土星の衛星 タイタン

(『惑星地質学』東京大学出版会から抜粋)

タイタンは、1655年に天文学者ホイヘンスが発見した。

土星の衛星で最大であり、厚い大気をもつ。

タイタンの大きさは半径2600kmで、水星よりも大きく、火星の3分の2もある。

地表での大気圧は、地球の1.5倍だ。

惑星クラスの天体といえる。

タイタンが注目を集めるのは、『地表に液体を湛えていること』と、『活発に生命の分子前駆体が生成され、生命が存在する可能性があるため』だ。

タイタンの大気は、地球と同じく窒素を主とし、そこにはオレンジ色の厚いもやが漂っていて、タイタンは外からは全球がオレンジ色に見える。

もやの層は、地表から700km以上の上空まで広がっている。

このもやを構成する有機物粒子は、大気上空で形成されており、生命の分子前駆体に似た構造の可能性もある。

カッシーニの調査では、大気のもや(有機物分子)は宇宙との境界に近い高度1000km以上まで存在していると分かった。

この事は、高層大気では太陽からの紫外線などにより、活発に窒素とメタンから有機物粒子が生成されていることを示している。

もやがオレンジに見えるのは有機物粒子が紫外線と可視光を吸収するためだ。

したがって、地表から見れば、もやは紫外線を遮断する盾の役割を果たしている。

この働きは、地球のオゾン層と似ている。

オゾン層と違うのは、可視光まで吸収することだ。

その結果、もやの温度は高くなり、反対に地表の温度は下がる。

ホイヘンス着陸機の測定では、成層圏の温度は地表よりも100K近く高い。

タイタンの地表にある液体は、H2Oではない。

地表温度が93K(-180℃)のため、水は凍りついて山や谷を形成している。

地球の水に相当する役割を果たしているのは、メタンである。

極寒のタイタンでは、メタンは液体で存在する。

さらに蒸発して大気に混じり(濃度は2~5%)、凝集して雲となり雨になる。

雨となったメタンは、氷の大地を浸食し川となって流れ、再び蒸発して大気に供給される。

タイタンでは、メタンの循環が起きていると考えられている。

ホイヘンス着陸機が降下中に撮影した地表には、地球そっくりの河川地形が写し出されていた。

さらに大気温度のデータから、着陸機はメタンの霧雨を通過したとみられる。

地表画像には、氷の丸石が多く写っていた。
この丸石は、地球の河原や河底の石によく似ている。

着陸機によって地面が温められると、地面からメタンが染み出てきた事から、着陸地点はメタンの湿地であったと推測される。

カッシーニ探査機の画像では、液体をたたえた湖も発見されている。

このメタンの湖は、北半球の高緯度地域に多い。最大のものは幅300kmにも及ぶ。

湖に流れ込む何本もの川もある。

赤道域の画像では、砂漠の存在も確認された。

砂漠を構成するのは1mm以下の氷の粒で、風で運ばれて砂丘をつくっている。

この事は、赤道域が乾燥していることを示している。

上記の事実は、タイタンは活発な物質循環や気候システムがあることを意味する。

タイタンは、地球以外で初めて物質循環が見つかった天体だ。

南極地域では湖は1つしか見つかっておらず、活発なメタン蒸発を示す大規模な雲が発生している。

南北の気候の違いは何によって生じているのだろうか。

土星は30年で太陽を1周するから、タイタンの季節変化は30年周期となる。

カッシーニが調査した時期はタイタンの北半球は冬、南半球は夏にあたる。
暖かい南極でメタンが蒸発し、雲となって北極に運ばれそこで雨となり湖となったのだ。

タイタンのメタンと地球の水には、物質循環の他にもう1つ共通点がある。

どちらも温室効果により湿潤な地表環境を維持しているのだ。

地球における温室効果の中心は、水蒸気である。

もし水蒸気による温室効果が無かったら、気温は255K(-18℃)にある氷の惑星になってしまう。

タイタンの場合、メタンとメタンから生成される水素によって、地表は20Kも暖められている。

メタンが無くなれば大気中の窒素も凍りつき、薄い大気をもつありふれた氷衛星になる。

大気中のメタンは、太陽からの紫外線などで絶えず分解されている。

大気化学によると、タイタンのメタンはあと1000万年でなくなると見積もられている。

新たなメタンの供給源として、低温火山などによる地下メタンの放出を挙げる研究者がいる。

カッシーニのレーダー画像では、火山の火口のような地形が見つかっている。

また南半球の中緯度地域では、横に伸びた筋状の雲が写された。
ここには低温火山があるのかもしれない。

タイタンには生命が存在するのだろうか?

地球には、メタン菌という二酸化炭素と水からメタンを生成する菌がいる。

タイタンにはメタンの分解で生じるアセチレンと水素が豊富に存在するので、それらを栄養とするメタン菌がいるとの説もある。

さらに大気のもやを構成する有機物粒子には、生命の分子前駆体が含まれている可能性がある。

(2017年1月16日に作成)


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