プーチンの統治方法の特徴①
マフィアのボスに似ている

(『プーチン 人間的考察』木村汎著から抜粋)

プーチン下のロシアは、憲法があり選挙が行われ、不十分とはいえ出版の自由もある。

だからといって民主主義の諸原則が守られ機能しているわけではない。

経済的には、一種の国家資本主義である。

エネルギー部門など基幹産業は再国有化し、国家の厳重な管理下においた。

民間企業には上からの指導を行い、ウラジーミル・プーチンはロシア式の株式会社の社長といえる。

エネルギー資源の売却で得た莫大な利益は、一部のエリートが独占しており、プーチンはその体制の総支配人だ。

外交では、欧米との協調と反発の2要素がある。

現在のロシアでは、国章は帝政期のものが復帰し、国歌のメロディはソビエト期のまま、国旗は新しい三色旗になっている。

これはプーチンのロシアが「ハイブリッドな存在であること」を象徴している。

プーチン体制は、19世紀(帝政期)、20世紀(ソビエト期)、21世紀(現代)の要素を混在させている。

さらに私は、アリョーナ・レーデネバらが唱える「二重構造論」を採用したい。

この論では、プーチン統治は「公式」と「非公式」の2つから構成される。

前者は法律などによる運営、後者は黙契や人的ネットワーク(コネ)による運営を指す。

非公式な運営が法律よりも重要と見なされるのは、帝政ロシア以来の伝統である。

例えばソビエト時代でも、市民は家庭菜園の副業が許されていたし、闇商人が黙認されていた。
それによって計画経済は維持可能になっていた。

ソ連時代において、非公式の経済活動がGDPに占める割合は、15~25%と推定される。

ソ連の時は、非公式のシステムはあくまで戦術的な譲歩だった。例外にすぎないと見なされていた。

ところがプーチン統治では、この種のイデオロギー的な制約はない。
そのためソビエト期に比べて非公式な部分が増え、大手を振って歩くようになった。

プーチン統治は「市場経済の実践」を大義名分にしており、多くの富を得ようとする貪欲さが肯定され、そのために贈収賄などの不正が増加している。

プーチン統治の第1の特徴は、『文字で書かれていないことが重要な役割を演じること』だ。

この事を示す好例は、2008年~12年におけるメドベージェフ大統領とプーチン首相の関係だろう。

ロシア憲法では大統領の方が上にいるが、現実の力関係ではプーチンが上だった。

メドベージェフは、事実上はプーチンの部下だった。
そして最後にはプーチンに大統領職を譲り、首相ポストへの降格に同意した。

プーチン・システムのゲームのルールは、どこにも書き記されていない。

権力グループに入った新参者は、隠された意味を解読し、ルールが何であるかを理解せねばならない。
それに成功すればグループ内に留まれるし、失敗すればグループから排除される。

このシステムについて、ゴッドファーザーの世界(マフィアの世界)と同じとする者もいる。

プーチンはKGBに憧れて、そこで働いた人物である。
世界を陰の部分から支配するやり方を好む人物なのだ。

プーチン統治の第2の特徴は、『非公式なカネやコネのほうが大きな役割をすること』だ。

個人の能力よりも、実力者との繋がりのほうが大事なのである。

オレグ・カルーギン(元KGB大佐)

「今日のロシアには省庁間を分かつ壁はなく、友人(関係)のみが存在する。

法律もなく、個人的な関係だけが存在する。」

プーチンの経済体制は「国家資本主義」と「特許権の資本主義」といっていい。

民間企業は何十という許認可を得る必要があり、コネや袖の下を用いねば埒があかない。

プーチン統治の第3の特徴は、『非公式の内部集団によって運営されていること』だ。

プーチンが「身内」と呼ぶ人々でチームを作っている。

ワリーシイ・ゾーリン

「プーチンは、彼の許へ押し寄せる幹部志願のペテルブルクっ子の中から、自分と同一の考えを持つ者を選んでチームを形成しようとした。

彼は『組織人間』以外の何物でもない。」

この事は、メドベージェフが大統領に指名された時の言葉からも明らかだ。

メドベージェフはこう語った。
「プーチンと一緒にペテルブルクからやってきた人々(チーム)がある。私はこのチームの一員で、彼らから離れることなど夢にも考えられない。」

プーチン・チームの成員を特定するのは難しい。
必ずしもクレムリンで官職に就いているとは限らない。

ボリス・マゾーは自著の中で仮説を提出している。

「プーチンの誕生日パーティに招待される人間が、プーチン・チームのメンバーであると推測して大きくは間違わないのではないか」

プーチンは猜疑心が強く、グループに入れる人間の選択作業に慎重である。

逆に、いったんグループ内に入れた者はめったな事ではチームから追放しない。

この点でも、彼の統治はゴッドファーザーの世界と似ている。

プーチン統治の第4の特徴は、『ボスへの忠誠心の重視』だ。

そもそも彼自身が、エリツィンから忠誠心を評価されて後継者に選ばれた。

能力という点では、プリマコフ(元首相)やルシコフ(モスクワ市長)のほうがプーチンよりも大統領に適格だった。

エリツィン・ファミリーにとっては、プーチンは安全牌に映った。

プーチンは2008年の双頭政権のパートナー選びで(後継者を決める大統領選挙で)、実力者であるが野心家でもあるセルゲイ・イワノフではなく、忠臣のメドベージェフを選んだ。

プーチンは、長期にわたる知り合いだけを信用する。

映画ゴッドファーザーの中で、主人公のドン・コルレオーネはこんなセリフを吐いている。

「友情が全てなんだ。
友情に比べれば才能なんて屁のようなものだ。

友情は家族みたいなもので、国家よりも大切なんだ。」

プーチン統治の第5の特徴は、『政策の決定方法がユニークなこと』だ。

彼は、情報を身内(シロビキ=治安関係省庁の人間)から受けようとし、その他の人間を信用しない。

現ロシアで政策に関与するには、プーチンと口頭でのコミュニケーション・ネットワークを持っているかが重要である。

ホットラインを通じてプーチンと結ばれている人間は、40~50人と推測される。

プーチン統治の第6の特徴は、『ボスであるプーチンの決めることが、ゲームのルールになる』だ。

アンドレイ・コレスニコフ(プーチンに接近を許されている数少ないジャーナリスト)は言う

「プーチンは、何がどの程度まで許されるかを直感的に決定する。

(そのような意味で)彼は物差し、もしくは温度計に他ならない。」

エフィゲニイ・ミンチェンコの研究グループは、次のような分析をしている。

「ロシア権力は、派閥やグループから成る混合体である。

彼らは資源をめぐって競争するが、プーチンは調停者となっている。」

プーチンが担っている調停者としての役割は、かつてのスターリンと基本的に同じだ。

とすると、プーチンの権限がスターリンのそれに近くなっていてもおかしくない。

グレプ・パブロフスキイ(政治評論家)

「プーチンの意志は、超法規的な権威をもっている」

(2017年4月7日に作成)


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