なでしこジャパンがリオ五輪出場を逃した敗因の分析②

(サッカーダイジェストWEB 2016年3月9日の記事から抜粋)

女子サッカーのリオ五輪をかけたアジア最終予選では、オーストラリアと中国が1位と2位になり出場を手にした。

日本は、アテネ五輪から続いてきた五輪出場が途絶えてしまった。
なでしこジャパンに何が起こっていたのか。

敗因としては、「必勝パターンの崩壊」「修正力の欠如」「ハードワーク不足」が挙げられる。

① 必勝パターンの崩壊

日本はずっと、守備をベースに勝利を掴んできた。

体格・パワー・スピードで劣っている日本選手は、チーム一丸となってカバーし合う守備にたどり着いた。

前半を無失点で守りきり、相手の運動量が落ちてきた後半に自分たちのリズムに持ち込んで、ギリギリの試合をものにする。
これが日本の必勝パターンだ。

しかし、最終予選の初戦のオーストラリア戦では、対策してきたはずのクロスボールから先制を許し、3失点した。

「みんなで守ってから、攻撃を仕掛ける」というコンセプトができず、その後の闘いを難しいものにしてしまった。

次の韓国戦では、終盤にGKとDFのコミュニケーション・ミスで失点し、中国戦でもバックパスを相手に取られて失点した。

(韓国戦での失点は、コミュニケーション・ミスではなく、GK福元がパンチングするべき難しいハイボールを、無理にキャッチしようとしたのが原因だと思う)

なでしこジャパンは、2011年のドイツW杯以降、1失点以上すると勝率は36.8%で、2失点以上だと勝率は5%だ。

今最終予選では、ベトナム戦まで全試合で失点しており、勝機が少なかったと言わざると得ない。

② 修正力の欠如

この最終予選では、各チームの日本対策が凄まじかった。

宮間キャプテンは、「他国のゲームを見て、こういう風に試合をしてくると予想しても、どこも日本戦ではしてこなかった」と証言する。

各国は、対日本用の特別シフトを組んできた。

それに対して、日本は試合中に修正できなかった。

オーストラリア戦では、「相手は高さを活かして、ロングボールを狙ってくる」(熊谷)と予想していたが、相手はサイドからのクロスボールを狙ってきた。

クロスボールへの対策は「合宿でとことんやってきた」(鮫島)のだが、後手に回ってしまった。

中国戦でも、「予想と違うボールの動かし方をしてきた」(岩清水)という。

岩清水

「どの相手も、奪った後の素早い攻撃だけを目指してきた。

今までのオーストラリアは、クロスよりも縦に早いサッカーをしてきたが、日本の弱点を研究してクロス攻撃を仕掛けてきた。

守備においても、日本にボールをある程度は持たせて、奪って一発というのを徹底していた。」

大会直前の合宿では、ボールポゼッションに重きを置いて練習してきた。

だが、今大会ではボールを持たされていた感があり、コンビネーションで局面を打開しようとしたが、パスミスを連発してしまった。

そして、ロングボールを多用する羽目になった。

③ ハードワーク不足

なでしこジャパンを支えてきたのは、相手よりも多く走り、数的に優位を作っていくこと。

「1.5~2人分を頑張る」(川村)のは必要条件だ。

しかしオーストラリア戦では、初戦&ホーム開催のプレッシャーから、リスクを冒さず止まっている場面が多かった。

そのために、トップの大儀見はサポートがなく前線で孤立していた。

また中国戦でも、中盤やサイドで球際の攻防を躊躇するシーンがあった。

大儀見は中国戦で負けた後、「ここまでの3試合では、どの試合も勝ちたいという想いが相手の方が強かった。ピッチの立つ以前の問題で負けていた」と歯がゆさを語った。

4試合目のベトナム戦では、宮間はスタメンを外れたが、6対1で勝利し、彼女からもわずかの笑みがこぼれた。

「なぜ大量のゴールを取れたのか」と尋ねられた宮間は、「連動性」を挙げた。

宮間「ほとんどのシュート・シーンで、周りの選手も動いていたし、チームとして味方のために闘えた。相手云々ではなく、そういう小さなことの積み重ねかなと。」

しかし、話題が4大会連続の五輪出場を逃したことに及ぶと、一気に表情が曇った。

宮間

「先輩たちが受け継いできてくれて、自分たちも五輪やW杯を経験できた。

そのつないできたものを途絶えさせてしまった。

次のW杯や東京五輪を目指している選手たちが、リオ五輪で戦う機会を逃してしまったことに、自分は責任を感じています。

申し訳ない気持ちで一杯です。」

○ 村本のコメント

上記の3つの敗因について、私なりの補足をします。

まず「①必勝パターンの崩壊」ですが、別に日本は守備がベースのチームだとは思わないです。

2015年のカナダW杯では、攻撃やボールポゼッションを重視した(美しさを重視した)サッカーだったし、それでも結果を残したのですから。

単純に、失点を少なくしないと勝ちあがれないんですよ。

で、この最終予選の守備陣は、鮫島さんは怪我を抱えていて、近賀さんは調子がいまいちで、サイドバックが穴になっていました。

サイドバックのバックアッパーにもなれる宇津木さんは、体調不良で離脱していたし。

本来ならば、なでしこリーグで活躍しているDF(村松、北原、乗松など)を呼んで、思い切ってスタメンに抜擢すべきでした。

彼女達はこの時期に調子が良かったですから。

次に「②修正力の欠如」ですが、これは高望みしすぎだと思います。

岩清水さんのコメントを見ても、想定していない事態に遭遇した感じで、それまでに準備できてなかったのは明らかです。

大会が進行している中での修正とは、事前に準備しておいたパターンとか手の中から、ふさわしいものを選ぶ作業です。
事前に準備していないのだから、修正のしようがない。

相手の方が上手だったという事です。

「③ハードワーク不足」は、確かに見られましたね。

これは心理的なプレッシャーが理由ではなく、『調子の上がらない選手や、怪我を抱えた選手を起用したから』です。

宮間や鮫島らは、なでしこリーグで活躍できておらず、リーグを見ている者なら不調なのを知っていたはず。

それなのに、過去の実績に幻惑されて、佐々木監督や大手メディアは過大な期待をしてしまったのです。

あと言えるのは、「各国が強化を進める中で、着実にスタミナもアップしている」という事です。

日本の「相手がばててきた後半に主導権を握る」というやり方は、もう通用しなくなってきています。

これからも「相手がばててきた後半に主導権を握る」スタイルを続けたいならば、ボール回しを進化させて、相手が疲れるようにパスを回すことが必要です。

(2016年10月28日に作成)


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