(『南アフリカを知るための62章』から抜粋)
南アフリカでは、中間層以上の住民は、厳重な警備体制をとっている。
大都市のジョハネスバーグは、1980年代後半から治安が極端に悪化し、「世界の犯罪首都」と呼ばれてきた。
南アの2008年の殺人件数は、18148件である。
アメリカの05年の殺人件数は16692件で、南アよりも少ない。
アメリカの人口は南アの7倍だから、件数の多さが分かる。
南アの殺人件数は、日本の46倍である。
凶悪犯罪の発生率は、極めて高い。
2008年の強盗被害件数は、日本は4278件だが、南アは18万件だった。
南アの方が人口は少ないので、発生率は日本の120倍にもなる。
こうした治安情勢なので、犯罪被害の話は日常茶飯事である。
なぜ、犯罪が多発するのか。
その原因は、経済・社会の構造にある。
国民の間の所得格差と、犯罪率は深い関係にある。
南アのジニ係数は0.65で、毎年ブラジルなどと世界一を争っている。
殺人事件の発生率が高い国は、いずれも所得格差が大きい。
とはいえ、人は所得格差だけでは犯罪をしない。
南アの場合、アパルトヘイト時代の黒人の抑圧が、人心の荒廃を起こした。
2006年の調査によると、12~22歳の若者のうち、5人に1人が「親から暴力を振るわれる」と回答し、49%が「身近に犯罪者がいる」と答えている。
こうした人心の荒廃の背景には、アパルトヘイト体制によって、黒人達の家族や共同体が壊滅させられた事がある。
他には、流入してくる外国人犯罪組織の存在もある。
南アは、北米・西欧・東アジアの中間点に位置するため、麻薬取引の中継地点になっている。
警察の能力不足も大きい。
南アでは、大きな事件でない限り、指紋や足跡の採取は行われていない。