(『大統領の検屍官』シリル・ウェクト著から抜粋)
1987年の春に、「赤い服の女」として有名なジーン・ヒルに紹介された。
彼女は、ケネディ大統領が狙撃されたパレードで赤いドレスを着て立っており、映像でも目立っている。
ジーンは、こう証言する。
「私がグラシー・ノールを見ていた時に、銃弾が発射されたの。
銃を持っている2人の男が見えたわ。1人はフェンスの後ろに居た。
弾丸が発射された途端に、2人は逃げ始めた。
私は本能的に、2人の後を追ったわ。
するとトレンチコートを着た2人の警官が私を捕まえて、力ずくでダラス郡記録保存所の方に連行して尋問を始めた。
警官にグラシー・ノールの男達のことを告げると、彼らは私を咎めて、厳しい警告を発したわ。
『見た事については、口をつぐんでいたほうが賢明だな』と。」
1989年6月14日に、私はトム・ウィルソンという人物から手紙をもらった。
トムは、USスチールでコンピュータ・アナリシスとイメージ・プロセッシングの仕事をしていたが、すでに退職していた。
トムはコンピュータを使って、グラシー・ノールに第2の狙撃者がいたのを立証できると云う。
私は興味をそそられ、オフィスに来てもらう事にした。
6月21日に、トムはやって来た。
彼は、USスチールで、金属に光を当てて傷を調べるコンピュータ・プログラムを開発し、活用していた。
人間の眼は、白と黒の間の灰色を、30種類しか見分けられない。
だがトムのコンピュータは、256種類で識別できる。
トムは、灰色の色調を一層一層とりのぞけるようにプログラムした。
一層のぞかれるごとに、写真からその色調は消え、人間の眼によりはっきり見える映像が残る。
彼は、メアリー・モーマンが撮った、『大統領が撃たれた瞬間にグラシー・ノールを撮った写真』を、コンピュータで試したのだ。
すると、バッジを左胸に付けた男の姿があらわになった。
バッジにはワシの頭が描かれている。
男の右の胸ポケットの上には、認識票が付いている。
「オリジナルの写真さえあれば、認識票から男の名前が分かるかもしれません」と、トムは言う。
さらに灰色の層を消していくと、銃らしきものが見え、男の髪がぼさぼさで左側で分けていること、左頬に小さなあばたがあるのも分かった。
トムはザプルーダー・フィルムも調べており、ケネディの頭に銃弾が命中した瞬間のコマを出した。
灰色の層をいくつか消すと、ケネディの上着の首の辺りに、穴が見つかった。
「これは(別の)弾丸が入り込んだ個所です。
上着の繊維が内側に入っているでしょ。
つまり、ケネディは前方から撃たれたんですよ。」
と彼は解説した。
トムの話では、ベセスダ海軍病院で撮られたケネディの検屍写真の何枚かには、ごまかしや修正があるらしい。
彼のプログラムを使うと、形成外科手術の跡や、皮膚そっくりに作られた偽物が見分けられたという。
(2014年12月7日に作成)