(『CIA秘録』ティム・ワイナー著から抜粋)
1948年3月8日に、ベルリン占領軍のアメリカ側指揮官を務めるクレイ将軍は、「ソ連側からいつ攻撃があってもおかしくない」との電報を出した。
CIAのベルリン支局は「攻撃が差し迫っている兆候はない」と保証したが、誰もそれに耳を貸さなかった。
アメリカ政府は恐慌をきたし、翌日にはトルーマン大統領は「ソ連に対抗するための大掛かりな事業を直ちに承認してくれ」と議会に要請した。
そして、『マーシャル・プラン』として知られるようになる計画が、決定した。
この計画は、19の首都(16がヨーロッパ、3つがアジア)で、アメリカの作った青写真に基づく再建の支援をするものである。
ジョージ・ケナンとジェームズ・フォレスタルは、計画の作成に深く関わった。
アレン・ダレスも、コンサルタントとして加わった。
この3人は、マーシャル・プランに追加条項をもぐり込ませた。
この追加条項により、CIAに巨額なカネが回される事になった。
マーシャル・プランでは、5年間にわたって137億ドルの予算が組まれたが、このうち5%(5年の合計で6億8500万ドル)がCIAに供された。
この事実は、冷戦が終わってかなり経つまで、秘密にされていた。
この秘密工作により、CIAは足のつかないカネを確保できた。
ジョージ・ケナンは1948年5月4日の秘密文書の中で、「政治戦争の開始」を宣言し、世界的に展開する秘密機関の設立を促した。
彼は、「マーシャル・プラン、トルーマン・ドクトリン、CIAの秘密作戦は、スターリンに対抗する大構想の一環だ」と主張した。
CIAがマーシャル・プランから吸い上げたカネは、高名な市民をトップに据えた隠れ蓑ネットワーク作りに充てられた。
ソ連もヨーロッパ各地に、出版社や学生団体や労働組合を隠れ蓑にした組織を持っていた。
CIAの秘密工作部門「OPC」のトップに任命されたフランク・ウィズナーは、アル・ウルマーをアテネに派遣した。
ウルマーは、CIAのアテネ支局長となり、ギリシャの軍人などに秘密の支援を与え始めた。
ヨーロッパ全体で、政治家・軍人・労働組合のボス・宗教組織などが、カネを求めてCIAにむらがっていた。
秘密工作にあたる支局長たちは、現金を必要とした。
1948年11月半ばに、ウィズナーはマーシャル・プランの責任者であるアベレル・ハリマンと、この問題を協議した。
ハリマンは、「必要なだけ、マーシャル・プランの財布に手を突っ込んでいい」と約束した。
ウィズナーはワシントンに行き、マーシャル・プランの最高責任者であるリチャード・ビッセルに会った。
ビッセルは、こう回想する。
「ウィズナーは、私の仲間の1人だった。
カネの使い道を追及したところ、明かすわけにはいかないと彼は説明した。」
ビッセルは10年後には、CIAの秘密工作の仕事を引き継ぐことになる。
フランク・ウィズナーは、フランスとイタリアで労働組合に対する共産主義の影響を、マーシャル・プランからのカネで殺ぐことを提案した。
この作戦は、ジョージ・ケナンが承認した。
そしてウィズナーは、1948年の後半に、元アメリカ共産党の委員長ジェイ・ラブストーンと、アービング・ブラウンを呼んだ。
2人は、熱心な反共主義者に転向しており、ラブストーンは25年もCIAに奉仕した。
2人は、CIAから得た資産を、キリスト教民主党やカトリック教会に後押しされている労働団体に渡した。
マルセイユやナポリの港湾労働組合にも賄賂は渡され、アメリカの武器や軍事物資は無事に荷揚げされた。
CIAのカネは、コルシカ島マフィアにも渡された。
労働団体に賄賂を使うパイクスタッフ作戦やラルゴ作戦については、1948年10月付のCIA文書に、ケナンの承認署名と共に記録されている。
ビクター・ルーサーは、こう語る。
「マーシャル・プランの初期に、共産主義勢力が海外からの援助を拒むストライキを呼びかけると、スト破りが必要になった。
スト破りには、暴力を使う連中の力も借り、コルシカ・マフィアを頼りにした。」
コルシカ・マフィアへの支払いを担当していた、ポール・サクワはこう言う。
「コルシカ・マフィアの親分ピエール・フェリ・ピザニに対する支払いは、マーシャル・プランが終了した1953年に打ち切った。
ピザニはマルセイユ経由で入る麻薬密輸に関わっており、我々のカネを必要としなくなっていた。」
(2015年1月21日に作成)
(『エリア51』アニー・ジェイコブセン著から抜粋)
1951年のある夕方。(※この日付は間違いの可能性がある)
CIA局員のリチャード・ビッセルが自宅でくつろいでいると、1人の男が訪ねてきた。
その男はフランク・ウィズナーで、CIAの高官だった。
当時のビッセルは、マーシャル・プランの財務管理者で、金の使途を決める立場にあった。
フランク・ウィズナーは、CIAの「政策調整局」という機関のトップだった。
この機関こそ、CIAの極秘作戦と準軍事作戦を行う局だった。
ウィズナーは言った。
「政策調整局はカネを必要としている。
マーシャル・プランの資金の一部を回してほしい。
この件は君の上司のアヴェレル・ハリマンも了承している。」
ビッセルは承諾し、資金の一部を回した。
(2019年2月3日に作成)