(『ZONE 2016年5月号』から抜粋)
200mハードルのアジア記録保持者で、現在はスプリント・コーチをしている秋本真吾。
彼は「走りの技術」をコーチとして教えているが、指導を受けたJリーガーのパフォーマンスが上がっている。
Jリーグでは2015年から、選手の走行距離やスプリント回数をカメラで計測する、「トラッキング・データ」を公表している。
走行スピードも計測されているが、秋本真吾の指導を受けた選手は最高速度が時速2~3km速くなっていると分かった。
秋本真吾は、速く走るには3つのポイントがあると説く。
1つ目は、『足を地面のどこに着地させるか』だ。
真吾は言う。
「ほとんどの選手は、速く走ろうとすると歩幅を大きく広げようとするが、それでは速く走れない。
身体の中心近くに足を着くのが大切で、歩幅は広すぎず狭すぎないことで、自らのパワーを発揮できる。」
2つ目は、『足のどこで接地するか』だ。
「速く走るには、爪先から着地することが重要だ。
爪先から接地することで、アキレス腱が伸び縮みして、エネルギーを生み出せる。
2足走行で最も足が速い動物のダチョウは、アキレス腱が非常に長く、高い位置にある。
そのため自然と爪先立ちの状態になっている。」
3つ目は、『どんな姿勢か』だ。
「サッカーは足元にボールがあるので、プレイ中に猫背になったり、膝が曲がったりすることが多い。
しかしクリスチアーノ・ロナウド選手やロッベン選手は、ドリブルをしている時も背筋がピンと伸びている。」
秋本真吾がスプリント・コーチになったのは、野球のオリックス・バファローズから走り方を教えてほしいと依頼されたのがきっかけだった。
真吾は言う。
「当時のバファローズは、12球団の中で最も盗塁の成功率が低かった。
僕はプロ野球選手はエリートだと思っていたが、陸上選手が当たり前に行っているトレーニングが新鮮に受け止められた。
指導したのは1時間だったが、30m走のタイムが平均で0.3秒も速くなった。
他のスポーツでは、走りに関する技術が全く知られていなかった。」
彼はサッカーの浦和レッズも指導したが、槙野智章の走りの欠点を一瞬で見抜いた。
「槙野選手は、爪先ではなく、かかとから接地する習慣がついていた。
かかとから接地すると、着地の時に足の裏がべったり着くので、アキレス腱がうまく活動しない上に、姿勢も猫背気味になる。」
槙野智章は走りを改善することで、試合終盤にスタミナ切れを起こさなくなり、日本代表に定着した。
秋本真吾は指導の際に、走りを録画して見せるのを活用している。
サッカー選手たちは、自分のプレイ映像を見ているが、走り方までは確認していないと真吾は言う。
お手本となる走りの映像を見せることもあるが、ウサイン・ボルトとクリスチアーノ・ロナウドの映像を比較しながら共通点を説明している。
(2022年11月21日に作成)