(『図説 楽器の歴史』フィリップ・ウィルキンソン著から抜粋)
🔵クラリネット
クラリネットは、1700年頃にニュルンベルクのヨハン・デンナーとその息子ヤコブが考案したとされている。
デンナーが最初に作ったのは、「シャリュモー」という楽器を改良したものだった。
シャリュモーは、魅力のある音色だが音域が狭かったので、デンナーはキーを追加した。
クラリネットは、レジスター・キーという特別なキーのおかげで、高音域まで出せる。
レジスター・キーは、1オクターブ半(12度)上の音にすることが出来る。
改良はさらに行われて、キーを追加したり、音孔を大きくして低音域が鳴りやすくなった。
18世紀末には、マウスピースとバレルが分かれたものが製作されるようになり、音程の微調整がしやすくなった。
1740年代に、作曲家のヨハン・メルヒオール・モルターが最初のクラリネット協奏曲を書いた。
モーツァルトは、クラリネットの魅力を存分に引き出した最初の作曲家で、友人のクラリネット奏者アントン・シュタードラーのために曲を書いた。
クラリネット奏者のイワン・ミュラー(1786~1854)は、それまで音孔をふさぐパッドはフェルト製だったのを、革製に改良した。
これにより、パッドの密閉性は大きく向上した。
さらにミュラーは、金属製のねじでリードを固定するリガチャーも考案した。
テオバルト・ベームは、フルートのメカニズムを改良した人である。
クラリネット奏者のイアサント・クローゼは、この改良に注目し、ルイ=オーギュスト・ビュッフェと共同でクラリネットに採用した。
こうして生まれたものを、「ベーム式クラリネット」と呼んでいる。
ベーム式の特徴は、リング・キーを用いることで、1つの指の動きで2つの音孔を閉じることができる。
これは1843年に誕生したが、運指が楽になり、現在では標準規格になっている。
19世紀になると、クラリネットの表現力の高さが評価されて、ほとんどの作曲家がオーケストラ作品でクラリネットにソロを吹かせるようになった。
ブラームスは、友人にリヒャルト・ミュールフェルトというクラリネットの名手がいたので、クラリネットの曲をいくつも書いた。
これは、モーツァルトの作品と並んで人気が高い。
現在よく使われているのは、A管とB♭管のクラリネットである。
高音域用のE♭管や、低音域用のバス・クラリネットも使われている。
A管とB♭管は非常に似ていて、同じマウスピースを付け替えて演奏できる。
つまり持ち替えが容易である。
バセット・クラリネットという、クラリネットより低い音域まで出せるものがある。
モーツァルトの曲は、バセット・クラリネットのために書かれたものがある。
クラリネットは、ジャズの世界でも大活躍してきた。
特に1930~40年代のスウィングジャズでは、ベニー・グッドマンやアーティ・ショウなどのクラリネット奏者が人気を博した。
🔵バス・クラリネット
バス・クラリネットは、クラリネットよりも1オクターブ以上低い音域の楽器である。
クラリネットよりもかなり大きく、深みのある音色で豊かに響く。
主にオーケストラで使われ、木管セクションの低音を担う。
一番下にエンドピンが装着されており、床に置いて演奏することができる。
1790年代にドイツのハインリヒ・グレンザーは、通常のクラリネットよりも1オクターブ低いB♭管のバス・クラリネットを作った。
外見はファゴットに似ていた。
バス・クラリネットは、やがて作曲家に認められ曲に使われるようになった。
1830年代に、現在のバス・クラリネットと同じ形状のものが登場した。
アドルフ・サックスはこれを音の良い演奏しやすいものに仕上げた。
彼の作ったものは、今でも愛用されている。
ロマン派の作曲家が使ったことで、バス・クラリネットは19世紀後半にオーケストラの常駐メンバーとなった。
ワーグナーはこの楽器を好み、B♭管よりも低い音域のA管を使うよう指定している。
A管は、B♭管よりも少し長くしてあり、 キーを追加している。
ロシアではさらに低い音域のものが製作され、プロコフィエフやショスタコーヴィチが使っている。
バス・クラリネットの特徴として、非常に静かな音を出せる。
チャイコフスキーの交響曲第6番は、ファゴットのソロに「PPPPP」と書かれている。ファゴットよりもバスクラのほうが静かな音を容易に出せるので、現在はここはバスクラが担当している。
(2023年9月7日に作成
2024年11月12日にバス・クラリネットを加筆)