(『ワールドWave』から抜粋)
以下は、石川一洋さんの話である。
先月の13日に(2013年2月13日に)、クレムリンでエネルギー戦略の重要会議が開かれた。
そこでプーチン大統領は、LNG(液化天然ガス)が今後の天然ガス取引の中心になるとし、『LNG輸出の自由化』を決定した。
ウラジーミル・プーチン大統領のコメント
「LNG工場の建設には、5~10年は必要だ。巨額の費用もかかる。
LNG発展のために、条件を整えなければならない。
その中には、LNG輸出の自由化も含まれる。」
石川一洋
これまでロシアは、国営のガス会社「ガスプロム」が、天然ガスの輸出を独占していました。
これを決めたのは、プーチンでした。
プーチンは、エリツィン時代にエネルギー市場を握っていた財閥の力をそぎ、天然ガス輸出の国家独占体制を敷いたのです。
司会者
なぜ今、自由化をしようとしているのですか?
石川
一つは、世界の天然ガス市場が大きく変化しているからです。
LNGの需要が毎年20%以上も増加し、パイプラインからLNGへとガス市場が変化してきています。
もう一つは、アメリカのシェールガスが、4~5年後には世界市場に出回ろうとしているからです。
ロシアの現状は、ほとんどがパイプラインを通じたヨーロッパ向けの輸出で、LNGによるガス輸出は4%にも満たないのです。
ロシアには「このままでは世界のLNG市場に入り込めなくなる」という危機感があります。
国内でも、ガスプロムの独占に対する反発が強まってきています。
プーチンにガス輸出の自由化を強く進言したのは、国営石油会社「ロスネフチ」のセチン社長でした。
セチンは治安機関の出身で、プーチンの側近です。
セチンは、「エネルギー産業こそが、ロシアの支えだ」という信念を持っています。
セチン氏は先日に訪日し、日本のエネルギー企業の幹部と面会しました。
そして、ロスネフチが米エクソンモービルと共同で構想しているプロジェクト『サハリンからのLNG輸出』に、日本企業の参加を提案しました。
4月末には安倍首相が訪ロする予定ですが、その前にセチンを派遣して、日本の情勢を把握しようとしたのです。
プーチンは、側近の言う事を信頼する人物です。
司会者
具体的には、ロシアはどのようなLNGプロジェクトを考えているのですか?
石川
ロシアは日本に対して、「3つのプロジェクト」を提案しています。
1つ目は、ガスプロムの提案です。
これは、東シベリアのガス田から3000kmの長いパイプラインをウラジオストックまで引いて、そこにLNG工場を建てて輸出する、というものです。
これは国家プロジェクトで、プーチン氏は2017年までに実現すると発表しています。
2つ目は、セチンが持ってきたロスネフチの提案です。
サハリンの油田(ガス田)から、日本に輸出します。
これは経済性は一番あります。
なぜなら、サハリンは日本に近いからです。
3つ目は、独立系のガス会社「ノバテク」の提案です。
これは大きな構想で、北極圏のガス田から北極海航路で船を運航して、LNGを運ぼうとするものです。
これは、経済性が問題になってきます。
ロシアは、3つのプロジェクトを全部やると、日本に言っています。
全てのプロジェクトで、日本との協力を望んでいます。
なぜかと言うと、日本は世界最大の天然ガスの輸入国だからです。
日本は、世界のLNGの4割を買っています。
日本は現在、とても高い値段で天然ガスを購入しています。
アメリカ市場に比べると、5倍近い価格です。
ロシアと交渉して価格を低くするのが、日本にとっては大切です。
ロシアはヨーロッパ市場で苦戦しており、日露両国が満足できる値段は見つかると思います。
○村本のコメント
これはTV番組の特集だったのですが、すごくロシアの現状が分かりました。
ロシアは3つのプロジェクトを提案していますが、明らかに2つ目の提案が良いですね。
日本は、「2つ目のプロジェクトが良いです。これで、まずは行きましょう。」と、はっきりと伝えるのがベストだと思います。
しかし、3つのプロジェクトを全てやろうとするなんて、さすがロシアですねー。
日本人には出来ない発想です。