(『プーチン 人間的考察』木村汎著から抜粋)
ウラジーミル・プーチンの研究は、資料上の制約が大きい。
彼はKGBの出身で、個人情報は秘密のベールに閉ざされている。
プーチンがエリツィン大統領の後継者に選ばれた時、全世界で「プーチンって誰?」との問いが飛び交った。
それ位に無名の人間だっだ。
彼が謎の人物になっている理由の1つは、自分について多くを語らないからだ。
幼馴染みのセルゲイ・ロルドゥーキンは、プーチンのこんなエピソードを紹介している。
「彼が腕を折った時も、その事について一切語ろうとしなかった」
この性癖は、KGBの訓練で助長されたと見ていいだろう。
プーチンの公式伝記『第一人者から』は、エリツィンがプーチンを後継者に指名したあと、プーチンが大統領選に当選するためにキャンペーン用として急いで編集・刊行したものだ。
刊行から15年たったが、プーチンが秘密主義なのもあり、依然として彼についての主要な情報源となっている。
注意すべきなのは、『第一人者から』は書いていない事が多いことである。
例えば、プーチンがKGB職員として派遣されていた東ドイツのドレスデンで、どのような任務をしていたかは一言も触れていない。
ペテルブルク市役所にいた時代に関わった「食糧スキャンダル」についても、同様である。
プーチンの情報が少ないのは、彼の戦術・演出である。
彼は初めて大統領選に出馬した2000年初め、己の政治綱領を発表することすらしなかった。
彼は、民主的な選挙をする気持ちがない点は一貫している。
この行動には彼独特の計算があるようだ。
つまり、『己の主義や立場を明らかにしないほうが、ある種のメリットを入手できる。有権者たちは私に各様の願望を投影できる』と踏んでいるのではないか。
ゲオールギイ・サターロフ(エリツィン大統領のアドバイザーだった人)
「プーチンは無色で、多くのロシア人に好かれる理由はその点にある」
(2017年4月7日に作成)