ハント対リバティ・ロビー裁判⑭
ハワード・ハントの証言② 反対尋問①

(『大がかりな嘘』マーク・レーン著から抜粋)

ハワード・ハントと弁護士スナイダーは、主尋問が終了すると、素晴らしい証言ができたという自信に満ちた顔をしていた。

だが、主尋問と反対尋問は全く違う。
証人としてのハントの力量が試されるのは、これからである。

反対尋問の技法については、多くの手引書が出ている。
だが重要なのは、事前に丹念に調査しておくことだ。

我々の準備に抜かりはなく、主尋問でハントが行った証言の大部分が、偽証だと論証できそうな気がしていた。

私は、ハワード・ハントへの反対尋問を始めたが、まずウォーターゲート事件を取り上げた。

Q あなたは(ニクソン)大統領再選委員会のメンバーと
  話をした事がありますか。

A 委員会メンバーのオブライアン氏と会った事があります。

Q オブライアン氏に、「それだけの金が要る。もらえないなら
  隠し事を暴露する」と言いましたか。

A 言いました。

Q オブライアン氏との会見について連邦大陪審で証言した際、
  「そのようなやり取りはなかった」と偽証しましたか。

A はい。

証拠を見れば、ハントが再選委員会に始めは5万ドルを要求し、その後に6万ドル、7.2万ドルとつり上げていった事が分かる。

私はハントに、彼がホワイトハウスから金を脅し取ろうとした際に書いた文書を見せ、こう質問した。

Q 次のような文書を書いた記憶がありますか。

 『ウォーターゲートの盗聴工作は、ホワイトハウス高官の指示に
  従って実行した不法行為の一例にすぎない。
  未だ暴かれていない犯罪は立証できる。』

A 記憶しています。コルソン氏に送った催促状でしょう。

Q あなたはホワイトハウスにこう言ったわけですか。

 『ホワイトハウスが犯した不法行為について、その犯罪の証拠を
  持っているので、請求した金は払ったほうがよい』

A そうです。刑務所に入る前に、家族が困らないように手を打って
  おこうとの足掻きでした。

Q これは、ゆすりですか?

A 違います。
  ゆすりとは強要のことで、権利のないものを不法な手段で
  入手しようとすることです。

  私が要求した金は、すべてウォーターゲート工作が開始された
  時点で約束されていました。

  それがどうです。首謀者たちは安全な場所に隠れ、私たちは
  刑務所行きです。

Q 我が国の法が定める強要とは、獲得する権利のあるなしに
  関わらず、何かを非合法な手段で手に入れようとする行為です。

  このことを認めますか。

A そういう強要の定義は初めて聞きました。

Q あなたが数十万ドルもの口止め料が取れると期待したほどの、
  重大な陰謀とは何だったのですか。

A 今になってみると、どうしてそんな事をしたのかはっきりしません。

  入獄の日が迫っていて、精神的に不安定な頃の話なので。

陪審員たちは、ハントの顔をまじまじと見た。

ホワイトハウスにあれほど執拗に金を要求しておきながら、その重大犯罪が何であったか思い出せないというのは、全く説得力がない。

陪審員たちは、ハントが大嘘をついていると気付いたのである。

私は次に、CIAが一般市民も狙って工作する事を、陪審員に知らせようと考えた。

CIAは法律的には国外でのみ活動することになっているが、実際にはお構いなしであった。

私はCIAの犠牲者として、ダニエル・エルズバーグ博士とレナード・ボウディン氏を取り上げた。

エルズバーグ博士は、ハーバード大を卒業後、南ベトナム駐在アメリカ大使の補佐を務めたが、ベトナム戦争の機密文書をいくつか入手した。

そして文書を上院外交委員会とニューヨーク・タイムズ紙に提供し、それが反戦運動の後押しとなった。

米政府は、エルズバーグを窃盗とスパイ防止法違反で起訴し、彼はボウディン弁護士に弁護を依頼した。

裁判の結果、嘘で固められた政府の主張は退けられた。

するとニクソン政権とCIAは、不法手段でエルズバーグとボウディンの評判を落とす工作を決定したのである。

Q あなたは、「エルズバーグ博士の信用を失墜させるための工作を
  仕掛けるべきだ」という主旨のメモを書いた事がありますか。

A あります。

Q それはあなたの提案した工作でしたか。

A 私が案を出してチャールズ・コルソン氏に照会したところ、
  実行しろとの回答を得ました。

Q あなたは次の文書を書きましたか。

  『エルズバーグの醜聞情報を入手し、ファイルにまとめる工作を
   提案する。それは彼の信用を失墜させる上で不可欠である。』

A 書きました。

Q あなたは、それと同様の事をされたといって、スポットライト誌
  を(リバティ・ロビー社を)訴えているのではありませんか。

A 比べられる事ではないし、法的意見を述べる用意もありません。

Q エルズバーグ博士の評判を落とす計画の一部として、
  彼の最初の妻に面会を求めることを提案しましたか。

A しました。

Q エルズバーグ博士に関する全ての資料を、FBI、CIA、
  CIC(陸軍防諜部)に提出させるよう、ニクソン大統領に
  提案しましたか。

A はい。

Q エルズバーグの精神分析医から彼のファイルを入手することを
  提案しましたか。

A はい。

Q CIAに対し、エルズバーグの心理評価を行うことを
  要請しましたか。

A それに賛成だったのは間違いありません。

Q あなたの証言記録の753ページをお見せします。

A オーケー。
  CIAに秘密の心理分析を行うよう、チャールズ・コルソンに
  要求しました。

  結局、実行されました。

Q あなたは、秘密工作でアメリカ市民の評判を落とすことが、
  正しい事だと思いますか。

A 当時は正しいと思いました。

Q 暗がりに隠れていて、自己弁護の機会も与えられないような
  やり方で、いきなり信望を毀損することが許されると思いますか。

A 当時は何の抵抗も感じませんでした。

Q エルズバーグに謝罪の手紙を出しましたか。

A いいえ。

エルズバーグ潰しの計画には、彼の精神分析医ルイス・フィールディングのオフィスに不法侵入し、エルズバーグの告白記録を入手するものもあった。

CIAやFBIは、この種の不法侵入による情報入手を「ブラック・バッグ・ジョブ」と呼んでいる。

Q ドクター・フィールディングに関しては、「ブラック・バッグ・
  ジョブ」が適当だと判断したのですか。

A FBIがやりたがらなければ、そうです。

  ご存知のように、ブラック・バッグ・ジョブはFBIのよく使う
  手口で、CIAも海外で情報を獲得する時に使います。

ハントは、フィールディングのオフィスに侵入するのを発案し、その実行を取り仕切った。

さらにハントらは、エルズバーグに関する嘘の情報をマスコミに流した。

そのことを尋問すると、最初はとぼけていたが、証拠文書を見せると話し始めた。

Q あなたはある会合で、「エルズバーグをマスコミで懲らしめる
  のも悪くない」と発言しましたか。

A はい。

Q エルズバーグの弁護士であるレナード・ボウディンの資料を
  揃えることを、コルソン氏と話し合いましたか。

A はい。

Q ボウディン氏に関するメモを書きましたか。

A はい。

Q それからどうなりましたか。

A コルソン氏が信頼するある人物の手に渡りました。

  そしてニューヨーク・タイムズが報道しました。

Q 実際はあなたが記事を書いたのではありませんか。

A 私が長いメモを書き、それをある人物が書きかえて自分の名で
  記事にしたのです。

Q 記事は、ジェリー・ターホースト氏の名で報道されたのですね?

A そうです。

ジェリー・ターホーストは、1961年から74年までデトロイト・ニュースのワシントン支局長を務め、74年にフォード政権の報道担当官に就任した。

Q 公的な金が不正な新聞記事を書くために使われ、しかも国民は
  ジャーナリストが書いたと信じる。
  こんな事が正しいと言えますか?

A あの状況では妥当だと思いました。今ではそうは思いません。

私は次に、ハントがケネディ大統領を敵視していた事実を掘り下げることにした。

Q ケネディ大統領に関して、偽情報を流した事がありますか。

A ありません。

Q ケネディに南ベトナムの指導者を殺した責任を負わせるため、
  公電を捏造する件でコルソン氏と話し合いましたか。

A はい。ニクソン政権は確かに、ケネディ政権を糾弾しました。

Q ケネディ政権が南ベトナムのジエム大統領の暗殺指令を出したと
  思わせるために、国務省の公電を偽造する計画を、
  コルソン氏と話し合いましたか。

A しました。

Q そうして、あなたが公電を偽造・捏造したのですか。

A (長い沈黙)ええ、そうです。

ハントは、ケネディの死後に、いわれなき殺人の罪をかぶせるために文書偽造をしたのである。

Q どんな方法で偽造したのですか。

A 私は国務省およびNSAのファイルを見て、ジエム大統領の死に
  関する全ての公電を調べました。

  すると一連の公電が抜き取られていて、『ケネディ図書館収蔵』
  の印が付いていました。
  それらの公電は、ボストンのケネディ図書館に引き取られていた
  のです。

  これを利用することにし、ジエム大統領の死に関してワシントンと
  ベトナムの間でやり取りされた公電を偽造したのです。

Q 偽造した公式電報をどう使ったのですか。

A まずタイプライターでコピーさせ、そのコピーをコルソン氏が
  信用するある人物に見せました。

  そしてタイム誌とライフ誌で紹介されたのです。

Q その人物とは、ランバート氏ですか?

A そう、ビル・ランバートです。

Q 電報が本物であると折り紙をつけて見せたのですか。

A (沈黙)その点については少し考えさせて下さい。

  ランバート氏は私のオフィスではなく、たしかコルソン氏の
  オフィスでコピーを見たと思います。

  私がコピーを手渡したのかもしれないが、記憶が定かでは
  ありません。

  本物だとほのめかして渡しました。

Q 一言でいえば、ケネディ政権が国家元首の暗殺に関与していたと
  見せかけるために、あなたが書類を捏造した。そうですね?

A その通りだと思います。

私はさらに尋問し、ハントは自分の所属するCIAがカストロ暗殺をするのを願っていたこと、CIAがソ連の指導者を暗殺しても彼が異論を唱える気はなかったことを証言させた。

陪審員たちはここまで見聞してきて、CIAとハントがケネディを殺害する動機と能力を持っていた事を信じ始めたようだった。

(2018年12月16日に作成)


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