(以下は『フットボリスタ 2007年9月19日号』から抜粋)
ホセ・ペケルマン監督は、アルゼンチンのユース代表とA代表を率いた人である。
アルゼンチン・ユースは、1995年からワールドユース(U-20W杯)で、7大会で5度の優勝という偉業を達成した。
ペケルマンがユース監督時代に育てたリケルメらは、「ペケルマン・ボーイズ」と呼ばれる。
彼らを率いてペケルマンは2006年ドイツW杯に出場したが、ベスト8で終わった。
以下は、ペケルマン監督へのインタビューである。
質問
ユース代表監督になったきっかけは?
ペケルマン
1994年アメリカW杯の後、アルゼンチン・サッカー協会のグロンドーナ会長は、新プロジェクトを募集しました。
私は無名の存在でしたが、レポートを提供し、育成を任せてもらいたいと話した結果、ユース代表の監督になったのです。
私はアルゼンチンの各地で育成組織を作り、地方にトレーニングセンターを開設して、アイマール、マスチェラーノといった選手を育てました。
質問
ユース代表監督の後は、スペインリーグ2部のレガネスを率いましたね。
ペケルマン
レガネスの大株主になったダニエル・グリンバンクから頼まれて、プロジェクトの責任者となり、14人のアルゼンチン選手と、監督になるカルロス・アイマールと共に、私は加入しました。
2003年8月からプロジェクトは始まりましたが、約束が守られず、半年で終了しました。
(レガネスの85%の株を買ったグリンバンクは、半年もしないうちに撤退を発表した。
思ったほど儲からないと気づいたからと言われている。)
質問
その後にアルゼンチンのA代表を率いましたが、その感想は?
ペケルマン
名誉でした。
2006年ドイツW杯では、期待された成績は残せました。
私たちは大会で11得点3失点のすばらしいサッカーを見せました。
質問
チーム作りで最も意識しているのは何ですか?
ペケルマン
1つのシステムにこだわらないことです。
システムを気にしすぎると、優れた選手を切り捨てることになります。
私が理想とするのは、4バックで攻撃的なサッカーです。
リケルメのような選手を中心にしたチームです。
A代表で重要なのは、ベテランと若手を融合させ、チーム内に多様性を生み出すことです。
また代表は、フィジカル面の調整が難しい。
選手たちがベストコンディションにあるとは限らないことを、よく理解しておかねばなりません。
私はシステムよりも、まず選手を重視します。
リケルメは世界で最も優れた選手の1人で、彼がやりたいポジションで自由にプレーさせることが大事です。
彼が心地良くプレーできれば、チーム全体も良いサッカーになります。
リケルメとメッシは、もちろん共存できます。
(以下は『週刊サッカーマガジン 2007年11月6日号 西部謙司の記事』から抜粋)
ファン・ロマン・リケルメは、アルゼンチン代表としてW杯予選のチリ戦に出場し、FKのキッカーとして得点にからみ、2-0の勝利に貢献した。
リケルメは現在、スペインリーグのビジャレアルに所属するが、そこではペジェグリーニ監督が試合に出さず飼い殺しにしている。
リケルメは使い方が難しい選手だ。
走らないし、守備をしないし、スピードもない。
だが攻撃になると、ボールを持ったらキープ力があるので奪われない。
そしてパスを出せば、重く沈みこむ球筋で左に曲がる独自のパスを出せる。
FWとMFの中間の選手とアルゼンチンでは評されているが、彼は典型的なゲームメイカーだ。
リケルメのゲームの組み立ては、慎重で、ギャンブル性の高いイチかバチかのパスは少ない。
チームメイトはリケルメを理解し、パスが左に曲がることに合わせたり、代わりに守備をしなければならない。
つまりリケルメを使うには、彼に合わない選手は排除する必要がある。
ビジャレアルのペジェグリーニ監督は、リケルメが王様のチームにしたくないので、彼を使わないのだ。
一方、アルゼンチン代表のバシーレ監督は、リケルメを信じているようだ。
彼をチームの中心にしている。
(以下は『フットボリスタ 2011年7月13、20日号』から抜粋)
もうすぐコパ・アメリカ2011年大会が始まる。今回はアルゼンチンが開催国だ。
アルゼンチン代表は、セルヒオ・バティスタ監督が「バルセロナのサッカーを真似る」と公言 して、メッシを中心にしたチーム作りをしている。
基本陣形は4-3-3で、FWはメッシを真中に置き、左のディ・マリアと右のラベッシにサポートさせている。
キャプテンはマスチェラーノ。
半年にわたり招集されなかったテベスが、大会直前になってメンバー入りした。
だがテベスだけでなく、イグアイン、ディエゴ・ミリート、アグエロは、控えに回るだろう。
現在のアルゼンチン代表は守備陣が弱く、GKのカリーソとロメロは安定感に欠け、CBのガブリエル・ミリートはバルセロナで控えに定着している。
左SBのロホも経験不足だ。
メッシを活かすには、彼が前を向いてボールを持てるようにするのがカギとなる。
バルセロナでは、シャビやイニエスタのいる中盤でボールを回して相手の陣形を崩し、メッシが前を向いてボールを受けられるメカニズムがある。
両ウイングのビジャとペドロは、あまりボールを持たないシャドーストライカーとして働いている。
だがアルゼンチン代表の両ウイングは、ディ・マリア、ラベッシ、テベスなど、ボールを持ってこそ活きるタイプだ。
MFのカンビアッソやマスチェラーノも、細かくボールを動かすタイプではない。
ゲームメイカー役のバネガとパストーレも、縦に勝負のパスを入れるスイッチャーのタイプだ。
要するに、バルセロナのスタイルをそっくり真似るのは困難だ。
2010年W杯で4得点したイグアインをCFにして、メッシはその周りで自由に動いた方が良いのではないか。
シメオネ(ラシン・クラブ監督)は、「メッシはチームプレーから離れるほど才能を発揮するタイプだ。だから自由に動かすほうが良い」と述べている。
昨季のイングランド・リーグ得点王のテベスを使わないのも納得がいかない。
親善試合で4試合3ゴールのガブリエル・アウチェをメンバーから外したのも、残念である。
なおアルゼンチンは、2010年W杯はベスト8で終わった。
(2024年7月9日に作成)