マイルス・デイビスの「コレクターズ・アイテムズ」①

『私の愛するジャズ・アルバム』のページに、ついに帝王マイルス・デイビスが登場です。

マイルスは「ジャズ界の帝王」と呼ばれていたほど、傑作を多く創り、キャリアも長いです。

彼のアルバムは、正式に出たものだけでも70枚くらいあると思います。
海賊版を含めると、とんでもない数になります。

彼は1945年頃~1990年頃までと、半世紀近くジャズの第一線で活躍しましたが、
私は『1950年代のマイルス』が好きです。

なので、その頃の作品を中心にして、紹介していく事になります。

今回取り上げる「コレクターズ・アイテムズ」は、1953年と56年に録音された演奏が、カップリングされて収録されています。

このアルバムは、とにかく53年の方の演奏の凄さに尽きます。

正直言って、56年の方の演奏は駄演です。

LPだと53年の演奏がA面に、56年の演奏がB面に入っていますが、私はいつもA面しか聴きません。

56年の方も、参加メンバーはいいんですけどねー。
でも演奏にまとまりがなく、何よりマイルスのプレイに気持ちが入っていません。

ここでは、56年の演奏は捨てて、53年の演奏のみを紹介します。

まず録音データを紹介しましょう。

録音日は1953年1月30日。 参加メンバーは次の通りです。

マイルス・デイビス(tp)  ソニー・ロリンズ(ts)

チャーリー・パーカー(ts)  ウォルター・ビショップ(p)

パーシー・ヒース(b)  フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)

これを見た人は、「チャーリー・チャンって誰? 聞いた事のない名前だなー」と思うでしょう。
実はこの人物は、チャーリー・パーカーです!

パーカーは、レコード会社ヴァーブと専属契約をしていたため、他のレコード会社では
録音できない状態でした。
しかし、彼はそんな事に縛られるような人物ではありません。

ここでは「バレないために」、偽名を使い、楽器もいつものアルトサックスからテナーサックスに持ち替えています。

でも、演奏を聴けば、すぐにパーカーだと分かります。

彼のフレーズやリズム感は、他の誰とも違うもので、知識のある人が聴けばすぐに分かります。
つまり、バレバレなのです。

「聴いたらすぐにバレるだろうが、気にしないでおこうぜ」という適当な感じが、ジャズ・ミュージシャンらしくて、実にいいですねー。

この録音の参加メンバーの豪華さは、ハンパじゃないです。

ジャズの長い歴史の中でも、ここまで豪華なのはなかなか無いですよ!
なにしろ、マイルス、パーカー、ロリンズの巨匠3人が揃っているのですから。

単に豪華なだけじゃなく、演奏の出来もすばらしいです。

この録音セッションには、2つのエピソードがあり、実に面白いので、長くなりますが紹介しましょう。

まず、この日はパーカーの機嫌が、とても悪かったのです。

マイルスの自伝に書いてありますが、パーカーは非協力的で、まともに演奏しようとせず、何と酒をがぶ飲みして寝込んでしまいました。

パーカーにしてみると、かつて自分のバンドに所属し自分のバンドで名を挙げたマイルスに、あれこれと指示をされるのがプライドに触ったようです。

「弟子の前でへそを曲げる師匠」といったところでしょうか。

怒ったマイルスは、「もうこのセッションは無理だ」と諦めて、楽器をしまい始めました。

マイルスの自伝では言及されていませんが、共演者たちがこの時にどういう表情をしていたのかが、興味深いですね。
マイルスの性格を考えると、その時の録音スタジオにはとてつもない緊迫感があったと想像されます。

そんな最悪の状況なのに、起きてきたパーカーは「何をやっているんだマイルス。さあ一緒に演奏をしよう。」と何事もなかったかのように言いました。

一眠りして、機嫌が良くなったのですかねー。

普通だったら、「バカやろう! お前が協力しないから帰ろうとしているんだろ!」と怒る場面です。

しかし、パーカーと親しい人々は『パーカーは常識では測れない、彼に常識は通用しない』とよく知っていますから、マイルスはあっさりとパーカーに賛成しました。

たぶん他の男が同じ行為をしたら、マイルスの鉄拳が顔にめりこんでいたでしょう。

こうして、皆が一丸となり、素晴らしい演奏が後世に遺されたのです。

もう一つは、パーカーとロリンズのエピソードです。

ロリンズを始めとして、この頃の若手のサックス奏者は皆、『パーカーに憧れて、パーカーの演奏を目指して』努力していました。

ロリンズにとってパーカーは、「神様・憧れのヒーロー」だったのです。

パーカーは、ジャンキー(麻薬中毒者)として有名でした。

彼は自分が麻薬中毒者である事を、「恥ずかしい情けないことだ」と考えていたのですが、多くの後輩ミュージシャンはそんな事は知らず、パーカーに憧れて麻薬に手を出していました。

ロリンズも、「パーカーは麻薬を愛好している」と思っていました。

ロリンズは、パーカーとの共演に大喜びでした。

そして録音の合間に、パーカーへの敬意と仲間意識を示すために、『パーカーの目の前で、これみよがしに麻薬を使用』しました。
褒めてもらおうとしたのです。

それなのにパーカーは、ロリンズにとって予想外の反応をします。
パーカーは激怒しました。

「君のような有能で将来性のあるミュージシャンが、麻薬を使うなんて、何を考えているんだ!」と、激しく叱責したのです。

これにショックを受けたロリンズは、翌年には麻薬を絶つために、一時的に引退をして、更生施設に入るのです。

二つのエピソードを見比べると、パーカーの態度が180度違います。
一つは我儘でどうしようもない姿、もう一つは後輩を思いやる真摯な姿です。

「どっちが本当のパーカーなんだ?」と思ってしまいますが、この複雑さ・人間臭さがパーカーなんですよねー。

彼は本質的には、とても温かい人です。
それは、彼のエピソードを知っていくと分かるし、何よりも演奏を聴けば分かります。

マイルスのアルバムを紹介するはずなのに、パーカーの話が中心になってしまいました。

後半では、演奏についての解説をしていきます。

(続きはこちらです)

(2013年3月18日に作成)


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