(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
🔵セルパン
セルパンは、1590年にフランスで、エドメ・ギヨームによって発明された。
この楽器は木製だが、発音体はマウスピースである。
だから口唇で音程をコントロールする。
曲がりくねった形をしており、音孔がある。
セルパンは、コルネット属のバス音域の楽器として作られた。
そして教会で合唱の伴奏をつとめた。
18~19世紀になると、セルパンは吹奏楽団でよく使われた。
ハイドンはオラトリオ「天地創造」に、ベルリオーズは「幻想交響曲」に、セルパンを使っている。
オフィクレイドやチューバが低音楽器として登場すると、セルパンは使われなくなり、19世紀末に姿を消した。
ただし現在では見直されて、演奏されるようになっている。
🔵チューバ、オフィクレイド
チューバは、金管楽器で最も大きく、金管セクションで最低音域を担う楽器である。
チューバの登場で、それまで人気のあったオフィクレイドなどの楽器は姿を消した。
古代ローマでは、長くまっすぐ伸びた金管楽器を「チューバ」と呼んでいた。
だがこの楽器は、かなり高い音を出していたと推測できる。
オーケストラという編成がヨーロッパで誕生した頃、最低音域はセルパンが担当していた。
セルパンは、より明るくて芯のある音を求めて、改良が行われた。
しかし演奏が難しかった。
そこで1810年代に、キー式のビューグル(軍隊用のラッパ)を低音楽器に改造する試作が始まった。
こうして生まれたのが「オフィクレイド」である。
オフィクレイドを考案したパリに住むアラリは、1817年に特許を取得した。
オフィクレイドは、高音は豊かに響き、低音はざらついた音である。
他の金管楽器と違和感なく調和できた。
ベルリオーズ、メンデルスゾーン、シューマン、ヴェルディは、オフィクレイドのパートを入れている。
特にベルリオーズは好んで用い、「レクイエム」では4本のオフィクレイドを使い、「幻想交響曲」ではオフィクレイド2本とセルパン1本を組み合わせて多彩な低音にしている。
ただし良質なオフィクレイド奏者は少なく、ベルリオーズは『回想録』で「パリでも優秀なオーケストラにふさわしいオフィクレイド奏者は3人ほどだ」と書いている。
オフィクレイドの弱点は、キーが磨耗しやすいことと、指使いが他の金管楽器と全く異なることだった。
1835年にヨハン・モーリッツとヴィルヘルム・ヴィープレヒトが、「バス・チューバ」を作った。
これはオフィクレイドの流れをくんでおり、ヴァルヴを装着していた。
バス・チューバは普及していったが、かなり長くオフィクレイドも使われ続けた。
ベルリオーズは『回想録』にこう書いている。
「バス・チューバは、音色もメカニズムも音域もオフィクレイドと違う、パワフルなヴァルヴ式の楽器だ。
金管の中で、弦楽器のコントラバスと同じ位置にある。」
ベルリオーズは、「オフィクレイドの敏捷性も捨てがたい」として、チューバとオフィクレイドの両方を入れるよう説いている。
19世紀の後半になると、チューバはオーケストラの一員として認められ、金管セクションの低音担当となった。
チューバの参加は、ロマン派のオーケストラの仕上げとなった。
多くの作曲家は、チューバがコントラバスと溶け合うように工夫し、高音域ではフレンチホルンと融合させている。
チューバはトロンボーンとも密接だ。
チューバの低音はよく響くので、バス・パートを補強できる。
中~高音はよく通るので、旋律的なパッセージが割り当てられる。
🔵ワーグナー・チューバ
ワーグナー・チューバは、フレンチホルンとチューバの中間的な楽器で、作曲家のワーグナーが作らせたものだ。
ワーグナーは 「ニーベルングの指環」の第1部「ラインの黄金」において、自分の望む音を実現するため楽器メーカーと相談を始めた。
だが「ラインの黄金」の初演には間に合わず、別の楽器で演奏された。
その後、ゲオルク・オッテンシュタイナーが作ったワーグナー・チューバ4本が、1875年の公演で使われた。
構想から楽器の完成まで20年以上かかった。
ワーグナー・チューバは、テノール(Bb管)とバス(F管)がある。
ホルンと似ているので、ホルン麦者が演奏を担当している。
ただし、ワーグナー・チューバはベルが上を向いているので、ホルンのように右手で音程を変えることはできない。
ワーグナー信奉者のブルックナーは、交響曲7~9番でワーグナー・チューバを使っている。
ちなみにワーグナーは、金管セクションの音域拡大のために、バス・トランペットやコントラバス・トロンボーンの開発にも関わった。
(2023年8月29日、2024年11月9日に作成)