(『ケネディ暗殺』ロバート・モロー著から抜粋)
私は、マーシャル・ディッグズの自宅で、マフィアのトーマス・ルケーゼとCIA幹部のトレーシー・バーンズを紹介された。
その数日後に、ディッグズからまた電話があり、彼の自宅へ行った。
やがてピッグズ湾侵攻として知られる事件に直面するとは、この時は知る由もなかった。
ディッグズ邸に着くと、車で溢れかえっていた。
家の中には亡命キューバ人がたくさん居て、エラディオ・デル・バレという男もいた。
彼らは、やがてマリオ・ガルシア・コーリーが率いる『ユナイテッド・オーガニゼーションズ・フォー・ザ・リベレーション・オブ・キューバ(キューバ解放のための組織連合)』の中心メンバーとなる。
コーリーが登場し、「アメリカ政府の承認を得て、亡命政府が樹立される事になった!」と発表した。
大きな拍手が起こった。
コーリーは、「私の息子はマイアミのキューバ領事館に潜入し、主要なエージェントたちの名前を入手して、リストを作成した。それを帰る前に皆にお渡しする。」と告げた。
私は、(キューバの亡命政府の誕生という)歴史の1つの瞬間に立ち会ったと感じたし、アメリカ政治史の一端を担うことになると感じた。
CIA幹部のトレーシー・バーンズは、私を別室に連れて行き、こう説明した。
「CIAは、コーリーの構想を強力に後押ししており、カストロを失脚させて暫定政府を樹立させようと考えている。
少し面倒なことが起きている。
国務省が支持する亡命キューバ人たちは、コーリーを次期大統領にする計画にひどく反発しているのだ。
だからこそ、君に我々(CIA)の代理として、コーリーと活動を共にしてもらっている。」
私は納得がいかず、こう尋ねた。
「コーリーの計画がアイゼンハワー政権に認められているのであれば、問題は生じないはずです。
なぜ私が必要とされるのですか?」
バーンズは、こう説明した。
「コーリーは、右翼的なキューバ銀行家だ。
彼は、キューバに新政権をたてる構想を練り、キューバ内にレジスタンスを組織した。
彼自身もハバナに何度か足を運んでいる。
コーリーはアメリカにおいても、キューバ解放者軍を組織した。
CIAは、ディッグズを介してコーリーの計画を知った。
私の上司であるリチャード・ビッセルは、計画を大いに歓迎した。
ビッセルはコーリーの計画が実現されるように、武器を渡し、スパイの訓練に手を貸している。
現在では、キューバに侵攻する兵力をいつでも募れる状態にある。
だが、コーリーは作戦がCIAに支配されることに、断固として反対している。
『カネは出しても、口は出すな』というわけだ。」
CIAは、コーリーの計画を乗っ取ろうとしていたのだ。
バーンズは説明を続けた。
「CIAは、ディッグズに頼んで、コーリーをニクソン副大統領に会わせた。
ニクソン副大統領こそ、カストロ打倒計画の統轄者だ。
(ニクソンは、ホワイトハウスの軍事作戦担当官であり、5412委員会のトップでもあった)
実は、アイゼンハワー大統領は計画の全貌を知らされていない。
それは大した問題ではない。
なぜなら、もうすぐニクソンが大統領選挙で当選するからだ。
そして、キューバ侵攻が成功すれば、コーリーがキューバの大統領になる。」
私はこの驚くべき情報を消化しようと努めていたが、バーンズはさらに説明を続けた。
「この計画を挫折させないために、CIAは君を必要としている。
コーリーは助言できる男を欲しているが、彼はアメリカ政府を全く信用していない。
君は彼に信用されているから、その立場を維持してもらいたいのだ。
国務省が我々の計画に横槍を入れているが、コーリーにはまだ知らせていない。
もしコーリーが怒りを爆発させたら、すべては水の泡となる。」
私は自嘲ぎみに言った。「選択の余地はないようですね。」
(2016年1月3日に作成)