子供の頃の思い出⑤ 初恋の前の恋①
転校生のQさんの大胆さに驚く(前半)

今回の話は、私が小学4年生の時に出会った、ある同級生とのエピソードです。

彼女は実に変わっていて、爽やかでとても大胆な人でした。

彼女については、今から振り返ると、とても良い思い出です。

私が小学4年生のある時に、『Qさん』は転校してきて、私のクラスに加入しました。

時期は、はっきりとは憶えていません。
たぶん、2学期の最初の日に現れたと思います。

彼女は、とても色黒で、女子の中では際立つほどの黒さでした。

外で遊ぶのが好きな女子には、色黒の子もいましたが、彼女はその中に入っても目立つくらいの黒さで、それがまず個性的でした。

他に特徴的だったのは目で、細くて少しつり上がっており、朝鮮系の人みたいな目でした。

私は、「なかなか目立つタイプの子だなあ」と思ったのですが、彼女は私の隣りの席になりました。

転校生が新しい環境に馴染むのには苦労する事は、今までの転校生たちを見て知っていたので、私は出来るかぎりのサポートをする事にしました。

先生に、「生平(私の旧姓)君、教科書を見せてあげてね」と言われたので、机をくっつけて教科書を真ん中に置き、Qさんと一緒に見る事にしました。

彼女は教科書を持っていましたが、そのうちの半分くらいは私達の学校で使っている教科書とは違うものでした。

彼女が授業を受けながら戸惑っていたので、「今やっているのは、ここだよ」とか言って、授業の進捗状況を説明してあげました。

そして、彼女が理解していない所は、出来る限り教えてあげました。

1週間くらいしたら、Qさんは新しい教科書を揃えてきたので、机をくっつけるのは止めました。

Qさんは、実に活発な子で、男子にも平気で声を掛けていくような人でした。

普通の女子は、男子と接する時には、ぶりっ子したり壁を築いたりと、自然体ではありません。

ところが彼女は、女子に対する時も男子に対する時も、態度を変えないのです。
そんな人は見た事が無かったので、心底から驚きましたね。

私は、Qさんの積極性や明るさに、衝撃を受けました。
他の女子とは生き様が違い、人生に対する態度が普通とは異なっている印象を持ちました。

彼女があまりにも自分のペースを貫くので、私は徐々に「もしかしたら、彼女は宇宙人なのかもしれない」と思い始め、しばらくは信じ続けていました。

転校生なのに物怖じをしないため、クラスの男子のうち、悪ガキ・グループは「あいつは、生意気だ」と言い出しました。

体育の授業になると、彼女の運動神経がはんぱではない事が判明しました。

足の速さが女子の中ではダントツで、男子と比較しても上位に食い込むレベルなのです。

私は、「凄い運動神経だなあ」と感心しました。

Qさんは、手足がとても長くて、スラーッとしたスリムな体型をしており、走り振りがとても様になっていました。

プロの短距離選手みたいに、しなやかなフォームをしており、他の女子とは次元が違っていました。

小学4年の頃は、普通の子供はまだ『頭は大きく手足は短い』という、バランスの悪い体型です。
そんな中で彼女は、大人に様にバランスのとれた体型のため、ひどく目立ちました。

口の悪い男子は、「手足が長くて、あいつは猿みたいだ」と、ひやかし半分で言いました。

今から思えば、Qさんはものすごくスタイルが良かったのだと分かります。
あの感じからすると、大人になってからは、モデル並みの足の長さと、身体全体のバランスの良さを獲得していると思います。

しかし、あまりに皆と体型が異なっていたので、私のクラスでは気味悪がられていました。

Qさんについて忘れられないのは、「走り高跳び」の授業です。

彼女が転校してきて2週間くらい経ったある日に、体育の授業で走り高跳びをする事になりました。

私たちは、それまで一度も走り高跳びをした事がなく、初めての体験でした。

砂場で行ったのですが、走っていってバーを跳び越し砂の中に落ちるという行為に、女子達はビビッてしまい、「怖い」とか言ってやろうともしません。

そこで男子から始めたのですが、初めてだったのもあり、皆が苦戦しました。

男子が全員終えた時点で、最高の記録は80cmでした。
私は、75cmでした。

女子の挑戦が始まると、女子のほとんどはビビッており、ろくでもない記録ばかりです。
私たち男子は、「やはり女子は根性なしだ」などと思いつつ見ていました。

そしてQさんの番になったのですが、彼女はとてつもないバネをしており、ぐんぐん記録を伸ばしていきます。

そして何と!! 90cmを「パーン!」と跳んでしまったのです。

クラスの全員が、本当に唖然としました。

男子の悪ガキ・グループは、「あいつはおかしいよ。やっぱり猿だよ。」とか「色黒だから原始人なんじゃないか?」などと、陰口を叩きました。

男子にしてみると、女子に最高記録を出されて面目が丸つぶれの状態であり、嫉妬を込めた悪口を言ってごまかすしかなかったのです。

私はそうした陰口には同調せず、「すごい転校生が来たものだ」と、ただただ驚きました。

私は、Qさんと隣りの席だった事もあり、Qさんとどんどん仲良くなっていきました。

私としては、彼女と特に仲良くなりたかった訳ではなく、転校生が馴染めるようにサポートをしているつもりでした。

Qさんは、とてつもなく目立っていて、あまりに活発な人だったために、女子からも敬遠されてしまい、友達ができない状態が続いてました。

孤立しているので、やがて男子の悪ガキ・グループは、「猿」とか「原始人」とか言って、いじめるようになりました。

ひどい奴になると、「バイ菌」とまで言う事もあります。

私は、「かわいそうに…」と心配しながら見ていましたが、彼女は強い人で、少なくとも表面上は元気にふるまっていました。

彼女の気持ちの強さと、いじめられても屈託のない明るさを失わない姿勢に、感銘を受けました。

私は1度、「やめようよ。彼女はまだ馴染んでいないんだから、温かく接してあげないと。」と言ったのですが、彼らは聞こうとはしませんでした。

2ヵ月くらい経っても、女の友達がほとんど出来ないので、私は心配のあまり一緒にいてあげる時間を増やしました。

そうしたところ、Qさんはすっかり私に懐いてしまったのです。

彼女は飾らない性格のため、私への好意を隠そうともせず、「生平君は優しいから好き」と、告白まがいのセリフまで言ってきます。

私は恥ずかしさで一杯になり、「やめろよ」と言うしかありませんでした。

彼女の「好き」という言葉には、明らかに恋愛感情が込められていました。
彼女は、孤立している状況でいじめられているのに相手をしてくれる私に、特別の感情を抱いたようです。

私は、恥ずかしいのと、彼女の気持ちを認めると友情を続けられなくなるのとで、彼女の言葉を「私の友情への感謝の気持ち」と、強引にねじ曲げて受け取ることにしました。

私とQさんが仲良くしているので、悪ガキ・グループは私にもちょっかいを出し始めました。

「何であんな奴と仲良くするんだよ。あいつは猿だしバイ菌なんだぞ。あいつに関わっても良い事なんかないぞ。」と言うのです。

彼らの主張は明らかに偏見に満ちており、私の同調できるものではありません。

そこで無視していると、「お前は、あいつと付き合っているのか。女と仲良くするなんて、根性なしめ。」などと言い出す始末です。

私は、困ってしまいました。

今から振り返ると、悪ガキ・グループは私に嫉妬していたのでしょう。

Qさんをいじめている彼らには、どこかQさんを気にしている感じがありました。

彼女はとにかく目立っていたので、彼女に認めてもらいたいという深層心理があったのだと思います。

私は当時は、そうした彼らの隠れた意図は見抜けず、ただひたすら困っていました。

そんな困っていた、ある日の事です。

私は休日に、友達のZ君と遊んでいました。

私たちは自転車に乗って、通っている小学校のグラウンドで遊ぼうと思い、向かいました。

すると学校の校門の前で、ばったりとQさんに会ったのです。

Qさんと学校の外で会うのは、初めてでした。

私は、「よおっ!」と言って、ブレーキを「キッー」とかけて、彼女から5m位の位置に止まりました。
私が止まったので、Z君も隣に止まりました。

Qさんも自転車に乗っていましたが、ほとんど止めている状態でした。

私はとても驚いたのですが、彼女の後ろには『金魚のフンの様に、小さな子が2人、付き従って』いました。

1人は小学2年生くらいの子で、もう1人は5才くらいの子です。
小さい方は、補助輪をまだ付けていて、「ガラガラ」と音をたてながら走っていました。

1人は男の子で、もう1人は女の子です。

彼女は、いつもは強気で元気一杯なのに、珍しく恥ずかしそうに照れており、どうも弟や妹と居るのを見られたのが恥ずかしい様でした。

彼女は、ただ黙って私を見つめました。

私は、彼女の我が道をいく性格や人の評価を気にしない態度から、「彼女は一人っ子なのだろう」と想像していました。

だから、弟と妹が居るのが不思議な感じがして、「お前って、弟と妹がいるんだなあ」と声を掛けました。

すると彼女は、自転車に乗ったまま、地面を蹴り蹴りして近づいてきました。

この時に、とんでもない事が起きました。

私は本当にびっくりしたのですが、彼女が近づいてくるのを見たZ君は、いきなり「うわ~! バイ菌が近づいて来るー!」と言って、猛スピードで逃げ出したのです。

Z君は、何処かに向けて、凄い勢いで走り去っていきました。

私は、Z君の後ろ姿を見送りながら、(そんな事をしたら、Qさんが傷つくじゃないか)と思いました。

私が逃げないのを見たQさんは、「生平君は逃げないんだね」と嬉しそうに言いました。

その後、2分ほどQさんと何気ない会話をしました。

内容は憶えていませんが、「俺も弟がいるんだよ」「そうなんだあ」「お前の弟は小さくてかわいいなあ」などと話した気がします。

それで、Z君が何処に行ったかも分からないし、私は家に帰る事にしました。

「俺は家に帰るよ、じゃあな」と彼女に言い、帰路に着きました。

ここで、再びとんでもない事が起きました。

私はごく普通に自転車を自宅に向かわせていたのですが、何となく気配を感じて後ろを振り返ったところ、何と!!
Qさんが付いて来ているではありませんか!

私は心底からびっくりしてしまい、「おい! 何で付いて来るんだよ!」と怒ったように言いました。

しかし彼女は返事をせずに、ただ黙ってニコニコしながら、付いて来るのです。

私は、「Qさんは変わっている人だと思っていたけど、ここまでとは! 何て奴なんだ!」と、半分は呆れ半分はビビりました。

当時に住んでいた家は、学校から自転車で1分半の距離でした。

私は(このままでは、彼女は家まで付いてきてしまう。どうしよう。)と思い、頭をフル回転させて対応策を考えました。

(家とは違う方向に走っていって、どこかで彼女をまこうか)とも考えたのですが、それをしたら彼女が傷つくような気がして、しない事にしました。

それで、あれこれと考えている間に、自宅に着いてしまいました。
仕方がないので、自転車をしまって家に入ろうとしました。

そうしたところ、付いてきていた彼女は自転車を止め、嬉しそうな表情で「へえ~、ここに住んでいるんだー」と言って、私が住んでいるボロっちいアパートを、興味深げに上から下までじっくりと観察するのです。

私の家庭は、しばらく前に両親が離婚して、母子家庭になっており、貧しい状態でした。

そのために住んでいる家は、ボロボロの1階建ての見るからに家賃の安い感じのアパートでした。

その当時は、あまりに貧しくて家の中に何も無いので、両親が離婚するまでは家によく友達を呼んでいたのに、ぜんぜん呼ばなくなっていたくらいです。

自分の家が女子に発見される時点でもめちゃくちゃ恥ずかしいのに、さらに家がボロボロのアパートなので、恥ずかしさで一杯になりました。

私は、自分の裸を見られてしまったような心境になり、承諾なしに勝手に付いてきた彼女の態度に怒りを覚えました。

そこで、「もう帰れよ!」と怒った口調で言いました。

彼女は大して動じた様子もなく、ニコニコしながらアパートや周りの景色を見ています。
そのうちに、少し引き離されていた彼女の弟と妹も、到着しました。

何を言っても無駄な感じだったので、私はそのまま彼女を置いて、家の中に入りました。

家の中まで追いかけてくるのではないかと、びびっていたのですが、どうやらそのまま帰っていったようです。

私は、「ホッ」と胸を撫で下ろしました。

しばらくの間、(彼女が家の外にまだ居るんじゃないか)と息をひそめていました。

私は、想像した事もない行動をとる同級生の女子に、心臓がバクバクし目まいまで覚えました。

その後、彼女の行動を反芻して、「何という女なんだ! あんな女には会った事がない。どう対応していけばいいんだ!」と悩みました。

私はすっかり動揺していましたが、この後にさらに展開が続いていくのでした。

(後半に続く。続きはこちらです。)

(2013年8月28日~29日に作成)


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