タイトルイラクの政治状況

(『東京新聞2023年3月20日』から抜粋)

アメリカたち連合軍がイラクに侵攻した、2003年の「イラク戦争」から、今年の3月20日で20年が経過した。

連合軍は、サダム・フセインの政権を倒したが、その後も民主化や経済発展は実現していない。

イラクでは政治の混乱が続き、市民の絶望感は深く、反アメリカの感情は激しい。

イラク政府が2023年の予算案を承認した13日に、首都バグダッドでは市民が雇用拡大のデモを行った。

世界銀行によると、2021年のイラクの失業率は16.2%で、15~24歳の失業率は35.6%に達した。

イラク戦争後は、一部の政治家とその取り巻きに冨が集中し、医療や教育のレベルが著しく低下した。

汚職が横行し、事業登録や選挙出馬に賄賂が要求されている。

市民は、政治家や公務員を「泥棒」と呼んでいる。

無職のラスール・アブルアッバス(42)は、こう話す。

「20年前に戻れたら、アメリカからサダムを守る。

全てはアメリカの侵略から始まった。イラクは壊された。」

アメリカの息子ブッシュ大統領は、フセイン政権が大量破壊兵器を持っていると言って、イラクに侵攻した。

だが、イラクに大量破壊兵器は無かった。

ランド研究所のマイケル・メイザーは、こう話す。

「息子ブッシュのイラク侵攻では、アメリカの議会やメディアはチェック機能を果たさず、誤情報に基づいてイラク戦争が行われた。

この事で、アメリカの信頼性は著しく損なわれた。」

当時の小泉純一郎・政権は、アメリカの要求に応じて、イラク南部のサマワに自衛隊を派遣した。

(※小泉純一郎はこの時、日本で何も議論や相談をせずに、独断でアメリカに軍事支援を約束した。

安倍政権の新安保法制の時も、日本国内で議論することなく、いきなり安倍晋三は訪米中にこの法制の実現を約束してしまった。

彼らアメリカに仕える政治家は、いつもこの手を使い、時には密約もする。
それは戦後史を学ぶと分かる。)

自衛隊はサマワで、復興支援と称して活動した。

だが食堂経営者のバッシャール・ホローは、「アメリカ軍と一緒である限り、侵略者だ」と切り捨てる。

2008年にイラクを訪問した息子ブッシュ大統領に靴を投げつけた、ジャーナリストのモンタゼル・アルザイディは言う。

「自衛隊の派遣は、犯罪であり、大きな過ちだ。

なぜ来たのかという疑問は、今も消えない。」

(『東京新聞2023年3月26日』から抜粋)

首都バグダッドの中心部には、サダム・フセインの政権時代には、巨大なフセイン像が置かれていた。

アメリカが率いる連合軍が2003年に攻め込んできて、バグダッド入りした03年4月9日、カーゼム・アルジャボウリは鉄製ハンマーでフセイン像を壊した。

フセイン政権下で、彼の友人や親戚が処刑されていたからだ。

彼がハンマーをふるう姿は、写真に撮られて、世界中に報じられた。

それから20年が経ったが、アルジャボウリは後悔を口にする。

「カネがあったら、フセイン像を建て直したい。

サダム時代は、汚職が無かった。

国が守られている部分もあった。」

フセイン時代は、処刑や拷問は当たり前だったが、イラク戦争でフセインが居なくなると、今度は政治家と公務員の汚職が一気に広がった。

豊かな石油収入は、国民に還元されず、15~24歳の失業率は35%を超える。

2019年10月に、公共サービスの低下や、高い失業率を改善するため、大規模な反政府デモが行われた。

バグダッドでは治安部隊とデモ隊が衝突し、治安部隊は発砲して、1ヵ月で600人以上が犠牲となった。

この時、輸入業を営むアフマド(40)は、デモ隊の最前列で治安部隊と対峙した。

しかし仲間は次々と逮捕され、アフマドも半年間も刑務所に入れられた。

彼は「これではサダムの時代と同じだ」と憤る。

(『東京新聞2023年3月30日』から抜粋)

いま首都バグダッドに隣接するサドルシティでは、イスラム教シーア派の指導者であるムクタダ・サドル(49)が人気だ。

サダム・フセインの政権時代は、シーア派の国イランと仲が悪かったので、国内のシーア派は弾圧された。

しかしフセイン政権がアメリカ主導の多国籍軍に倒されると、シーア派がイランの支援を受けて、イラク政治の実権を握った。

ムクタダ・サドルは、イランやアメリカという外国勢力の排除を訴えて、支持を集めている。

2021年の議会選挙では、サドルが率いる政党連合が、第一党となった。

宗教色の薄かったフセイン政権が外国軍に打倒されると、人口の6割を占めるシーア派と、3割のスンニ派の宗教対立が激しくなった。

他方で、アメリカ軍は未だにイラクに介入している。

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」を率いるソレイマニと、イラクのシーア派民兵「人民動員隊」の副司令官ムハンディスは、2020年1月にバグダッドで、アメリカ軍のドローン(無人機)に攻撃され、殺害された。

(以下は『東京新聞2023年3月27日』から抜粋)

バグダッド大学の教授であるエフサン・シェマリは、2020年7月に治安機関から「命を狙われています。車を向かわせるから逃げて下さい」との電話をうけた。

この日、彼の親友のヒシャム・ハシミが暗殺された。

シェマリはそのまま半年、身を隠すことになったが、イランが支援する民兵組織に狙われたらしい。

シェマリは、フセイン政権をアメリカ軍たちが倒した時、民主主義の国になると期待した。

しかし、アメリカが持ち込んだ政治は、イラクで機能しなかった。

各政党は民兵組織を擁して、治安は著しく悪化した。

(※この記事では触れていないが、アメリカ軍に占領されたのを嫌うイラク人が大量に出て、アメリカ軍との戦争が始まり、治安が悪化したのが真相である。)

アメリカが仕掛けた2003年のイラク戦争以降、イラクで死亡した民間人は21万人を超える。

アメリカの仕掛けたイラク戦争から20年経つが、イラクには民主主義も自由な言論もなく、武力とカネによる解決が続いている。

南部のサマワで州議会選挙に出馬したバッシャール・ホローは、宗教指導者が「出馬するなら5千万ディナールを払え」と賄賂を要求してきたと語る。

サマワのような地方都市では、地元の部族や宗教指導者が法律よりも強い力を持っている。

ほとんど誰も投票しないのに、発表される投票率は40%を超えて、決まったメンツが当選している。

バッシャール・ホローは、「アメリカは選挙をやっているのを理由に、イラクに民主主義が実現したと言うかもしれないが、こんなものは民主主義ではない」と憤慨している。

(※日本も全く同じなのではないか、と思えてならない。

統一教会などの宗教団体が絡んで不正選挙が行われ、政治家の椅子はカネで買われているのに、民主主義が行われているとのプロパガンダがアメリカの支配下にあるマスメディアから垂れ流されている。
そう思えてならない。)

(2023年5月16~18日に作成)


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