(以下は『フットボリスタ2007年2月21日号 戦術リストランテ』から抜粋)
○中村俊輔とセルティック
中村俊輔はスコットランド・リーグのセルティックに所属しているが、彼のFKはセルティックの大きな武器になっている。
中村のFKは、精度高く狙いすますもので、無回転シュートのようなパワーで勝負するものではない。
中村の弱点は守備で、ヘディングが弱いし、裏を突かれた時の反応が鈍く、足が遅い。
セルティックは4-4-2の陣形で、中村は右サイドMFをしている。
普通はサイドMFは、縦に突破できるスピードのあるタイプが使われるが、中村は違う。
中村は足元でボールをもらって、止まってプレーするタイプで、パサーとして働く。
中村のボールのもらい方は独特で、小さなスペースにスッと動いてボールを受ける。
相手の視界から外れて、小さいスペースだが前を向いてボールを受けようとする。
ボールを持つ味方がルックアップする直前にスッと動くので、相手は近くにいても捕まえきれない。
ただし、味方が恐がってパスを出さないことも多い。
中村はパス技術と広い視野を持っているので、彼がボールを持ったら、信じて動き出せばパスをもらえる。
セルティックの現状は、攻撃でアイディアが生まれるのは中村を経由した時だけだ。
(以下は『フットボリスタ2007年3月7日号 戦術リストランテ』から抜粋)
○サイド攻撃
サイドからの攻撃は、シュートまで持ち込むのは易しい。
シュート自体の難易度は上がるが、シュートまで行くのは容易である。
サイドで数的優位を作れば、クロスボールは上げられる。
最も打ちやすいシュートは、向かってくるボールを蹴るパターンだ。
代表的なのは、ポストプレーで後ろに戻したボールを蹴るもので、ターゲット(ゴール)は見えているし、ボールの反発力もある。
次に打ちやすいのは、ボールを追いかけて打つシュートで、代表的なのはスルーパスをもらって打つシュートだ。
これもゴールを見ながら打てる。
サイドからのクロスボールに合わせるシュートは難しくて、シュートミスが起きやすい。
(以下は『フットボリスタ2008年9月17日号 戦術リストランテ』から抜粋)
○チェルシーのMF4人
チェルシーは、4-1-4-1のフォーメーションで、攻撃はパスを多用し、2列目の飛び出しを絡めた形が多い。
アンカーは、ミケル、エシアン(エッション)、ベレッチが務めている。
アンカーの前にいる4人は、デコ、バラック、ランパード、ジョー・コールが基本で、自由にポジションを入れ替える。
この4人はパス、シュート、運動量のどれもがハイレベルで、チームの軸である。
この4人がパスを回してタメを作り、左右のSBがスペースに出ていくのが特徴だ。
SBは、右がボジングワ、左がアシュリー・コールである。
FWはドログバがいるが、負傷離脱しており、アネルカが1トップに入っている。
チェルシーは、CBのテリーとリカルド・カルバーリョ、さらにアンカーの守備力が高いので、攻撃時にSBは高い位置に行ける。
だがSBは、守備時にはしっかり戻ってくる。
ボールを取られて守備になると、アンカーが相手の攻撃をサイドにいなして時間を稼ぎ、前線にいる選手たちが戻ってくる。
アーリークロスを入れられても、CBの2人に高さがあるので、はね返せる。
チェルシーは、モウリーニョが監督だった時はカウンター志向で、縦に早い攻撃を志向してロングボールも使っていた。
それに対し今のスコラーリ監督は、ロングボールを極力使わずに、時間をかけて攻める。
パス回しも横方向が中心で、相手を左右にゆさぶりながら、SBのオーバーラップも入れて攻める。
今のチェルシーは、シュートに行くまでほぼパスワークだけである。
ドリブルでかわしてシュートに行く選手が少ない。
2列目の選手の飛び出しを多用しているが、チェルシーのような1トップで中盤を厚くしたチームは、ボールを保持できてチャンスを作るわりに得点がなかなか入らない。
マンUも1トップだが、2列目にいるのがクリスティアーノ・ロナウド、ルーニー、テベス、スコールズで、彼らはそれぞれ得点できるパターンを持っている。
その点でチェルシーの中盤は押しが弱い感じがする。
チェルシーはドリブラーのロビーニョを獲得しようとしていたが、マンCに獲られたのが痛かった。
バラックはシュートが強烈なので、彼が昔の名選手プラティニみたいな得点力を持てれば、チェルシーはスーパーチームになれる。
オフェンス時のチェルシーは、実質的に3-6-1のフォーメーションで、CB2枚+アンカーの3バックになる。
攻撃時の3-6-1は、EURO2008のスペイン代表もそうだった。
今のチェルシーは、1982年W杯のブラジル代表と似ている。
この時のブラジル代表は、ジーコ、ソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾの4枚のMFが「黄金の4人」と呼ばれ、定型の戦術はなかった。
守備の中心だったオスカーは、後になって「戦術はなかった」と証言している。
実際に、左SBのジュニオールが右ウイングの位置に行くなど、奔放なチームだった。
このブラジル代表は、流麗なパスワークと絶妙のコンビネーションで洗練の極みだった。
戦術がないのに、洗練されたチームだった。
「黄金の4人」が、非常に戦術眼の高い選手だったからだろう。
彼らの協調と即興は、練り込まれた戦術を超えていた。
なお今期のACミランも、ロナウジーニョ、シェフチェンコ、セードルフ、ピルロの4人がMFで、テクニシャンをそろえているが、こちらは緩いプレーで魅力はない。
ガラクティコ時代のレアル・マドリードも同様に緩かった。
1982年のブラジル代表は、点取り屋のカレッカを負傷で欠いていたが、チェルシーはドログバがそのうちに復帰してくる。
(以下は『フットボリスタ2010年4月28日号 戦術リストランテ』から抜粋)
○CLの準決勝、バイエルン対リヨンの見どころ
バイエルンは、4-4-2のフォーメーションで、強みはロッベンとリベリーの両サイドMF。
4枚のMFのうち、右はロッベンで、左はリベリー。
ボランチは、ファンボメル、シュバインシュタイガー、もしくはプラニッチ。
CBはファン・ブイテンとデミチェリスだが、ファン・ブイテンはスピートに不安がある。
GKはブットで、足下がややおぼつかない。
一方リヨンは、4-3-3のフォーメーションで、攻守のバランスが良い。
CLではここまで6失点で、ベスト4まで進んだチームの中で最小失点である。
GKはロリスで、好調を維持している。
バイエルンは、パスワークは並のレベル。
リヨンは戦術が長期にわたり一貫していて、それに合った選手を獲っている。
現在のクロード・ピュエル監督は、4-3-3と4-2-3-1を併用している。
リヨンは国内リーグで7連覇したチームだが、リトリートしてカウンターという守備的なサッカーもできるのが特徴だ。
バイエルンが4-4-2、リヨンが4-3-3なので、MFはバイエルンが多く、ロッベンやリベリーが中央に絞ってくると、バイエルンが数的優位になる。
ロッベンとリベリーは、基本はワイドに張っているが、利き足が配置されたサイドとは逆で、しばしばドリブルでカットインしてくる。
カットインしてきたら、リヨンはSBがマークする必要があるが、そうなるとオーバーラップしてきたバイエルンのSBをリヨンのウイングが下がってマークしないといけない。 ここをしっかりマークできないとバイエルンが主導権を握るだろう。
バイエルンは左SBのバドシュトゥバーか出場停止なので、右SBのラームが左SBに入るかもしれない。
だがラームは右利きで、攻め込んだ時にカットインして右足でシュートを打つプレイがすばらしい。
彼を右サイドに置くと、縦に突破してクロスボールを入れる選択肢しかなくなる。
リヨンとしては、まずロッベンとリベリーをそれぞれ2人でマークして潰したい。
対面するSBが縦のコースを切り、同サイドのMFがカットインのコースを切って、2人で挟み込むのだ。
そしてオーバーラップしてきたバイエルンのSBは、ウイングが追いかけてマークする。
バイエルンは、パスワークは並レベルなので、リヨンに引かれると苦しむだろう。
自分たちが引いてカウンターを仕掛けるほうが、バイエルンは楽だ。
もしリヨンが守備を固めてきたら、FWはミュラーでは厳しいので、空中戦に強いマリオ・ゴメスの先発もあるかもしれない。
今期(2009-10年)のCLは、イングランドのチームがベスト4に残れなかった。
イングランド・リーグは、外国人投資家がオーナーのチームも多く、豊富な資金が売りだ。
その一方で、世界経済不況の影響を最も受けやすいリーグになっている。
(※2008年に世界的な不況が起きた)
今期が始まる前、マンUはクリスティアーノ・ロナウドを放出し、リバプールはシャビ・アロンソを放出したが、 その穴埋めができなかった。
ベスト4に残ったバイエルンとリヨンは、手堅い経営で知られている。
リヨンは、エースのベンゼマを放出したが、リサンドロとバストスを獲得して穴を埋めた。
(以下は『フットボリスタ2010年7月6日号 戦術リストランテ』から抜粋
2011年11月16日にノートにとって勉強した)
○2010年W杯、日本対デンマークなど
日本は4-2-3-1でスタートしたが、デンマークのFWトマソンを捕まえられず、10分過ぎにいつもの4-1-4-1に戻した。
つまり長谷部をボランチ(アンカー)に下げ、大久保をトップ下から左サイドへ。
松井を左サイドから右サイドへ回した。
序盤はデンマークのペースだったが、17分に本田のFKが決まり流れが変わった。
デンマークはパワープレーを行ったが、味方の選手ばかりを見て放りこみ、日本のCBの中澤とトゥーリオにクリアされ続けた。
デンマークは、CBのいない所に放りこむべきだった。
なお基本的にロングボールは、正面を向いて競れるDF側が圧倒的に有利だ。
日本の両サイド(大久保と松井)は上下動が大きく、疲労が心配だ。
内田を松井のバックアップにするのもアリだと思う。
日本のベスト16入りは歴史的快挙である。
イタリアは伝統的にカウンター志向だが、そもそもカウンターは強力なFWを生かす戦法だ。
あえて引いておいてカウンターを仕掛ける。
相手と力の差があり、仕方なくしているのは、「弱者のカウンター」である。
今回(2010年W杯)のイタリアは、肝心のアタッカーがいなかった。
そのため上手くいかず、グループリーグで敗退した。
強い時のイタリアには、コンダクター、ドリブラー、点取り屋の「カウンター3点セット」がいる。
大会によってどれかが欠けたりするが、今回は全部いなかった。
フランスもグループリーグで敗退したが、ドメネク監督を含めてチームをコンロトールする人がいなかった。
フランス代表は個人主義者の集まりのため、リーダーが必要である。
今回はリーダーはアンリの予定だった。
彼は頭が良く、特定の相手にしかインタビューをさせず情報をコントロールしていた。
しかしアンリがレギュラー落ちして、リーダーでなくなってしまった。
そして新キャプテンのエブラはチームをまとめられなかった。
イングランドも苦戦したが(ベスト16で敗退)、チームの問題点は大会前から4つあると言われていた。
①GKの能力不足
②CBのテリーとファーディナンドのコンディション
③MFのランパードとジェラードが共存できない
④FWルーニーのパートナーの不在
この問題は結局解決せず、足枷となった。
③はバリーの起用で解決したが、バリーは負傷し離脱してしまった。
(以下は『フットボリスタ2010年9月?日号 戦術リストランテ』から抜粋
2011年10月3日にノートにとって勉強した)
○サッカーの布陣、システムについて
4-3-3と4-1-4-1はほぼ同じで、守備時に4-3-3の両ウイングが下がると4-1-4-1になる。
1トップと3トップを同じくくりにするのは、このためである。
1トップ型は、4-3-3と4-2-3-1に分けられる。
CB4人+インサイドMF2人の守備ブロックは共通で、間にアンカーを入れると4-3-3に、 MF2人の前にトップ下をおくと4-2-3-1になる。
状況に応じてこの2つを使い分けるのが、最近のCLの流行だ。
現在の1トップ・システムの初めは、ゾーン・ディフェンスの浸透である。
ゾーン・ディフェンスは、アリーゴ・サッキ監督のACミランが、1980年代末に始めた。
サッキは、1974年W杯のオランダ代表をモデルとした。
オランダ代表のプレッシングはマンツーマン・ディフェンスだったが、サッキはより組織的で継続的なゾーン・ディフェンスを採用した。
サッキの始めたゾーン・ディフェンスによるプレッシングは普及し、現在はこれに集約されている。
ピッチの横幅は、4人で守るのに落ちついた。
これによりDFラインは4人となり、MFも4人で、4×2で守るのが基本となった。
サッキのミランも4-4-2だった。
DF4人、MF4人で、残る2人をそのままFWにすると4-4-2になる。
1人をアンカーにすると4-1-4-1に、 1人をトップ下にすると4-2-3-1(4-4-1-1)になる。
ゾーン・ディフェンスでの守備は、4+4のラインの間に入られると危険なため、アンカーをおくことが多い。
現在は1トップが主流となっているが、これはスペースを利用するためだ。
2トップだと、3~4人のDFが対応するため、中央にスペースがなくなる。
1トップにして、両WGが開けば、中央にスペースができる。
一方で、バルセロナやスペイン代表はスペースがなくても、ピンポイントのパスをつないで中央を突破できる。これは技術が必要だ。
最近は、DFからショートパスでつないで組み立てるチームが増えたので、FWはプレスをかけなくてはならなくなった。
プレスをかけるには、1トップの方が2トップよりもやりやすい。
最近の傾向として、相手のシステムとかみ合う形のシステムを選択するチームが多い。
システムがずれていると攻守の切り替わりに隙ができるため、予測のつかない展開になりやすいからだ。
攻撃では、2つのスタイルがある。
1つはボールを持って崩すタイプ、もう1つは相手に持たせてカウンターを狙うタイプだ。
カウンター・タイプ同士の対戦でシステムがかみ合うと、南アフリカW杯の日本対パラグアイのような得点の匂いのしない試合になる。
イングランドは4-4-2の布陣を好み、1977~81年にイングランドのチームが欧州チャンピオン・カップを独占した。
この頃は、英国式の4-4-2の全盛期だった。
このスタイルの強みは、スピードと激しさだった。
そのため相手はボールをキープをして、試合のペースを落とす対策に出た。
イイングランドのサッカーは、ロングボールの多用、ダイレクトプレー主義が特徴である。
だから相手チームは、ボールキープできるかが勝敗の分岐点になる。
しかしボスマン判決後は、イングランド・リーグにも外国人監督が流入し、上位クラブは4-3-3となり、下位チームも4-3-3か4-5-1に変化した。
(以下は『フットボリスタ2011年1月12&19日号 戦術リストランテ第85回』から抜粋
2011年12月16日にノートにとって勉強した)
○日本代表・男子の、歴代の欧州人監督
日本代表は、欧州人の監督と相性が良い。
今までオフト、トルシエ、オシムと外れが無かった。
彼らの起用で戦術を進化させてきた。
オフト監督は、戦術の「言葉」をもたらした。
トライアングル、コンパクト、スリーラインなどで、サッカー界全体に広がり、強化につながった。
トルシエ監督は、「プレッシング」の戦術をもたらした。
プレッシングは、それまでのファルカンと加茂がすでに挑戦していたが、失敗していた。
トルシエは、選手に体の向きやポジショニングを細かく教えて、実現させた。
興味深かったのは弱点を突かれた際の対応までマニュアル化していたことで、日本人に合っていた。
トルシエの「フラットライン・ディフェンス」は、今までの守備と全く違い、初めはうまくいかなかった。
しかし彼はユース代表監督も兼任しており、若い世代に教えこんだ。
トルシエはプレッシングについて、相手FWから3m下がった所でDFラインを揃える、「3mコンセプト」を使った。
2000年のアジアカップ優勝は、トルシエによる流動的なポジション・チェンジに各国が対応できなかったのが大きい。
トルシエ戦術の先進性がアドバンテージになった。
オシム監督は、形ではなく、「アイディアと走力」を重視した。
日本選手の力を引き出そうとし、型にはめるのではなく独自のスタイルを目指した。
(※だがオシムは病発で短命に終わった)
アジアでは、日本以外でも欧州人監督が成功している。
ボラ・ミルティノビッチは、異なる5ヵ国を率いてW杯出場を達成した名将である。
アジアでは中国を率いてW杯出場した。
この監督は、4-4-2の布陣で手堅くまとめる。
カオス状態の国に行って秩序を作るのが特徴で、ショート・パスをつなぐスタイルだ。
戦術よりもモチベーターとして有能で、チームを一つにまとめる。
個人に頼らずゾーンディフェンスで守る。
韓国代表やオーストラリア代表を率いたヒディング監督は、勝負師で、相手を研究し、相手に合わせてシステムを変える。
アジアでも中東は、結果を出さないとすぐに監督をクビにする。
そのため短期で結果を出せるモチベーター・タイプでないと、うまく行かない。
このやり方だと、チームの底上げはないので、長期的には強くならない。
アジアだと、どうやっても欧州と戦術のタイムラグが生じてしまう。
昔よりはタイムラグは小さいが。
大事なのは、真似して本場よりも上手く、速く行えるようにすることだ。
そうすれば勝てる。
(2024年7月11&14日、9月28日、10月1日に作成)