(『惑星地質学』東京大学出版会から抜粋)
金星は、地球から見ると太陽と月に次ぐ明るさのため、古代から崇められ関心を集めてきた。
初めて望遠鏡で観測したのはガリレオで、1610年のことだった。
金星は、地球に最も近い惑星である。
半径と質量はそれぞれ地球の0.95倍と0.82倍で、平均密度もほぼ同じだ。
そのため、内部構造も地球と同じと推定されている。
その一方で、地球と違う点もある。
海洋が存在せず、固有磁場がなく、衛星もない。
金星でまず目につくのは、全面を覆う厚い雲である。
高度50~70kmに濃硫酸の雲があり、太陽光をよく反射する。
このため、可視光で見るとのっぺらぼうに見える。
雲より下を観測するには、電波などを使うか、探査機を送り込むしかない。
紫外線を使って雲を観測した結果、約4日で金星を1周する高速の風が吹いていると分かった。
気象学の常識を覆すほどの高速風であるため、最初は疑問視されたが、探査機で存在が確認された。
気象学の常識では、地面の速度を超える風は吹かないと考えられていた。
金星では、自転速度の60倍に達する風が吹いている。
このメカニズムの解明を主目標に、日本の探査機計画(VCO計画)が2010年の打ち上げ予定で進められている。
VOC計画の目玉の1つは、近赤外線を使って雲頂より下にある大気を観測することだ。
金星は、地球の100倍の大気をまとっていて、大気圧は92barである。
大気のほとんどは二酸化炭素(96.5%)で、地球大気の主成分である窒素は3.5%にすぎない。
大気中の水蒸気量は30ppmvで、すべてを雨として降らせると星全体を30mmの厚さで覆う水になる。
この水量は、地球の10万分の1だ。
現在は微量しかない水だが、昔はそれなりの量があった。
大気の水素同位体の組成を調べると、重水素がとても多い。
大気中の軽い成分は、エネルギーを与えられると宇宙空間に流出することがある。
水素が流出すると、同位体組成は重い成分が濃集する。
「金星に水が少なく、重水素が多いのは、かつて大量に存在した水が分解され、水素が宇宙空間に流出したため」と、整合的に説明できる。
金星の地表は、ソ連の送り込んだ4機の探査機によって撮影された。
そしていずれの地点も、岩が転がる荒涼とした景色だった。
探査機の分析では、地表の物質は地球の玄武岩に似た組成だ。
地表の平均温度は735K(462℃)もあり、鉛が溶けるほどである。
そのため探査機の寿命は、最長でも2時間7分だった。
この高温は、分厚い大気による温室効果と考えられている。
分厚い大気は熱容量も大きいため、地表温度は昼夜・緯度・季節によらず一定と考えられる。
地表は薄皮のような地殻に覆われていて、その下には厚いマントル層がある。
これにより、地表はさまざまな運動の痕跡がある。
1989年に打ち上げられたNASAの探査機マゼランは、金星を周回しながらレーダーで100mの解像度で地表を撮像し、重力場のデータも取った。
最初のサイクルで地表の84%を撮り、全3サイクル(24ヵ月)で地表の98%を撮った。
一部エリアは複数サイクルで撮ったが、大規模な地表の動きは見られなかった。
マゼランは、高度測定用のアンテナも備えており、高度50mの精度で地形を測定した。
その結果、多様な運動の痕跡があるが、長いこと変動がない事が分かった。
つまり、火山活動などは短期間に集中して起き、その後は大した変動が起きていない。
大型火山の標高は低く、地球よりもマントル上昇流のサイズが小さいのかもしれない。
金星では厚い大気により、小さな隕石は大気中で燃え尽きてしまう。
このため、直径2km以下のクレーターは少ない。
クレーターの総数は940で、5億年ほど前に出来たものと推測される。
金星のテクトニクス研究の鍵は、地表変動の痕跡が「全体に一様に分布していること」である。
5億年ほど前に、一斉に火山が膨大な溶岩を噴出して、現在の平野を形成したと考えられる。
この仮説を『大規模一斉更新説』という。
この時に古いクレーターを消滅させたらしい。
(2016年10月24日に作成)