2014年W杯の直前
遠藤保仁選手の話

(『毎日新聞2022年6月8日』から抜粋)

2014年W杯・ブラジル大会に向けた強化試合で、日本代表はザンビアと対戦し、4-3で勝利した。

ザッケローニ監督は試合後に、「4ゴールを奪って勝利したことに興味はない。今日のゲームには満足していない」と語った。

この試合、後半開始から出場した大久保嘉人は、、ワントップ、2列目の右とポジションを変えながら、攻撃を勢いづけた。

ロズタイムには、青山敏弘からのパスを正確にトラップして、勝利を決めるシュートを入れた。

これは大久保にとって2008年以来の代表戦ゴールで、海外では初得点となった。

一方、前半18分に相手GKとぶつかり左目上から出血した岡崎慎司は、5針を縫うケガをした。

またGKとして出場した西川周作は、3失点したことに「悔しさを次の経験に活かしたい」と語った。

この試合は、日本は立ち上がりから動きが鈍かった。

出場した長友佑都は、「頭も身体も動かなかった」と語る。

高温多湿のアメリカ・フロリダ州タンパでの合宿なので、疲労が抜けきらないようだ。

日本は前半9分と29分に失点したが、後半になるとザンビアの運動量が落ちたので、打ち合いの展開になった。

本田圭佑は「試合の運び方は課題」と言い、香川真司も「もっと危機感を持たないといけない」と言う。

とはいえ選手たちは、「ここに調子を合わせているわけではない」と語り、調整段階と認識している。

(『ナンバー2014年6/25臨時増刊号』から抜粋)

W杯直前の2試合のテストマッチで日本代表は、コスタリカ戦は3-1で逆転勝ちし、ザンビア戦は0-2からひっくり返して4-3で勝った。

遠藤保仁は、冷静にこう説明する。

「結果は関係ないね。

俺は、あの2試合を、対ギリシャ、対コートジボワールの対策とは見ていない。

俺が重視していたのは、『自分達の戦いをできるか』と『コンディションが上がってきているか』だった。

それをメインにしつつ、出てきた課題を修正する、ということ。」

この2試合の課題は、『失点の多さ』と『圧力を受け続けると(相手の攻撃が続くと)、我慢できずにやられてしまうこと』だった。

遠藤

「コスタリカ戦では、自分達のリズムの時間帯に失点してしまった。

逆にザンビア戦は、試合の入り方がまずくて、自分達のリズムに出来なかった。

あの2試合では、自分達のリズムの時とそうじゃない時の戦い方を確認できた。

コンディションが上がってきているのも確認できた。」

2試合で4失点の内容については、「もっと慎重に試合に入ろう」との提言が守備陣から出たという。

遠藤

「点を取られると守備の責任になるんで、後ろは失点したくない。

でも、ラインを高く保ち、DFラインの背後をケアしながら前に行くやり方が、日本には合っている。

全体が間延びしてスペースができると、日本にとって良い事は何もないからね。

俺たちのチームは、攻撃的なサッカーをするスタイル。

だから4失点した事よりも、7点取れた事を評価している。

攻撃的に戦う場合、打ち合いになっても勝つ事が大事だからね。

今の代表は、1-0の試合を望めるメンバーじゃないし、そんな試合は誰も期待していないでしょ。」

ボランチは、長谷部誠がケガで不在中に、山口蛍が頭角を現してきた。

遠藤にとっても落ち着かない状況ではないのか。

遠藤

「レギュラー争いは、あって当たり前のこと。

ドイツW杯の時は、レギュラーとサブが明確に分かれていたけど、今回はごちゃ混ぜ状態になっている。

誰が試合に出るのか、チーム内の人間でさえ分からない。

そのせいか、皆のモチベーションが高いよ。

その一方で、皆が自分が犠牲になってもいいと思っている。

誰がレギュラーになっても、スタメンや監督に対してネガティブな感じになる選手はいないね。

ボランチの層が厚くなるのは良い事だし、俺はどんな状況でもベストを尽くすだけ。」

W杯の本番が近づく中で、ナーバスになりかけた選手も居たという。

初めてW杯に出る選手は10名もおり、おかしな事ではない。

遠藤

「W杯の重みやスゴさを自然に感じられればいいけど、なかなか難しい。

だから、俺らW杯を経験した者が色々と話すことが大事。
分かって戦うのと、何も見えないまま戦うのでは、気持ちの部分で違うから。

俺は、W杯は3回目だからね。

それに、日本に残っている選手の分もやらないといけない。

のほほんと戦うわけにはいかない。

(W杯初戦の)コートジボワール戦のポイントは、いかに(陣形を)コンパクトにできるか、先制点を奪えるか、だね。

先制点を取られると追う展開になり、リスクを冒すので間延びして相手の思うツボになる。」

○ 村本尚立のコメント

テストマッチの結果は、私も重要ではないと思っていたし、それをコートジボワールなどの対策にする必要もないと思っていました。

この点では、遠藤さんに共感します。

W杯の直前になってあれこれしても、もう遅いんですよ。

代表チームはそれまでの4年間にじっくりと育て上げるものであり、本番直前に「ああだ、こうだ」と言うのはおかしいです。

4年の間に色々なチームと対戦するのだから、その間に様々なタイプに対応できる状態に作っていかないと。

長谷部キャプテンが、試合後にいつも「修正しなければ」と呪文のように言い続けているのには、違和感を持っていました。

言うわりには修正されていかないし。

最初のうちは「心配性の人だなあ」と思って見ていましたが、W杯が近づいてきても「修正しなければ」と言い続けているので、「この人は大丈夫だろうか?」と思えてきたんですよ。

本番前になっても修正ばかりだったら、おかしいでしょ。

「私たちは、4年間にきちんと積み上げてきませんでした」と宣言するようなものです。

キャプテンがそれを言うなんて、自虐的ですよ。

むしろ本番直前には、やたらな修正はしない方がいいと思います。

新たに入ってきた大久保さんや青山さんをシステムに馴染ませるくらいで、あとはそれまでの積み上げを信じて堂々と最後のテストマッチを戦い、そのまま本番を迎えればいいんです。

「修正しなければ」との強迫観念に、キャプテンがとり憑かれていた事が(自信の無さが)、日本がW杯の初戦で自分らしさを出せなかった一因だと思います。

遠藤さんが言うコートジボワール戦のポイントについては、先制点を取ったのに自分達のサッカーを出来なかったのだから、遠藤さんの見立ては完全に甘かったですね。

(2014年11月6日に作成、2022年11月21日に加筆)


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