が執拗なまでに抗議する。
審判にプレッシャーを与える行為が、日本は理解できていない。
選手達を国外でプレーさせるべきだ、とも訴えた。
球際での激しさを体験させるためにね。
質問
代表に若手を多く招集しましたが、意図はどこにあったのですか?
アギーレ
JFAから、それを頼まれていた。
「2018年W杯を意識しながら、世代交代を進めてほしい」とね。
だが、柴崎、武藤、塩谷らを初招集したときには、メディアからサプライズとして捉えられた。
ベテラン選手を最初は招集外にしたが、どういった選手か把握していたからだ。
私は、経験の少ない選手たちのプレーを見たかったんだ。
ザッケローニが率いた代表は、2~3人を除けば、とても高いレベルの選手が揃っていた。
ただし、18年W杯に34~35歳の選手を連れて行くのは難しい。
だから、ベテランはベンチに置き、スタメンには若手を起用する考えだった。
若手には、「先輩にアジアカップやW杯について語ってもらえ」と伝えていたよ。
質問
(若手を起用した)フレンドリー・マッチのブラジル戦では、0対4で敗れました。
どのように受け止めましたか?
アギーレ
素晴らしい経験だったよ。
欧州でプレーする選手を起用すれば、もっと慎みのあるスコアにできただろう。
しかし私は、世界トップのチームと戦う覚悟を持った若手選手を見極めたかった。
それに、Jリーグと欧州でプレーする選手の違いも、人々に示したかった。
良い教訓になったと思っている。
我々は50分くらいまでは0対1を維持していたし、ポジティブな経験だった。
質問
あなたが使用していたシステムは、4-3-3の認識で良いでしょうか?
アギーレ
日本人は、執拗なまでにシステムにこだわるんだよね。
私からは、「それは試合開始の布陣にすぎない」と話したこともあった。
このシステムは、ボールを保持している時は、両サイドバックが上がり、アンカーが下がってCBの間に入るので、3-4-3になる。
守備の時には、両ウイングが下がってきて、4-5-1に変化する。
オーストラリア戦では、4-2-3-1のシステムも試した。
システムは、選手の個性や調子によって決定される。
だが日本のメディアは、チームの止まった形にばかり気を取られるんだ。
質問
日本では、アンカーを務められる、攻守両面でクオリティの高い選手は少ないと思うのですが。
アギーレ
山口が素晴らしいのだが、負傷していたために呼べなかった。
ブラジルW杯で最も素晴らしいと感じた日本人が彼で、大きな期待を寄せていたんだが…。
私は、アンカーには山口と長谷部を考えていた。
長谷部は、ひざの問題があったために、アジアカップまで何度も招集する必要はないと考えていた。
アンカーでは、森重も試した。
ボール扱いが上手いから、中盤に据えてみようと思ったんだ。
実際に、ウルグアイ戦では驚異的なプレーを見せてくれた。
質問
あなたがクラブチームを率いる時に、チームに入れたい日本人選手はいますか?
アギーレ
2人いる。柴崎と武藤だ。
柴崎は激しいアップダウンを繰り返せるし、武藤はスピードと得点力に優れている。
武藤については、モウリーニョ(チェルシー)も獲得を望んでいたが、彼はマインツに移籍したね。
質問
柴崎と武藤は、スペインリーグでも通用しますか?
アギーレ
もちろんだ。
森重と塩谷も、同リーグでプレイできるだろう。
質問
日本人選手は、攻撃に特化していると思いますか?
アギーレ
確実にそう言える。
アジアカップでは4試合で1失点だったが、それはボールを保持していたからだ。
日本代表は、ボールを持ってこそ、攻撃と守備が機能する。
質問
日本人は、守備時のポジショニングや1対1の対応で、問題があると指摘されています。
アギーレ
そうは思わない。
欠点があるとすれば、意図的にファウルする意識が希薄なだけだ。
日本人選手には、ファウルの選択肢がなく、ドリブルをする相手と並走してボールを奪えなければ、負けを認めて道を譲ってしまう。
質問
話は変わりますが、スペインでの八百長疑惑は、仕事の妨げになりましたか?
アギーレ
日本にいる間は、メディアの喧騒には耳を傾けず、落ち着いて仕事に取り組んでいた。
JFAの人達も、自分を支え続けてくれた。
だが、スペイン検察の告発をバレンシアの裁判所が受理した直後に、ついにJFAから声がかけられた。
「監督、もう止めておきましょう」とね。
ただし、双方合意の上だったし、契約解消は友好的に進められた。
質問
契約解消の際には、どのような事を話したのですか?
アギーレ
その話し合いには、大仁会長、原博実、霜田が参加した。
私を入れた4人で、契約解消を合意した。
彼らからは、「個人的な事情に100%集中してほしい」と言われた。
彼らは、いつも面と向かって話をしてくれ、最後には幸運を願ってくれた。感謝している。
質問
次のW杯では、日本はどこまで行けるでしょうか?
アギーレ
私から言えるのは、「W杯は見通しの立たない大会だ」という事だ。
選手の調子、対戦相手、移動の大変さと、偶発性の強い大会だ。
JFAからは、「目標はベスト8へ進出すること」と伝えられていた。
日本代表にはポテンシャルがあるが、偶発性の強さを考慮しなければならない。
質問
日本のサッカー・スタイルは、欧州と南米のどちらに似通っていると考えますか?
アギーレ
絶対に南米だろう。特にブラジルの影響は濃い。
だが、10年ほど前からは、欧州のスタイルに傾倒している。
質問
日本のレベルを向上させるためには、何が必要ですか?
アギーレ
選手たちを国外でプレーさせることだ。
日本代表監督として、アウェーで試合する必要性を訴えたが、JFAは「費用が高すぎます」と答えた。
しかし、特に育成年代の選手は、外国で試合することが大きな経験となる。
質問
日本選手のフィジカル、テクニック、戦術は、どうですか?
アギーレ
その3つは、すでに解決されている。
彼らに必要なのは、「自分たちを信じること」、つまりメンタル面の強化だよ。
自信を持ち、選手が自ら決断を下せるようになる必要がある。
フィジカルに欠点などないし、テクニックは非常にすばらしい。
質問
あなたの練習方法は、選手に好評だったようです。
アギーレ
嬉しいね。
ボールをよく使うことが、好評だったのだろう。
練習時間は長くとも2時間にとどめ、流れを切ることなく、出来るだけボールを使うメニューにしていた。
質問
(あなたはスペインで監督をしてきましたが)なぜ日本人選手は、スペインリーグで成功を収められないのでしょうか?
アギーレ
問題は、日本人選手ではなく、スペインの側にある。
スペインは日本選手に注目せず、ブラジルやアルゼンチンに目を配っている。
○ 村本のコメント
アギーレの八百長事件への関与から、彼の人格を疑っていたのですが、ここでの彼の話を読み、「冷静な態度だし、思ったよりも人格が練れている」と思いました。
彼は、日本選手とJFAをとても高く評価していますね。
だからこそ代表監督になったのでしょうが、ここまで評価しているとは意外でした。
アギーレは、「日本選手に足りないのは、球際の激しさとファウルを効果的に行うことだ。あとはメンタル面の強化だ。」と言います。
完全な的外れではないと思いますが、「この程度の認識では、日本代表を強くしてくれるとは思えん」と感じますねえ。
「守備の問題は、意図的にファウルする意識の希薄さだけだ」と言うのですが、これに頷ける人は少ないでしょう。
私が許せないのは、ブラジル戦での0対4の敗戦を、「ポジティブなものだった」と言っていることです。
「50分までは0対1だった」と自慢げに語ってますが、「すでに相手にリードされているじゃないか! ふざけんな、お前!」と思います。
私は、現代表監督のハリルホジッチについても同様に感じているのですが、「日本代表の監督は、もはやW杯でベスト8や16の実績の監督では物足りない」と考えます。
JFAの「W杯でベスト8を目指す」という方針は、消極的すぎます。
現実主義というよりも、根性なしだと思う。
最初からベスト8に設定しているから、グループリーグで負けるのだと思います。
優勝を目指して強化していき、W杯の前になってみて「怪我を抱えている選手もいるし、この戦力だから、現実的に本番はこの戦い方でいこう」とか考えるべきです。
W杯やチャンピオンズリーグで優勝をしている監督、具体的にはモウリーニョ、グアルディオラ、レーブ、アンチェロッティ、デルボスケ。
この位の人が、日本代表の監督にほしい。
モウリーニョはチェルシーの監督をしていますが、成績不振で解任が噂されています。アタックをかけてみる局面でしょう。
アンチェロッティも、今はフリーじゃないですか。
このクラスの監督を、三顧の礼ならぬ、百顧の礼で、口説き落としましょう。
JFAの大仁会長なんて、大した仕事をしてないのだから、モウリーニョやアンチェロッティに密着マークを敢行して、口説き落としてほしい。
協会会長にストーカー行為をされたら、大物の彼らも心が動くと思います。
大仁よ、アギーレ八百長事件を許してあげるから、海外に長期出張して、大物監督を引っ張ってきなさい。
そして、ハリルを「お前は大した事なかった」といって解任しよう。
正直な話、ハリルのサッカーは面白くない。ワクワクしないし、汗臭くて仕方ないです。
女子代表は、本気で世界一を目指しているじゃないですか。
それと対比すると、男子代表には情けなさしか感じないのです。
もしハリルジャパンが次のW杯でベスト8になっても、それで大満足の態度をJFAや選手たちが見せたら、私は猛抗議しますよ。
「お前ら! W杯で優勝を目指しているんじゃなかったのか! 目を覚ませ! この程度の成績で浮かれるんじゃない!」と、言います。
(2015年11月9日に作成)