子供の頃の思い出⑦
焚き火・番外編①

H君との素敵な焚き火を経験した私は、すっかり焚き火にハマッてしまいました。

それなのに、焚き火を開催しているお寺は、「来年の秋まで休業します」とのつれない態度を見せています。

(これについては、本編に書きました)

私は、翌年の秋まで待とうとしたのですが、小学3年生でまだ忍耐力がなかったために、徐々にイライラしてきました。

それと同時に、焚き火の事を考えているうちに、「焚き火は凄く面白いのに、学校の皆がそれを知らない。焚き火を皆に教えてあげたい」との情熱も、もたげてきました。

思考を巡らしたすえに、1週間くらい経つ頃に、『仲間を誘って、焚き火を自分たちでやればいいのではないか』と思い至りました。

こうすれば、自分も焚き火が出来るし、焚き火の啓蒙活動もできる。正に一石二鳥です。

素晴らしいアイディアを発見したと考えた私は、さっそく『誘う仲間の選定作業』に入りました。

クラスメイト(H君ら)をまず第一に考えたのですが、H君は大人しい性格なので自分たちだけで焚き火をするのには反対すると思われたし、元気のいい連中を誘うと暴走しだして事が大きくなると思いました。

で、誰にしようかとさらに考えた結果、『学童クラブ(学童保育)の仲間たち』に目が行きました。

私の通う学童クラブでは、小学1~3年生が対象者になっていましたが、3年生はほとんどおらず(私を含めて男子は4人)、私がリーダーとなっていました。

私はリーダーとして、男子の全員と幅広く付き合っていたので、誰でも誘える状態です。

そこで、学童クラブ内での選定作業に着手しました。

私以外の3年生は、全員がインドア派で、焚き火に興味を示す連中ではありません。

大人しい奴ばかりなので、へたに誘うと「危ないよ」と止められてしまうし、学童の先生に報告される可能性すらありました。

そこで私は、当時はしょっちゅう休日に遊んでいた、弟、Y君、A君という、2年生の3人にターゲットを絞りました。

Y君とA君は、私の家の近くに住んでおり、当時は最も頻繁に遊んでいる友達の一人でした。

そうして彼らは、普通の子供よりはチャレンジ心がありつつ、根は真面目で大人しい奴らでした。

私は、「彼らなら焚き火に興味を示しそうだし、後輩なので暴走した時に止めるのも容易だろう」と判断したのです。

私は、焚き火のリスク(火事の危険性)を認識していたし、自らの体験から「焚き火はとても面白いので、自制心の無い奴だと暴走する」と感じていました。

綿密な選定作業を終えた私は、いたく満足しました。

そして、さっそく3人に声を掛けました。

私は学童クラブの後輩3人に、先輩らしい威厳をかもしつつ、真面目くさった顔つきで切り出しました。

「お前ら、焚き火をした事があるか?」

すると3人は顔を見合わせて、「いや、まだ無い」と、やや残念そうな顔つきで答えました。

私は予想通りの答えと反応に満足し、内心では(やはりそうか。くっくっく、かわいい後輩たちじゃのうー)と嬉しくなりました。

嬉しさで一杯だったのですが、それを出すと先輩の威厳が損なわれる気がしたので、我慢しました。

そして顔の表情は崩さずに、真面目な後輩思いのそぶりをしつつ、諭すような口調で、こう言いました。

「いいか。焚き火というのは、とても面白いものなんだ。

 それをやらないなんて、もったいないぞ。

 よし、分かった。俺が教えてやる。

 今度の日曜日に、俺の家の前に集合だ。」

学校では「焚き火は危ない、うかつにその世界に入ってはいけない」と指導していたので、3人は少し驚いたようでした。

でもすぐに、「分かった。楽しみだなあー」と意欲を見せてきました。

「焚き火に必要なものは?」と訊かれたので、「マッチかライターだ。団扇があれば、さらに良い」と答えました。

「俺んちは、ライターの持ち出しは無理だな」、「俺んちなら、持ち出せると思う」などと話し合いを進めて、集合時間も決めました。

そうして、日曜日になりました。

予定通りに4人で集合しました。

ライターと団扇もしっかりと用意できました。

で、『どこで焚き火をするか』が問題となりました。

私は当然ながら、どこで焚き火をするかについて、すでに考えを巡らしていました。

しかし残念な事に、適当な場所を思いつかなかったのです。

ばれないためには人が容易に来ない場所の方がいいのですが、私はそういう場所に詳しくありませんでした。

当時の私は、人気の無い場所にはなるべく行かないように、気を付けて暮らしていました。

というのも、そういう場所では小学生を狙ったカツアゲや痴漢の被害が報告されていたからです。

小学3年生なので、まだ行動範囲は広くないし、人気のない場所にも詳しくありません。

そうして、初めての場所で焚き火をする勇気もありません。

自分が行った事のある場所で、なおかつ人目を忍んで焚き火をできる場所を、一生懸命に思い浮かべようとしました。

しかし、ついに実現しないままに日曜日を迎えたのです。

仕方がないので、全員が集合した時点で、「どこで焚き火をしたらいいと思うか」と皆に相談しました。

そうして意見を聞くと、『私の家から1分の所にある公園』が有力視されました。

その公園は、私たちの行きつけの場所であり、庭のような存在でした。

私は、あまりに近場なのでやや失望したのですが、他にアイディアもないし、OKしました。

そうして私たちは、その公園に向かったのです。

実は、その公園には私たちの「秘密基地」がありました。

この公園は、サッカーグラウンドの半面ほどの大きさの原っぱを、特に整地する事もなくそのまま公園にしたものです。

公園の半分くらいは高さが1~1.5mくらいの雑草に覆われており、残りの半分は雑草を刈ってブランコなどを置いていました。

整地してないため地面はボコボコだし、大して面白い遊具もないため、いつも子供がおらず、がら空き状態でした。

そこで私たち「学童クラブ4人衆」は、自分たちだけの基地を作っていたのです。

「秘密基地」といっても、たいしたものではありません。

雑草に覆われたエリアの中に入って、直径1mほどの広さで地面の雑草を引っこ抜き、平地を作りました。

そこに、拾ってきた面白そうなゴミを集めたり、木の板を置いて雨よけにしたり、読み終えた少年ジャンプを置いたりしていた程度です。

公園内にある直径1mのスペースでしたが、周りが1~1.5mの雑草のため、小学生の低学年ならば外からは見えません。

そのため、大人の目を逃れる事ができました。

私たちは、「秘密基地で焚き火をやろう」という事に決定しました。

私たちは、基地にあった物をどかして、そこに枯れ草・枯れ枝を配置しました。

枯れ草・枯れ枝は、そこいらを見回って調達しました。

ライターで火を付けると、さっそく燃え始めました。

私以外の3人は、初めての焚き火に大興奮で、大変な喜びようです。

私はそれを見ながら、(よしよし、やはりその反応か。焚き火の素晴らしさを分かってもらえたようだな。)と、深く満足しました。

小心者のA君だけは、喜びながらも「見つからないかなあ」と心配していました。

私も見つかるかどうかが気になって、30秒ごとに周りをキョロキョロと見渡して、誰かが現れないかをチェックし続けました。

自分たちだけで焚き火をするのは初陣だったし、隠れて行う焚き火だったので、火も弱く保ったし、早めに切り上げました。

で、10分~15分くらいで終えました。

やっている間は、「もし見つかったら怒られるぞ」との恐怖と、「やっぱり焚き火は最高だな」との恍惚感が、交錯していました。

大人から隠れて何かを行う背徳的なワクワク感は、小学生ならではの感覚でしょう。

中学生や高校生になると、もっと反抗心が生まれてきて罪悪感が薄れるし、ばれないように行う智恵もついてきます。

私は焚き火をしている間、H君から教わった息を吹きかけて火力をアップするテクニックや、団扇であおいで火力をアップするテクニックを、3人に伝授しました。

予想通り3人は、とても興味深く拝聴し、そのテクニックをさっそく使っておおいに楽しみました。

私はそんな3人を見て、(俺は学童クラブの先輩として、立派に後輩の育成しているぞ)と感じ、深い満足感を覚えました。

無事に終えると、3人は大満足の表情で、特にY君は「また、やりたい」と強く催促するのでした。

それは、正に私の望んでいた展開です。

私は、自分と同じ情熱を持ってくれた事に感動すらしつつ、愛情あふれる笑みをうかべながら、

「分かった。またやろう。

 今度の休日に、また集まろう。」

 と言うのでした。

こうして、2回目の焚き火をする事になり、さらなる展開を見せる事になります。

それは、次回にお話しましょう。

(続きはこちらです)

(2014年4月7日、6月4日に作成)


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