戦術リストランテから学ぶ②
バルセロナ、レアルマドリード、セビージャ、ビジャレアル

(以下は『フットボリスタ2007年8月15/22日号 戦術リストランテ第18回』から抜粋)

○カペッロ監督のレアル・マドリード

オーソドックスな4-4-2の布陣をとり、右サイドMFにベッカム、左サイドMFにロビーニョを置いた。

ベッカムは外からクロスボールを入れ、ロビーニョはドリブルで攻め込む。
CFのファン・ニステルローイがターゲット役だ。

こぼれ球を狙うラウールは、CFの周りを動く。
ラウールのポジションが下がり目のため、布陣を4-2-3-1と表記する者も多いが、ラウールはトップ下の仕事はしないので4-4-2が正しい。

ダブルボランチはエメルソンとディアラが基本で、DFラインの前から動かない(攻撃参加しない)。

戦術は古典的だが、優秀な選手が揃っているので、1対1ではまず負けない。

だからチームが結束し、ライバルのバルセロナがコケてくれれば、優勝するのが必然だった。
(※このチームは2006-07シーズンにスペインリーグで優勝した)

カペッロは真面目で筋を通す人なので、不満分子がいても最終的にチームが結束する。

このチームの弱点はサイドバックの守備力で、左にロベルト・カルロス、右にシシーニョ が入った時は酷かった。

カペッロのサッカーは奇抜さは全くない。
チーム全体のバランスを崩さず、よく走り、先発と控えが一体となって勝利を目指すスタイルである。

当たり前のサッカースタイルだが、意外とプロでも出来ない。

オーソドックスな4-4-2なので、途中交代で入る選手も違和感なくプレイできる。

カペッロの欠点は、選手の創造性を伸ばせないことだ。

(以下は『フットボリスタ2008年4月2日号 戦術リストランテ』から抜粋)

○バルセロナのサッカー・スタイル

ライカールト監督が率いる現在のFCバルセロナは、フォーメーションは4-3-3だ。

中盤の底(真中のMF)は、トゥーレ・ヤヤが定着した。

MFの前2枚(インサイド・ハーフ)は、シャビ、デコ、イニエスタの3人で切り盛りしている。

FWは3枚だが、エトー、アンリ、ロナウジーニョ、メッシ、ボージャン、ジオバニ・ドスサントスと多彩な選手がいる。

現在のバルセロナのサッカースタイルは、クライフが監督だった時に確立した。

クライフはとにかく攻撃的で、攻撃時に守備のため残る選手は3人ないしは2人だった。

守備の基本はマンマークで、入ってきた選手を捕まえるオランダ式だ。

だがクライフは、守備練習はほとんどしなかった。

クライフは3-4-3のフォーメーションを使い、3バックの前にいるアンカー(真中で低めのMF)は普通は守備力の高い選手にするが、クライフはパサーのグアルディオラを置いていた。

クライフの後任のファン・ハール監督は、ウイングの選手を利き足と同サイドに置く(右利きの選手は右サイドに、左利きの選手は左サイドに置く)のがクライフと違った。

クライフは、利き足と逆サイドに置くことが多かった。

クライフは意外と対戦相手を研究しており、弱点を見つけて突いていた。

相手DFを見て、スピードに弱いならストイチコフ、テクニックに弱いならラウドルップといった具合に配置していた。

バルセロナは練習でよく8対8をやるが、そこでコンビネーションを合わせている。

トライアングルを作れる関係性を練習している。

バルセロナの選手たちは、ボールをもらってトラップする段階で、どこのスペースが空くか分かっている。

ボールをもらう時点で、どこにパスを出すか決めているから、トラップして置く場所も決まる。

他のチームだと、ボールを何となくトラップしてから周りを見て、それからパスコースを決める。

作るスペースは、2mぐらいでいい。
そういう小さなスペースは、できたり消えたりが早いので、目視してからでは遅い。

バルセロナは、選手たちがスペースのイメージを共有しているので、細かいパスワークでつないでいける。
次の展開のイメージを共有しているのだ。

バルセロナの攻略法は、まずサイドで数的優位を作ることだ。

バルセロナの3トップは、自陣まで戻ってスペースを埋めることはない。
だからSBが上がれば、数的優位を作れる。

それにバルセロナはグラウンダーのパスばかり練習するので、サイドからの高めのクロスボールに弱い。

ライカールト監督のバルセロナが強かった時は、DFラインが高い位置にあった。

これはFWのエトーやジュリが前線で守備をしていたのが大きい。

しかし今は、FWのロナウジーニョやメッシが守備をしない。
こうなるとDFラインは上げられない。

でもバルセロナは、攻撃力のある選手は守備をしなくても起用するチームだ。

アンリがバルセロナで活躍できていないのは、前方に広いスペースがないからだ。

ロナウジーニョやエトーは狭いスペースでも活躍できるが、アンリはそうではない。

ライカールト監督になって5年目だが、(攻撃面の創造力を担っていた)ロナウジーニョの全盛期はすぎたので、1つのサイクルが終わったと言える。

バルセロナは、トップフォームの選手しか認めないチームだ。
マンUならば、ベテランのスコールズやギグスを温かい目で見守るが、バルセロナはレアルマドリードに比べても衰えた選手をすぐに切り捨てる。

クラブの功労者も簡単に切るので、スター選手が去る時はほとんどがケンカ別れとなる。

だから1つのサイクルが終わると騒動になり、チームも調子を落とすことになる。

余談だが、バルセロナは1999年に創立100周年イベントとして、ファン投票で歴代ベストプレイヤーを決めた。

選ばれたのは、ラディスラオ・クバラだった。

クバラは1950年代に活躍した人で、チェコ、ハンガリー、スペインの3つの国で代表歴がある。

引退後には、スペイン代表監督を10年つとめた。

(以下は『フットボリスタ2008年2月6日号 戦術リストランテ』から抜粋)

○セビージャのスタイル

スペインのセビージャは、UEFAカップで2連覇したクラブだ。

布陣は4-4-2で、2トップはルイス・ファビアーノとカヌーテ。

MFは、右サイドはヘスス・ナバスで、左サイドはディエゴ・カペル。
ダブルボランチはケイタとポウルセン。

DFは、右SBはダニエウ・アウベスで、左SBはドラグティノビッチ。
CBはモスケラとエスキュデ。

正GKのバロップは負傷中で、第2GKのデ・サンクティスが出場している。

デル・ニド会長とモンチSDの二人三脚で、選手を放出しつつチーム力を落とさない運営をしている。
現在の監督はマノロ・ヒメネスだ。

セビージャは、両SBが上がるので攻撃的と見られているが、実は守備が良い。

守備のベースは、ファンデ・ラモス前監督が築いた。
ラモスはDF4人をロープで縛り、選手間の距離を覚えさせた。これは元はACミランでサッキ監督が行った練習と言われている。

この守備練習は、ゾーン・ディフェンスの要となる、選手の連動性を学べる。

今のセビージャは、フィールド・プレイヤー10人が1つの生き物のように機能している。

セビージャの2トップは、基本的にサイドに流れず、中央で勝負する。

サイドのスペースには、サイドMFやSBが上がってくる。

SBが攻撃参加するので、ボランチ2人はまず守備が求められ、SBのカバーリングをする。

各ポジションの役割がはっきりしていて、プレーは単調でもある。

攻撃のフィニッシュは2トップに任されており、ここが抑えられると点が入らない。
2トップが得点、両サイドMFがチャンスメイク、ボランチがバランサーと、役割が明確だ。

スペインのチームは、メンタルの弱いチームが多いが、セビージャは戦術の約束事が明確なのでスペインらしくない勝負強さがある。

SBは攻撃ではオーバーラップし、守備時もハーフラインあたりからサイドMFとボランチと組んで3人で囲んでボールを奪いにいく。
反面、裏のスペースを突かれると脆い。

(以下は『フットボリスタ2010年12月22日号 戦術リストランテ第84回』から抜粋
2011年9月9日にノートにとり勉強)

○ビジャレアル(現実的なバルセロナ)のスタイル

ビジャレアルはスペイン・リーグの開幕前に、ジョセバ・ジョレンテ、ピレス、イバガサらベテランを放出した。
しかし好調で3位をキープしている。

その原動力は、FWのニウマールとロッシの2トップだ。

この2人は連動性が抜群で、ニウマールは9ゴール、ロッシは8ゴールをあげている。

ビジャレアルのスタイルは、リケルメが中心だった時代(2003~07年)と基本は同じで、4-4-2のコンパクトなスタイル、裏を狙うことなどだ。

昔はリケルメがボールをキープして、FWフォルランへのスルーパス一発だった。
今はロッシのスプリントを生かして、リズムが早くなった。

守備では、フラット4のライン・コントロールが安定している。
前線から守備して高いラインを取るスタイルだ。

最終ラインは、ボール保持者にプレッシャーがかかっていればラインを上げるし、そうでなければラインを下げる。

高いラインの時は一発で裏を取られる危険があるので、ボールに必ずプレッシャーをかける。

陣形の全体がコンパクトなので、スタミナはセーブできている。

2トップは、ラインが下がっている時は普通にゾーンで守り、パスコースを切る。

ラインが上がっている時は、厳しくボールに寄せていく。

FWがボール保持者を追うと、後ろは何らかのアクションを決断しなければならない。

ビジャレアルはパスサッカー志向で、全体をコンパクトにし、選手同士の距離を近くしている。

ショートパスをワンタッチでつなぎ、2トップを含めた選手の敏捷性を生かしている。

MF4人はテクニックが高く、自陣からでもパスでつなぐ。
ロングキックは蹴らない。

バルセロナとの違いは、前線の狙いで、裏狙いである。

ロッシは図抜けたスプリント能力を持っていて、「裏を広く」使える。

ロッシはSMFがサイドでキープした時に、その斜め前のスペースに流れてくる。

パスの出し手は、あえてDFと競争させる位置にボールを出す。

この戦術はバルセロナのメッシにもできるはずだが、なぜかしない。
スタイルの違いだろう。

バルセロナと似ている点もある。
ロッシはサイドでボールを受けると、メッシのようにカットインする。
そしてDFラインの前を横切りながら、裏へパスを出す。

サイドからのクロスボールで、味方の足元を狙うことが多いのも共通している。
速いパスをピンポイントで足元に入れるのだ。

ビジャレアルの弱点は、DFがロングボールを蹴らないで必ずつなぐので、相手が前線に人数をかけるとパスコースがなくなり、ボールを取られやすくなる事だ。

ロングボールを蹴ればカウンターのチャンスになる可能性もあるが、頑なに蹴らない。

もう一つの弱点は、DFラインが高いので裏を狙われやすいことだ。

ビジャレアルはDFラインのメンバーを固定しているので、ライン・コントロールはバルセロナより上だ。

ロングボールを蹴るか、パスをつなぐかの正解は、個人の能力によって変わってくる。
一律にこの判断をチームとして縛ると、失敗することが多い。

(以下は『フットボリスタ2010年12月29日号 戦術リストランテ特別編』から抜粋
2011年9月15日にノートにとり勉強)

○バルセロナのサッカー・スタイルと攻略法

DF4枚+MF4枚のゾーン・ディフェンスがヨーロッパ全土に浸透しているが、そのゾーンを破る力を持つバルセロナの優位ばかりがCLで目につく。

ベースとなる戦術の同質化は、CLだけではなく、今年(2010年)の南アフリカW杯にもはっきり出ていた。

4バックのゾーン・ディフェンスと、その前に4~5人でゾーンの網を張る守り方だ。

それへの対抗はゾーンの隙間にパスをつないでいくのが有効で、W杯のスペイン代表や、CLのバルセロナが証明した。

バルセロナは、ゾーン・ディフェンスの天敵である。

戦術の同質化が進んだので、鍵を握るのは個人の能力となっている。

しかし個の能力をグループで封じる方法は、ある程度まで確立されている。

CLのグループステージで最もバルセロナに対抗できたのは、コペンハーゲンだった。
コペンハーゲンの守り方は、インテルやチェルシーと同じスタイルだ。

中盤ではボールを取りにいかず、自陣に引いて守備ブロックを作る。
ポイントはサイドを空けることで、あえてサイドを空けて誘導していた。

一方バルセロナは、守備への切り替えが速く、攻守の区別がないメンタルを持っている。

例えばパスカットされた場合、 選手たちはそれを予想して走るコースを変え、相手ボールになる前に守備を始めている。

バルセロナの守備の基本は、近くの相手をマンマークで捕まえている。
ボールホルダーにプレッシャーをかけると同時に、周囲のパスの受け所を潰す。
つまりゾーンではなく、マンツーマンだ。

バルセロナの攻撃は、ゾーンの隙間にパスをつなぐ。
相手がゾーンで守っている以上、中盤でのパスワークを寸断されることはない。

キーマンはシャビとイニエスタで、この2人をマンマークで押さえこむしかない。

バルセロナは、3-4-3をオプションとして使うこともある。
CBのピケは、かつてのベッケンバウアー並みに最後尾から起点となれる。
3バックだとその長所を活かしやすい。

敵FWがひと息ついていると、ピケはドリブルで上がり起点となる。
これをされるとシャビをマンマークしていても無意味になる。

相手がマンツーマンで守った場合、3バックにしてCBを起点にすることで崩すのだ。

相手が通常の4バックの時は、攻撃時には実質2バックになり、両SBは上がってゆく。

バルセロナと対戦するチームは、守備ブロックを崩さない忍耐力とスタミナが必要となる。

ハイクロスをはね返せるCBも絶対条件だ。

ボール・ポゼッションは圧倒されるので、少ないチャンスをモノにするカウンター攻撃の精度が鍵を握る。

(2024年7月8日、10月4日に作成)


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