(以下は『フットボリスタ 2007年2月21日号』から抜粋)
イタリアのセリエAで、ウルトラス(サッカーの暴力的なサポーター)が暴れて、警察官が殺される事件が起きた。
人が死んだ大事件だが、それからたった1週間でセリエAは再開されることになった。
セキュリティに不備のあるスタジアムは、無観客試合にするという条件付きでの見切り発車だ。
早期再開したのは、カネを人の命よりも優先したからだ。
カターニアで起きたこの悲劇では、暴動から2日後の2月4日に、イタリア政府は首相官邸で緊急会議を開いて、いくつかの措置を決めた。
その1つが、法律で定めた安全基準を満たさないスタジアムは、無観客試合にすることだ。
セリエAで使われている18のスタジアムのうち、基準を満たしているのは6つだけで、あとは無観客になる。
政府が厳しい措置をとったのは、2005年8月に公布された法律で定めている安全基準が、大半のスタジアムで無視されていたからだ。
セリエA・Bのクラブの代表であるレーガ・カルチョ(リーグ運営組織)のマタレーゼ会長は、次の暴言を吐き、イタリア中のひんしゅくを買っている。
「カルチョ(イタリアリーグ)は重要な産業で、死者もシステムの一部だ。
死者が出たからといって、歩みを止めることは許されない。」
亡くなったラチーティ巡査長(38歳)の葬儀は、何万人もの人々が参列した。
シチリア・ダービーの暴動で彼が死に、地獄に突き落とされたカターニアの街は、ショックに沈んでいる。
カターニアのマッシミーノ・スタジアムは、安全基準を絶望的なまでに満たしていない。
安全不足は長年の懸案だが、クラブと市の間でスタジアムの管理権争いが3年も続き、手が打たれないままに今回の事件が起きてしまった。
ラチーティ巡査長を殺したのはウルトラスの一員で、容疑者は17歳だ。
この容疑者は、カターニアがセリエAに昇格した頃からウルトラスの活動に没頭していたという。
近年は、極右思想のウルトラスが目立っている。
今回の事件で逮捕された36人のうち、14人が未成年だ。
ウルトラスがはびこるのは、警察の対応が手ぬるいからだ。
警官は先手を打って攻撃しないが、法律上で大きく保護されている未成年はそれをいいことにやりたい放題になっている。
ウルトラスのリーダーには、脅迫や圧力で監督をクビにしたり、放出する選手を決める者までいる。
悪いのはそれを受け入れるクラブの首脳陣だが、首脳陣にはウルトラスを利用する者もいるのだ。
ASローマの首脳部は、ウルトラスの利用者として知られている。
ウルトラスの運管するローカルラジオ局を利用して、自分たちが流したい情報を広め、監督や選手をコントロールしている。
ローマのチーム内の問題を書いた記者は、ローカルラジオ局から激しい攻撃と脅迫を受けた。
クラブがそれを黙認したのは言うまでもない。
クラブの首脳陣と結託したウルトラスは、VIP席のチケットを要求したり、アウェイの試合の遠征費を要求するようになる。
ウルトラスのリーダーには、試合前後のロッカールームへのフリーパスを持つ者までいる。
イタリアで、ゴール裏のサポーター・グループが「ウルトラス」と自称するようになったのは、1970年代と言われている。
現在では、彼らはイタリア中のゴール裏に定着している。
ゴール裏はウルトラスの拠点だが、ドラッグの密売が行われており、マフィアともつながっている。
ウルトラスのリーダーは、ドラッグの密売をビジネスにしている。
彼らが警察を目の敵にするのは、非合法ビジネスをしているからだ。
ウルトラスは強く組織化されており、どのグループもリーダーが全権を握っていて、その周囲を幹部が固め、残りは兵隊である。
(※この組織図は、マフィアととてもよく似ている)
兵隊たちは、リーダに喰い物にされており、時にはクスリ漬けにされている。
ウルトラスにあるのは、暴力と搾取の構造である。
(以下は『フットボリスタ 2007年11月14日号』から抜粋)
ポルトガル・リーグの3大クラブには、「ウルトラス」がいる。
普通に活動が認められているポルトの「スーペル・ドラゴンズ」 、保護観察の下で応援が許されているスポルティングの「ジューベ・レオ」、スタジアム入場と応援が禁止されているベンフィカの「ディアボス・ベルメーリョス」だ。
ディアボス・ベルメーリョスは、昨季のホーム戦で暴力行為をし、応援が制限された。
今季8月の試合で再び暴力行為をし、全メンバーの入場禁止が決まった。
(2024年7月11日に作成)