(以下は『フットボリスタ 2007年11月14日号』から抜粋)
FIFAが2005年に改訂した『選手のステータスと移籍に関する規程』は、第17条にこうある。
「クラブあるいは選手は、一定の保護期間(満28歳未満の選手は契約締結後3年間、28歳以上は2年間)を経過すれば、一方的に契約を中途解消できる」
この条項を使い、GKのモルガン・デ・サンクティスが契約を解消して、他チームに移籍したのが話題になっている。
サンクティスは2005年にウディネーゼと5年契約を交わした。
それから2年が経ち30歳の彼は、第17条に基づいて契約の中途解消をし、セビージャに移籍したのだ。
サンクティス(実際はセビージャ)は、ウディネーゼに対して違約金を支払うが、その金額は通常の移籍金の半分以下だ。
サンクティスと同じことを他の選手が始めたら、移籍市場は根底から揺らぐだろう。
(以下は『フットボリスタ 2007年11月14日号』から抜粋)
EUでは「ボスマン判決」が出た1995年12月から、クラブと選手の契約交渉において、契約満了すると選手は自由が保障され、契約延長の拒否が可能となった。
EUは、サッカー選手が移籍(転職)する際に移籍金が発生するのを問題視して、1998年にFIFAに対し移籍金の撤廃と移籍の自由化を勧告した。
これを受けてFIFAは2001年に、『選手のステイタスと移籍にする規定』を発表した。
これは、一方的な契約解消を、契約期間内でも認めるものだ。
ただし、契約を一方的に解消した場合、4~6ヵ月の出場停止と、FIFAの算定する違約金の支払いが課せられる。
上記の出場停止は、「満28歳未満で交わした契約は締結してから3年、28歳以上は同2年」が経てば、適用されない。
またFIFAの算定する違約金は、通常の移籍金よりも安い。
つまり、契約してから2~3年経った選手は自主的に退団・移籍ができて、その違約金はあまり高額ではなく、移籍先のクラブが支払えばいいのだ。
この手法だと、クラブは市場価格よりもずっと安く選手を獲得できる。
上述の移籍の仕方は、これまでの慣習をこわすものである。
だから2001年に規定は作られたが、2006年までは誰も行使しなかった。
しかし2006年の夏に、25歳のDF、アンドリュー・ウェブスターが、この移籍の方法を使った。違約金は62万5千ポンド (1.5億円)だった。
2007年夏には、ウディネーゼにいたGKのモルガン・デ・サンクティスが、この方法でセビージャに移籍した。
バルセロナにいるロナウジーニョは、契約したのが2005年なので、2008年夏には3年経ち、一方的に契約解除できる。
違約金は2000万ユーロくらいと見られ、ビッグクラブならば支払える額だ。
ロナウジーニョの年棒は900万ユーロと言われていて、28歳の今が売り時とバルセロナは判断するかもしれない。
(以下は『フットボリスタ 2008年1月16日号』から抜粋)
◎片野道郎、西部謙司、木村浩嗣の対談。
監督の仁義なき移籍について
木村
ファンデ・ラモス監督の移籍は、玉突き状態で監督の移籍を次々と引き起こしましたね。
シーズン中に他のクラブに監督が移籍するというのは、ショッキングでした。
(※ファンデ・ラモスは2007-08シーズン中に、セビージャからトッテナムに移籍した)
西部
ファンデ・ラモスは、完全にカネに転びましたね。
彼は「一生のことを考えれば、この金額のオファーは断われない」と述べました。
クーマン監督も、同じようにシーズン中にバレンシアに引き抜かれました。
片野
これが許されると、一番カネのあるイングランド・リーグが有利になるでしょうね。
木村
今までやらなかったのは、仁義ですよね。
「オファーが来れば契約を一方的に解除できる」というのは、わりと普通に入っている契約条項です。
片野
クラブ側からすれば、シーズン中にやるのは想定してなかった。
今後は「シーズン中には解除できない」という条項が入るでしょう。
他にもイングランドでは、クビになった監督が、1週間後に別のチームで監督になることがある。
一方でイタリアだと、監督の組合の力が強くて、国内では1シーズンに1チームしか指揮できない。
これは多くの人に監督になってもらうためです。
木村
スペインも同じです。
シーズン開幕から1ヵ月でクビになっても、別のチームで働けない。
監督の話題では、チェルシーのモウリーニョ監督の解任が2007年9月にありましたね。
西部
あれは、オーナーの意思で監督のクビが切られる典型例だなと思いました。
木村
レアルマドリードのカペッロ監督の解任も、同じですよね。
西部
結果を出してる監督を、オーナーがクビにするという点では同じです。
モウリーニョの解任は、オーナーのアブラモビッチ以外はみんな「なんで?」と思ったでしょう。
カネさえ持ってれば、どんなに間違った判断も許されることを見せてしまった。
片野
小さいクラブではよくある事だけど、あれだけのビッグクラブでも起きるとは...。
(2024年7月16日、11月22日に作成)