(『プーチン 人間的考察』木村汎著から抜粋)
ロシアでは人口1.4億人のうち、わずか110人の大富豪が35%の国富を握っている。
大富豪の大部分は、プーチン政権と強いパイプを持つエネルギー資源の企業のオーナーである。
その代表例がロマン・アブラモビッチである。
ロマン・アブラモビッチは、1966年生まれのユダヤ教徒で、20代の半ばに同じユダヤ教徒の政商ボリス・ベレゾフスキイと知り合った。
アブラモビッチは、ベレゾフスキイにならってエリツィン大統領のファミリーに近づき、政商として成功を収めた。
そしてウラジーミル・プーチンが大統領になると、ベレゾフスキイと違ってひたすら恭順を示し、プーチンとのコネを使ってエネルギー資源の企業を入手した。
アブラモビッチは、石油会社「シブネフチ(シベリア石油)」のオーナーで、アルミニウム会社「ロシア・アルミニウム(略称はルサル)」の共同創業者でもある。
フォーブス誌の長者番付で、アブラモビッチは2001年に初めて名前が現われ、05年になるとミハイル・ホドルコフスキイが転落してアブラモビッチがロシアで1位となった。
アブラモビッチは入手した大金を湯水のごとく消費している。
例えば各国で豪邸を次々と購入し、ロンドン市内にも高級マンションを買った。
ちなみにロンドンは、今や30万人以上のロシア人が居住し、ロシアの成金たちに最も人気のあるスポットがハロッズ百貨店である。
アブラモビッチはロンドン郊外にも邸宅を買ったが、そこはかつてヨルダンのフセイン国王が所有していた。
ちなみに南仏のリゾート地もロシアの富豪が多くの別荘を持ち、「夏はフランス語よりもロシア語のほうがよく聞こえてくる」と言われる。
ニューヨークでも超高級マンションを、2013年に7500万ドルで買った。
ロマン・アブラモビッチは、最初の妻(オリガ)と別れた後、スチュワーデスをしていたイリーナと再婚した。
イリーナとの間に5人の子供をもうけた後、彼女と別れたが、離婚後に支払った慰謝料は3億ドルといわれ、最高額としてギネスブックに登録されたと伝えられている。
その後にアブラモビッチは、16歳年下のジューコバと事実婚の状態で、すでに2人の子供をもうけている。
アブラモビッチはヨット狂としても知られ、所有する「ペロラス号」(116mの船体)は2機のヘリコプターや潜水艇を搭載し、46人の乗務員を雇うなど、豪華客船に近い。
だが彼が最も多くの時間を過ごすのは、実は自家用の航空機の中である。
アブラモビッチは、英国のサッカー・チーム「チェルシー」を買収し、そのオーナーとなった。
ロシアの富豪たちは、所得や利益を国外に蓄えたがる。
だから世界レベルの金融危機が起きると、最大の被害者はロシア人というケースがある。
2013年のキプロスでの金融危機は、その好例だった。
最後におまけとして、ロシアの大富豪をもう1人あげる。
モスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニンは、2人の娘に豪勢なマンションを買い与えている。
まず長女のアンナは、25歳の誕生日祝いと称して、ペテルブルク市内に推定350万ドルマンションを与えられた。
この価格は、ソビャーニンが公務員として過去10年間で得た収入の4倍以上にあたるが、どこからそのカネを引き出したのか。
次女のオリガも、モスクワに527万ドルのマンションを与えられた。
このマンションは、プーチン政権の高官たちが住む所である。
(2021年5月28~29日に作成)