(『ケネディ暗殺』ロバート・モロー著から抜粋)
トレーシー・バーンズから話を聞いた後、私はバーンズと共に、チャールズ・カベルCIA副長官のオフィスに行った。
オフィスには、CIA作戦担当副長官のリチャード・ビッセルもいた。
カベルは、ジョンソン副大統領から自分にあててきたメモを見せた。
そのメモには、こうあった。
「ケネディ兄弟は、ホワイトハウス内にケネディ王朝を打ち建てようとしている」
「マクナマラ国防長官は、新たな諜報機関の設立権限を与えられた。
設立は、ダレスCIA長官とリチャード・ビッセルを辞任させた時点で着手される」
「ケネディは、出所不明のCIAの資金を制限するように、上院予算委員会に依頼した。
諜報活動をCIAが支配するのを認めた『CIA設立許可書』の拒否も求めている。」
カベルがこの文書を私に読ませたのは、明白な計算があってのことだ。
(罠だ)、直感的に私は悟った。
カベルは、さらに別のメモも見せてきた。
ケネディ大統領から、弟のロバート・ケネディ司法長官にあてたメモだった。
「キューバ紙幣の偽造に関与している、全てのキューバ人およびアメリカ人関係者を逮捕してほしい。
知ってのとおり、CIAは私の命令を無視して、カストロ政権を打倒しようとしている。
紙幣偽造計画の情報をキューバ当局にリークするのも一計だろう。」
私は読んでから言った。
「これを裏切り行為とみなす人達がいるでしょうね」
続く30分間は、CIAの様々な報告書を読まされた。
ケネディが許可した作戦についてや、彼の夜の行状を克明に記した監視報告まであった。
ケネディに関して集められたデータは、徹底的かつ包括的だった。
読み終えた私は言った。
「それで、私の次の任務は?」
カベルCIA副長官は説明した。
「今日の午後、マリオ・ガルシア・コーリーとロバート・ケネディが会うことになっている。
コーリーは、キューバにあるミサイル基地について得られたデータを持っていくが、ロバート・ケネディが積極的に対応しなかったら、コーリーはテレビ会見を行って洗いざらいぶちまける。
記者会見をちらつかせれば、ケネディ兄弟もキューバにミサイル基地があると認めるはずだ。
コーリーに同行する人物として、君に白羽の矢がたった。
第二の依頼は、少しばかり複雑だ。
(ケネディは止めようとしているが)キューバ紙幣の偽造作戦は、我々は続行する。
うまく行けば、秋になる前に目的は達成できるはずだ。
ケネディは関係者を逮捕したがっているから、偽造の作業場を君のボルティモアの研究室に移したい。」
私は尋ねた。「危険ではありませんか?」
この質問には、リチャード・ビッセルが答えた。
「大丈夫だ。裏工作はコーリーがやるし、資金も彼が集める。
彼は自分がコントロールしている作戦だと思い込むだろう。
そう思わせておけばいい。
紙幣偽造でキューバ経済を破綻させれば、こちらの望む条件でカストロと渡り合える。」
その後、私はCIAの特別仕様車で、コーリーと共に司法省に向かった。
この車は、黄色のビュイックで人目を引かない外装だが、無線電話が付いており、スーパーチャージャー付きなのに騒音が全く無かった。
コーリーを司法省に届けると、私は外で待った。
少しするとコーリーは戻ってきて、車に乗り込むなり「テレビ局まで頼む」と言った。
テレビ局に着くと、トレーシー・バーンズが待っていて、こう言った。
「ロバート・ケネディは、コーリーの逮捕を命じた。
司法省にいるカベルの情報源によると、彼はコーリーを大嘘つきと呼び、ミサイル基地の話はでっち上げだと非難したそうだ。
ロバートは、写真も解析データも本物と認めようとしない。
何か妙なことが起こっている。
コーリーの用が済んだら、彼をこの街から連れ出してくれ。
カベルからの命令はこうだ。
『テレビ会見が終わり次第、コーリーをフロリダに送れ』」
バーンズはすぐに去り、15分したらコーリーがテレビ局から戻ってきた。
その後、私とコーリーは、CIAの専用飛行機でオパ・ロッカに向かった。
離陸すると、コーリーが口を開いた。
「そろそろ白状してもいいだろう?
いつからCIAのために働いている?」
「今日、正式に契約を交わした。
俺はあんたの味方だ、ケネディ兄弟に手出しはさせない。」
「よく言ってくれた。感謝する。」
(※ジョンソン副大統領のメモにあった新たな諜報機関「DIA」は、1961年の晩秋に、国防省の支援と支配の下、ロバート・マクナマラ国防長官によって設立された。
アレン・ダレスは61年11月にCIA長官を辞任し、リチャード・ビッセルも12月に辞職した。)
(2016年4月1日に作成)