(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
🔵シンバル
シンバルの歴史は古い。
古代ギリシア時代のシンバルがいくつか現存している。
それは直径は9cmである。
古代ローマ時代のものは、直径41cmのものがポンペイの遺跡で見つかっている。
中世ヨーロッパでは、シンバルは舞踏音楽や軍楽隊でたまに使われる程度だった。
ところが1680年にドイツ人の作曲家ニコラウス・シュトルンクが、オペラ「エステル」で使った。
シンバルのクラッシュ音がオーケストラに登場したのは、これが最初である。
シュトルンクの「エステル」で大きなシンバルを鳴らしたことから、徐々にシンバルはヨーロッパで人気が出た。
18世紀には、シンバルやタンバリンを打ち鳴らす「ジャニサリー・ミュージック」という、トルコ式の軍楽隊の音楽が流行した。
19世紀になると、シンバルはオーケストラにも定着し、打楽器セクションの1つとなった。
奏者は、作品に合う音のシンバルを選定して鳴らしている。
「クロタル」という小さなシンバルが使われることもある。
作曲家のワーグナーは、長くとどろくようなシンバル音を要求し、スティックで連打する方法と、2枚のシンバルで縁をこすり合って出す方法を使った。
シンバルでは、金属製の鋲(リベット)がゆるく打ち込まれた、「シズル・シンバル」も登場している。
これは残響音が短めの独特な音が出る。
🔵スネアドラム
スネアドラムの原型は、「テイバー」という中世ヨーロッパの小太鼓だと思われる。
テイバーは、底面の皮に接するように「スネア」と呼ばれるガット(羊腸)の響き線が張られていた。
スネア(響き線)が付いていると、音が華やかになり、音程は複雑になる。
これがスネアドラムの特徴である。
スネアドラムは、「サイドドラム」とも呼ばれる。
これは軍隊で使われて、身体の側面(サイド)に装着して、歩きながら演奏したことに由来する。
スネアドラムを初めて用いた作曲家の1人に、ヘンデルがいる。
1749年に「王宮の花火の音楽」で数台を用いた。
この曲ではスネアドラムをティンパニと共に鳴らし、軍隊的な雰囲気を出している。
ラヴェルの作曲した「ボレロ」(1928年)では、スネアドラムが一定のリズムを刻み続ける。
なおオーケストラで使うスネアドラムは、厚さは20cmほどが多い。
マーチング用は、オーケストラ用よりも少し浅い。
🔵テナードラム
テナードラムは、大きさも音もスネアドラムとバスドラムの中間くらいで、よく響く重い音である。
響き線は付いていない。
テナードラムのサイズは様々だが、バスドラムよりは高い音で、スネアドラムよりも深みのある音だ。
輪郭のぼやけた、独特の鈍い音がする。
オーケストラだと深さは50cmくらいがよく使われる。
1837年にコーネリアス・ウォードが、ボルトを使ってヘッドを張るシステムを考案したが、すぐにテナードラムにも取り入れられた。
🔵バスドラム
バスドラムのルーツは中東(西アジア)で、オスマン・トルコ帝国の軍楽隊で使われていた。
このため「トルコ・ドラム」とも呼ばれた。
西ヨーロッパに輸入されたのは18世紀である。
バスドラムを胸に抱えるような形で紐で身体に固定して、行進しながら叩くトルコの楽団を、ヨーロッパの楽団も真似したのである。
バスドラムをオーケストラに最初に用いた例の1つが、ハイドンの交響曲第100番である。
1803年にパリでこの曲が演奏された時、バスドラムの音はホール全体に鳴り響いた。
当時はおそらく、柔らかい球のマレットではなく、短めの硬いスティックで歯切れよく演奏されただろう。
モーツァルトやベートーヴェンもバスドラムを使っており、モーツァルトはオペラ「後宮からの誘拐」、ベートーヴェンは「ウェリントンの勝利」が挙げられる。
18世紀の初めになると、作曲家たちは、柔らかい球が先端についたバチで叩くよう要求し始めた。
ベルリオーズは、ただ強拍で叩き続けるとか、シンバルと同時に鳴らすのをよしとせず、意表をつく使い方をした。
リストは、交響詩「人、山の上で聞きしこと」(1849年)で、バスドラムのロール奏法を使ったが、クラシック音楽では初めてのことだった。
現在では、オーケストラで使われるバスドラムは、直径1m、厚み50cmが一般的である。
スタンドを用いて、叩きやすい角度にセットしている。
バスドラムは、両面に皮が張られるが、張りの強度が異なり、片面を打つともう片面も振動して、明確な音程にならない。
これに対し片面だけに皮を張る「ゴング・ドラム」は、音程がある。
20世紀の初頭に、ペダルを足で操作して鳴らすバスドラムが登場した。
これはドラムセットに入れられ、ジャズやロックで使われている。
(2023年9月4&29日、12月31日に作成)