(『ZONE2014年9月号』から抜粋)
質問 2014年W杯で、サッカーの変化は感じましたか?
宮本恒靖
一番感じたのは、3バックと5バックのチームが増えてきたこと。
ここ10年は4バックがベースだったので、最も分かりやすい変化でしょう。
もう1つは、カウンター型のチームが多かったこと。
縦に速い仕掛けを狙っていて、全体的に縦に速いサッカーが多かったです。
質問
カウンター型が増えたのは、サッカーが守備的になったという事なのですか?
宮本
ディフェンスに人数をかけていますが、守備的ではありません。
ベースにはスペインのスタイルがありつつ、優先順位として縦への意識が高くなっていた。
質問
5バックは、クラブレベルではあまり見られません。
でも今回のW杯では、オランダ、メキシコ、コスタリカ、チリなど、採用したチームは好結果を出しています。
宮本
ポゼッションに長けたチームへの方策として、後ろの人数を増やしたのでしょう。
でも、5バックだから守備的かというとそうではなく、例えばコスタリカは、守備時は5-2-2-1だけど、攻撃時は両SBが上がって3-4-2-1になっていた。
質問 コスタリカがベスト8まで勝ち上がったことは、驚きでした。
宮本
コスタリカの場合、5バックが引いて守っているのではない。
前の選手がプレッシャーをかけている間に、後ろの5枚はラインを上げていました。
だから、多くのオフサイドを取る事ができていました。
センターハーフの2枚は、常に目の前の選手にプレッシャーを掛けていました。
それは、DFラインを押し上げてくれる約束事がハッキリしていたからです。
質問 優勝したドイツには、どのような印象を持っていますか?
宮本
ドイツは、動き方の洗練度がずば抜けていますね。
守備での特徴は、両サイドのスペースをエジルとミュラーが埋めて、ケディラ・クロース・シュバインシュタイガーの中盤3人は距離感を変えず、サイドに出ないで中央のスペースをケアしていました。
練習では、『1トップがプレスをかける動きに連動して中盤を押し上げる』との確認を絶えず行っていたそうです。
質問
今大会でのドイツの得点は、高い位置でボールを奪ってからのショート・カウンターで生まれています。
宮本
(ブラジルとの)準決勝のハーフタイムにレーブ監督は、「5-0だが、守備を止めるな」と指示したそうです。
印象的だったのは、5点差がついた後に、GKからパスをつなぐ場面です。
CBがサイドに開くのが約束事になっていたのですが、フンメルスが気を抜いて開かなかった。
その時、ノイアーはフンメルスを叱り飛ばしたんです。
質問 ドイツを見ていると、守備が攻撃になっていると感じます。
宮本
チリなどもそうですが、『高い位置でボールを奪って、相手の崩れている所を突く』のが、今大会のトレンドだったと思います。
ドイツに関しては、GKのノイアーの存在が大きかったです。
彼が最終ラインの背後をカバーしてくれるので、DFはラインを押し上げられます。
質問
ノイアーは、ペナルティ・エリア外でのプレイが非常に多かったですね。
宮本
それだけビルドアップに関与している、という事です。
質問
アルゼンチンのメッシは、ディフェンスをせずにほとんどの時間を歩いていました。
彼についてはどんな印象ですか?
宮本
個人的には「ちょっと違うな」と思います。
チームへのリスペクトという意味でも、最低限のポジションは取ってほしい。
質問 もしメッシとチームメイトだったら、そこは要求しますか?
宮本
もちろん言いますよ(笑)。
メッシが走らなくても成立したのは、ディマリアの存在が大きかったです。
ディマリアは、ディフェンスで頑張れるし、攻撃でも良い動きができる。
彼が居てこその、今大会のメッシだったと思っています。
質問 ディフェンス面で、個の強さを感じた場面はありましたか?
宮本
南米のチームのCBは、安易に下がらずに、隙を見つけたら潰してしまう。
パスを通されたら危ないという場面では、体を投げ出します。
日本人の感覚では、相手が優位な状況なら、やられないように無理をしないのがセオリーです。
でも世界のDFには、不利な状況でも個の力で止めてしまう人がいる。
質問
トップレベルのDFを見ていると、ボールホルダーに攻め込んでいる印象があります。
宮本
中盤もそうじゃないですか。
W杯で見えた日本と世界の違いは、『インテンシティ(プレーの強度)』です。
日本の守備は、「プレスにはめて、相手のミスを誘って奪う」のが一般的です。
相手が良い状態でも奪いに行けるようになる事が、今後のテーマです。
質問 ボールを奪う技術を高めるには、何が必要でしょうか?
宮本
例えば、Jリーグの判定基準を見直すことや、育成年代でボールをどんどん取りに行かせる事です。
もちろん、危険なファウルは厳しく取り締まらなければいけませんが。
(2015年12月29日に作成)