戦術リストランテから学ぶ②
バルセロナ、ビジャレアル

(以下は『フットボリスタ2008年4月2日号 戦術リストランテ』から抜粋)

○バルセロナのサッカー・スタイル

ライカールト監督が率いる現在のFCバルセロナは、フォーメーションは4-3-3だ。

中盤の底(真中のMF)は、トゥーレ・ヤヤが定着した。

MFの前2枚(インサイド・ハーフ)は、シャビ、デコ、イニエスタの3人で切り盛りしている。

FWは3枚だが、エトー、アンリ、ロナウジーニョ、メッシ、ボージャン、ジオバニ・ドスサントスと多彩な選手がいる。

現在のバルセロナのサッカースタイルは、クライフが監督だった時に確立した。

クライフはとにかく攻撃的で、攻撃時に守備のため残る選手は3人ないしは2人だった。

守備の基本はマンマークで、入ってきた選手を捕まえるオランダ式だ。

だがクライフは、守備練習はほとんどしなかった。

クライフは3-4-3のフォーメーションを使い、3バックの前にいるアンカー(真中で低めのMF)は普通は守備力の高い選手にするが、クライフはパサーのグアルディオラを置いていた。

クライフの後任のファン・ハール監督は、ウイングの選手を利き足と同サイドに置く(右利きの選手は右サイドに、左利きの選手は左サイドに置く)のがクライフと違った。

クライフは、利き足と逆サイドに置くことが多かった。

クライフは意外と対戦相手を研究しており、弱点を見つけて突いていた。

相手DFを見て、スピードに弱いならストイチコフ、テクニックに弱いならラウドルップといった具合に配置していた。

バルセロナは練習でよく8対8をやるが、そこでコンビネーションを合わせている。

トライアングルを作れる関係性を練習している。

バルセロナの選手たちは、ボールをもらってトラップする段階で、どこのスペースが空くか分かっている。

ボールをもらう時点で、どこにパスを出すか決めているから、トラップして置く場所も決まる。

他のチームだと、ボールを何となくトラップしてから周りを見て、それからパスコースを決める。

作るスペースは、2mぐらいでいい。
そういう小さなスペースは、できたり消えたりが早いので、目視してからでは遅い。

バルセロナは、選手たちがスペースのイメージを共有しているので、細かいパスワークでつないでいける。
次の展開のイメージを共有しているのだ。

バルセロナの攻略法は、まずサイドで数的優位を作ることだ。

バルセロナの3トップは、自陣まで戻ってスペースを埋めることはない。
だからSBが上がれば、数的優位を作れる。

それにバルセロナはグラウンダーのパスばかり練習するので、サイドからの高めのクロスボールに弱い。

ライカールト監督のバルセロナが強かった時は、DFラインが高い位置にあった。

これはFWのエトーやジュリが前線で守備をしていたのが大きい。

しかし今は、FWのロナウジーニョやメッシが守備をしない。
こうなるとDFラインは上げられない。

でもバルセロナは、攻撃力のある選手は守備をしなくても起用するチームだ。

アンリがバルセロナで活躍できていないのは、前方に広いスペースがないからだ。

ロナウジーニョやエトーは狭いスペースでも活躍できるが、アンリはそうではない。

ライカールト監督になって5年目だが、(攻撃面の創造力を担っていた)ロナウジーニョの全盛期はすぎたので、1つのサイクルが終わったと言える。

バルセロナは、トップフォームの選手しか認めないチームだ。
マンUならば、ベテランのスコールズやギグスを温かい目で見守るが、バルセロナはレアルマドリードに比べても衰えた選手をすぐに切り捨てる。

クラブの功労者も簡単に切るので、スター選手が去る時はほとんどがケンカ別れとなる。

だから1つのサイクルが終わると騒動になり、チームも調子を落とすことになる。

余談だが、バルセロナは1999年に創立100周年イベントとして、ファン投票で歴代ベストプレイヤーを決めた。

選ばれたのは、ラディスラオ・クバラだった。

クバラは1950年代に活躍した人で、チェコ、ハンガリー、スペインの3つの国で代表歴がある。

引退後には、スペイン代表監督を10年つとめた。

(以下は『フットボリスタ2010年12月22日号 戦術リストランテ第84回』から抜粋
2011年9月9日にノートにとり勉強)

○ビジャレアル(現実的なバルセロナ)のスタイル

ビジャレアルはスペイン・リーグの開幕前に、ジョセバ・ジョレンテ、ピレス、イバガサらベテランを放出した。
しかし好調で3位をキープしている。

その原動力は、FWのニウマールとロッシの2トップだ。

この2人は連動性が抜群で、ニウマールは9ゴール、ロッシは8ゴールをあげている。

ビジャレアルのスタイルは、リケルメが中心だった時代(2003~07年)と基本は同じで、4-4-2のコンパクトなスタイル、裏を狙うことなどだ。

昔はリケルメがボールをキープして、FWフォルランへのスルーパス一発だった。
今はロッシのスプリントを生かして、リズムが早くなった。

守備では、フラット4のライン・コントロールが安定している。
前線から守備して高いラインを取るスタイルだ。

最終ラインは、ボール保持者にプレッシャーがかかっていればラインを上げるし、そうでなければラインを下げる。

高いラインの時は一発で裏を取られる危険があるので、ボールに必ずプレッシャーをかける。

陣形の全体がコンパクトなので、スタミナはセーブできている。

2トップは、ラインが下がっている時は普通にゾーンで守り、パスコースを切る。

ラインが上がっている時は、厳しくボールに寄せていく。

FWがボール保持者を追うと、後ろは何らかのアクションを決断しなければならない。

ビジャレアルはパスサッカー志向で、全体をコンパクトにし、選手同士の距離を近くしている。

ショートパスをワンタッチでつなぎ、2トップを含めた選手の敏捷性を生かしている。

MF4人はテクニックが高く、自陣からでもパスでつなぐ。
ロングキックは蹴らない。

バルセロナとの違いは、前線の狙いで、裏狙いである。

ロッシは図抜けたスプリント能力を持っていて、「裏を広く」使える。

ロッシはSMFがサイドでキープした時に、その斜め前のスペースに流れてくる。

パスの出し手は、あえてDFと競争させる位置にボールを出す。

この戦術はバルセロナのメッシにもできるはずだが、なぜかしない。
スタイルの違いだろう。

バルセロナと似ている点もある。
ロッシはサイドでボールを受けると、メッシのようにカットインする。
そしてDFラインの前を横切りながら、裏へパスを出す。

サイドからのクロスボールで、味方の足元を狙うことが多いのも共通している。
速いパスをピンポイントで足元に入れるのだ。

ビジャレアルの弱点は、DFがロングボールを蹴らないで必ずつなぐので、相手が前線に人数をかけるとパスコースがなくなり、ボールを取られやすくなる事だ。

ロングボールを蹴ればカウンターのチャンスになる可能性もあるが、頑なに蹴らない。

もう一つの弱点は、DFラインが高いので裏を狙われやすいことだ。

ビジャレアルはDFラインのメンバーを固定しているので、ライン・コントロールはバルセロナより上だ。

ロングボールを蹴るか、パスをつなぐかの正解は、個人の能力によって変わってくる。
一律にこの判断をチームとして縛ると、失敗することが多い。

(以下は『フットボリスタ2010年12月29日号 戦術リストランテ特別編』から抜粋
2011年9月15日にノートにとり勉強)

○バルセロナのサッカー・スタイルと攻略法

DF4枚+MF4枚のゾーン・ディフェンスがヨーロッパ全土に浸透しているが、そのゾーンを破る力を持つバルセロナの優位ばかりがCLで目につく。

ベースとなる戦術の同質化は、CLだけではなく、今年(2010年)の南アフリカW杯にもはっきり出ていた。

4バックのゾーン・ディフェンスと、その前に4~5人でゾーンの網を張る守り方だ。

それへの対抗はゾーンの隙間にパスをつないでいくのが有効で、W杯のスペイン代表や、CLのバルセロナが証明した。

バルセロナは、ゾーン・ディフェンスの天敵である。

戦術の同質化が進んだので、鍵を握るのは個人の能力となっている。

しかし個の能力をグループで封じる方法は、ある程度まで確立されている。

CLのグループステージで最もバルセロナに対抗できたのは、コペンハーゲンだった。
コペンハーゲンの守り方は、インテルやチェルシーと同じスタイルだ。

中盤ではボールを取りにいかず、自陣に引いて守備ブロックを作る。
ポイントはサイドを空けることで、あえてサイドを空けて誘導していた。

一方バルセロナは、守備への切り替えが速く、攻守の区別がないメンタルを持っている。

例えばパスカットされた場合、 選手たちはそれを予想して走るコースを変え、相手ボールになる前に守備を始めている。

バルセロナの守備の基本は、近くの相手をマンマークで捕まえている。
ボールホルダーにプレッシャーをかけると同時に、周囲のパスの受け所を潰す。
つまりゾーンではなく、マンツーマンだ。

バルセロナの攻撃は、ゾーンの隙間にパスをつなぐ。
相手がゾーンで守っている以上、中盤でのパスワークを寸断されることはない。

キーマンはシャビとイニエスタで、この2人をマンマークで押さえこむしかない。

バルセロナは、3-4-3をオプションとして使うこともある。
CBのピケは、かつてのベッケンバウアー並みに最後尾から起点となれる。
3バックだとその長所を活かしやすい。

敵FWがひと息ついていると、ピケはドリブルで上がり起点となる。
これをされるとシャビをマンマークしていても無意味になる。

相手がマンツーマンで守った場合、3バックにしてCBを起点にすることで崩すのだ。

相手が通常の4バックの時は、攻撃時には実質2バックになり、両SBは上がってゆく。

バルセロナと対戦するチームは、守備ブロックを崩さない忍耐力とスタミナが必要となる。

ハイクロスをはね返せるCBも絶対条件だ。

ボール・ポゼッションは圧倒されるので、少ないチャンスをモノにするカウンター攻撃の精度が鍵を握る。

(2024年7月8日、10月4日に作成)


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