(『ZONE2014年9月号』から抜粋)
2014年W杯の開催前日になっても、首都サンパウロには熱気が無かった。
ニュースでは、街中で起こっているデモの様子が、繰り返し流れていた。
デモが訴えていたのは、『W杯に多額の金をつぎ込むくらいなら、医療と教育に予算をかけるべきだ』である。
しかし、レシフェやナタルなどの街では、W杯の歓迎ムードがあった。
この温度差は、どうして生まれるのか。
そもそも、医療や教育への不満は、サンパウロなどの大都市で多い。
医者と病院の数や、学校の数は、むしろ大都市で不足している。
ブラジルの公立病院は無料だが、設備がぼろぼろで、手術を受けるには数ヶ月待ちがザラ。
お金に余裕のある人は、私立病院へ通う。
W杯が始まると、スタンドで応援するブラジル・サポーターの多くが、裕福そうな白人だった。
ブラジルは、人種差別がないと言われるが、インド並みに貧富の差がある。
トイレの掃除係やホテルの清掃係は黒人系ばかりだし、路上生活者も黒人系ばかりだ。
若い黒人系の人々にとっては、W杯は別世界のものだ。
観戦チケットは最安値でも90ドル(約1万円)で、買える人は限られている。
多くのブラジルにとっては、W杯は『テレビの中での出来事』だった。
41%。
これは、W杯のインフラ整備計画のうち、開幕1ヵ月前までに達成された割合である。
多くの工事は、開幕までに間に合わなかった。
今大会で使用した全12スタジアムの総工費は、3260億円とされている。
これは、当初の予算を大幅に超えている。
しかも、建設費の大半は借り入れであり、負債総額は1970億円とも云われている。
サンパウロのスタジアムは完成しなかったため、雨天となったオランダ対アルゼンチンの準決勝では、ゴール裏の観客はずぶ濡れとなった。
工事の遅れの最大の原因は、ブラジルの腐敗した官僚制度にある。
工期が延びるほど焦った業者が役人に賄賂を渡すため、意図的に工期をぎりぎりにしていたという。
建てられたスタジアムは、維持費が莫大な金額になる。
中規模都市に建てられたスタジアムは、赤字になるのが必至で、W杯後は『負の遺産』となる。
(2015年12月29日に作成)