(『惑星地質学』東京大学出版会から抜粋)
月の半径は1737kmで、地球のおよそ4分の1だ。
質量は地球の80分の1しかない。
地震波の観測などから、地殻やマントル、小さい金属核があると推定されている。
月面には、明るい部分と暗い部分がある。
明るい部分は「高地」と呼ばれ、暗い部分は「海」と呼ばれている。
海は、月の裏側にほとんどが分布している。そしてクレーターがほとんど無い。
これに対し高地には、大小さまざまなクレーターがある。
この特徴は、「月の二分性」と呼ばれている。
海の多くは輪郭が円形で、大型クレーターを埋めるかたちで形成されたと推測できる。
海の領域は、玄武岩から構成されている。
玄武岩は、マグマが冷却し固結した黒っぽい火山岩の総称で、かつて月面でも火山活動があったと考えられる。
月の地表の特徴の1つに、クリープ質岩類という岩石グループがある。
この岩石は、カリウムなどの濃度が高い。
クリープ質岩石が分布している地域は、大きな隕石が衝突して、衝撃溶融物が飛び散ったと推定できる。
フラマウロ丘陵は、インブリウム盆地からの放出物が堆積していると考えられている。
月には火山らしき山が、あまり見られない。
だが「ドーム」と呼ばれる、火山と考えられる地形が存在する。
大型のドームの特徴は、形成された後にその上部で何度もマグマを噴出して、山を成長させていることだ。
これは、火山活動が長期にわたった可能性を暗示している。
月の特徴を説明しようとする学説に、マグマオーシャン仮説がある。
マグマの海が月全体を1回おおったという説だ。
しかし、月の表側と裏側の違いがなぜ生じたのかなど、未解決の謎も多い。
1990年代に入ると月探査は、クレメンタインとルナープロスペクターを代表とする全球リモートセンシングの時代になった。
この調査で、月の地殻にも上部と下部の2層構造が存在するらしいと分かった。
その成因は分かっていない。
月の極では、永久影とよばれる季節を通じて全く太陽光線の当たらない領域がある。
ここに水分子が入ると、氷として堆積すると考えられる。
この氷の証拠を最初に得たのは、クレメンタインのレーダー観測である。
月の南極では電波の反射が強く、氷の存在が推定された。(※氷は反射率が高い)
その後、ルナープロスペクターの中性子分光計の観測で、南極と北極に熱外中性子の吸収が確認されて、相当量の水素が存在していると示された。
これにより、「月の極に氷がある」とかなりの研究者が信じるようになってきた。
この氷の起源については、月に衝突した彗星がもたらしたというのが有力な説である。
もし氷が存在するなら、総量は70億トンにも上ると推定されている。
アポロの地震波探査により、月の地殻の厚さは表側が50~60km、裏側で80~100kmと推定されている。
その後に重力場の測定で、さらに複雑な地域差があると明らかになった。
裏側の北半球は、上部地殻が厚い。
裏側の南半球と表側の海が密集している領域は、上部地殻がとても薄い。
ルナープロスペクターのガンマ線分光計の観測では、月の表側、雨の海、嵐の大洋を取り囲む領域は、非常にトリウム濃度が高いと分かった。
(トリウムは放射壊変時にガンマ線を出す)
トリウムは液相濃集元素でもあることから、この領域の地殻はクリープ質岩を主体とすると理解され、「プロセラルム・クリープ・テレーン(PKT)」と呼ばれるようになった。
PKTの面積は月全体の10%を占めるが、このためには月の大部分が溶融する必要がある。
この事からも、マグマオーシャンがかつてあったと考えられる。
月の裏側には、月で最大の隕石衝突でできた盆地がある。
これはサウスポールエイトケン盆地と呼ばれているが、巨大な隕石衝突で上部地殻ははぎ取られたと考えられており、ここを調べれば下部地殻の物質を調べられると期待されている。
1960~70年代に、アメリカとソ連の探査機は月から382kgの試料を持ち帰った。
しかしこの試料は、月面の5%に満たない地域しかカバーしていない。
他方で月から地球に来た隕石は、月面からランダムに飛んできた可能性が高い。
現に、アポロやルナで収集した岩石と異なる特徴のものが多く報告されている。
月隕石は、1979年以降に南極や砂漠で次々と発見され、2007年9月時点で約100個、総重量は34kgとなっている。
月隕石の玄武岩は、すべてチタンの含有量が低い。
これはチタン量の高いのが特徴なアポロ収集の玄武岩とは対照的である。
さらにアポロ・ルナ玄武岩が38~32億年前にできた岩なのに対し、隕石は39~29億年前だ。
月のクレーター年代データから確実に言えるのは、約39~35億年前にかけて急激に小天体の衝突する頻度が減ったことである。
(2016年10月24日に作成)