(『プーチン 人間的考察』木村汎著から抜粋)
ロシアでは、いったん最高指導者のポストに座ると、死ぬまでそのポストに留まることが多い。
晩年のブレジネフ共産党書記長の仕事ぶりについて、ボリス・エリツィンは著書『告白』でこう述べている。
「当時のブレジネフの仕事ぶりを知っていた私は、彼の名前で、あとは決裁を下すばかりにした文章を用意した。
金・土・日とと別荘ですごすのが慣例のブレジネフは、木曜にはすべての仕事を早く済まそうとする。
私の言葉通りにブレジネフは書き、署名して、その文章を私に渡した。
晩年のブレジネフは、自分が何をし、何に署名しているか、ほとんど分かっていなかったと思う。
だから全ての権力は、取り巻きの手に握られていた。」
この無責任な仕事ぶりは、皮肉なことに晩年のボリス・エリツィン大統領にも当てはまった。
ロシアの最高指導者の多くは、なぜ晩年になっても自発的に辞職しないのだろうか。
まず考えられるのは、権力への執着だろう。
側近たちも、ボスが退任するのを欲しない。
ボスを失うと自分も失職するからだ。
最も重要な理由は、ロシアでは最高指導者が安全に引退する道が無いことである。
トップの座から降りると、後継者によって批判・弾劾される可能性が高い。
フルシチョフの行った「スターリン批判」は典型例である。
もしプーチンが引退したら、在職中の汚職などで刑事訴追のケースすら考えられる。
プーチンに恨みを抱く人間は、枚挙にいとまがない。
アンドレイ・イラリオーノフは、一時はプーチン大統領の経済顧問をした人だが、2011年春にこう述べている。
「プーチンにとって最も切実な問題は、個人的な安全保障である」
2011年9月26日に元ロシア下院議員のマルク・フェイギンは、ブログにこう書いた。
「プーチンとその取り巻きにとっては、個人的な安全保障が最大の関心事で、プーチンが大統領に復帰することこそが、安全保障できる唯一の道なのだ。(※当時のプーチンは首相である)」
(2021年5月29日に作成)